第九十二話 エルフの先祖
第五章 過去の遺物
第九十二話 エルフの先祖
知っている魔力を感じると同時に、此処にはとても見覚えがあった。俺達が初めて神秘の森の奥まで入った際に、ウェアウルフと戦った場所。その近くにあった、魔王軍幹部のスラウが魔物を引き連れて占拠していた洞窟だ。
俺とカリアがスラウと戦っている間に、エルフの精鋭達が魔物を一掃してくれていた。そのため、今は洞窟内部に魔物はいない。
スラウ達は此処の存在を知っていて、洞窟を占拠したのだろうか?
エルフの里に攻撃を仕掛けていたが、その内容はエルフを誘拐するという行為だった。もしかすると入り口を見つけられず、場所を聞き出そうとしていた可能性がある。
スラウはすでにいないので憶測となってしまうが、あれだけの技術が詰まった部屋だ。魔王軍が狙ったとしてもおかしくはない。
「こっちだ」
「神秘の森なのでしょう? 本当に大丈夫なのですか?」
俺達が先導していると、後ろの研究者から質問が飛んできた。
「彼等ならば大丈夫ですよ。カリアさんはエルフですし」
同じく後ろにいたベラルがそれに答える。フスト王国との戦争の際に、彼は一度俺達と共にこの森を抜けている。彼の言葉に納得した研究者は、歩くことに集中し始めた。
ここは木々が生い茂った森だ。旅に慣れていない彼等にとっては、歩くだけでもかなり疲労する地面だろう。ミリアが認識阻害の魔法を使ってるおかげで、魔物と遭遇することがない。遭遇したとしても、雑魚なので問題ないのだが。
「本当に外に出れましたね」
「このままソルトまで行く」
幸いにもまだ太陽は頭上にあったので、暗くならない内に町まで辿り着けるだろう。喜んでいる研究者達には申し訳ないが、もう少し頑張ってもらう。
彼等も陽が沈む前に町に着いた方がいいと分かっているようで、黙々と後ろを付いてきた。
「ようやく着きました」
「大変でしたね」
「足がもう動きません」
町に着くなり、三人はすぐに地面に座り込んでしまった。宿まで向かわないといけないのだが、すぐに動く気はないようだ。
「町の中ですし、問題ないでしょう」
フランは軽くそう言いながらも、来た道を見ていた。一応警戒はしているようである。
「宿を取ってきます」
ベラルがそう言い、一人で進んでいく。三人を放っておく訳にはいかないので、宿の確保は彼に任せることにした。
「クロウ、少しいいか?」
その日の夜、夕食を取っていた俺はカリアに部屋へ来るように言われた。夕食の席で誘ってくるということは、二人だけの方がいいのだろう。
「何故神秘の森に…」
「あの魔力は…」
「技術力が…」
研究者達は今日の出来事を話し合うのに、夢中になっていた。ベラルは気にせず食事に集中し、フラン達は気付いていただろうが食事を続けている。
「何の用だ?」
「実は…」
近くに誰もいないのを確かめてから、カリアが扉を閉める。かなり警戒しているようだ。
「あの部屋の魔力と、神秘の森の魔力は同じだと思う。恐らく、エルフに関係しているのだろう」
話す内容は、確かに誰にも聞かれる訳には行かない内容だった。彼女がこれだけ警戒している理由も分かる。仲間達ならば問題ないだろうが、研究者達に聞かれてしまってはエルフの里が危険に晒されてしまう可能性があった。
あれだけの技術力を見た後だ。エルフが関係していると知れば、彼等は躊躇なく調査や研究を始めるだろう。国が彼等に支援するとなると、潤沢な資金が支給される。強力な冒険者や兵士が押し入って来る可能性がある。
エドラスならば無理に里へ踏み入ることはないと思うが、絶対とは言い切れない。あの技術力が手に入れば、国の戦闘力は大きく上昇することになる。
彼ならば、国のために俺達と敵対してくる可能性は大いにあった。彼は私利私欲を捨てて、国のために行動できる人物なのだ。
「長老様か精霊様に聞いてみるといいかもしれないな」
「そうだな」
勿論、その時は研究者達やベラルは連れて行けない。俺達だけで神秘の森へ戻ることになるだろう。
「戻るか」
どちらにしろ、怪しまれる前に戻った方がいい。
俺達が戻ると、宴会騒ぎとなっていた。研究者達は慣れない調査に疲れていたようで、泥酔して眠ってしまっている。
フランとカトレアが、酒で顔を少し赤らめたベラルと楽しく会話していた。そしてその横で、酒の飲めないサーシャとミリアが大人しく料理を食べている。
カトレアはかなり酔っているようだが、フランはそれほど酔っている様子はない。彼が注意をそらすために、機転を利かせて酒を皆に勧めてくれていたようだ。
研究者達を部屋へ連れて行き、先に部屋へ戻る。酒を飲んでいる三人は、もう少し飲むと言ってその場に残った。
そして翌日、俺達はベラル達と別れて神秘の森へと来ていた。研究者達を王都へ送るのはベラルに任せてある。元々、俺達への依頼は遺跡の調査の護衛だ。なので、すでに依頼は達成している。彼に任せても問題ないだろう。
エルフの認識阻害を受けないカリアを先頭に、俺達はエルフの里へと向かう。そして、長老の家を尋ねた。
「なるほど…。すまんが、儂にも分からないな」
長老にも分からないことだったようだ。
「儂が生まれた時から、すでにエルフはこの森に住んでいたからな」
長老と言っても、この里ができる前から生きていた訳ではない。知らなくても、仕方のないことだろう。
精霊は古代からいる種族である。わざわざこの森に住んでいるということは、秘密を知っている可能性は十分にあった。反対に彼女が知らなければ、もう調べようがない。
「それは恐らく、ハイエルフの隠れ家ですね」
精霊に尋ねると、すぐに返答が帰って来た。歴史書にも載っていないので知らなかったが、どうやらエルフは退化していたらしい。この森に隠れ住み、平和に生きてきた弊害のようだ。
そし、退化する前の種族を、ハイエルフと精霊は呼んでいるという。彼等は今の基準ではとても強いが、古代では弱者だったようだ。
生きていく内に数が減り、辿り着いたハイエルフがこの森の洞窟から隠れ家を作ったらしい。そして遺跡は、他のハイエルフが隠れていた場所だとか。
つまり俺達が罠だと思っていた転移魔法は、遺跡に残った仲間を迎えに行くためのものだったのだ。
ハイエルフは頭脳が優れ、その当時から技術力は素晴らしかったらしい。それでも古代は魔王ですら簡単に倒されてしまうほど、強力な種族が沢山いる世界だ。彼等の技術力では、逃げ隠れるのが精一杯だったという。
精霊はやはり、ハイエルフがいるのを知っていてこの森に住み付いていたようだ。魔力体である精霊にとって、ハイエルフの魔力は居心地がいいらしい。
カリアの言っていた通り、神秘の森に流れる微かな魔力はハイエルフのものだそうだ。エルフがこの森を出ないのも、無意識にハイエルフの魔力に惹かれているからだろう。
「それもハイエルフが好んで使っていた魔法ですね」
カリアが最後に使った極光魔法も、やはりハイエルフが使っていたものだった。先祖返りとも言うべきか、ハイエルフの魔力を取り込んだカリアは突然その魔法を使えるようになった。エルフなら誰でも使えるようになるのかもしれないが、すでにあの部屋の魔力は彼女が取り込んで薄くなっている。
神秘の森の魔力を浴び続けている長老達が使えないのであれば、あの部屋のように濃い魔力が必要なのだろう。
こうして俺達はカリアの覚醒と共に、あらたな秘密を抱えてしまうのだった。




