第九十話 結界術師、遺跡深部へ
第五章 過去の遺物
第九十話 結界術師、遺跡深部へ
研究者三人を連れ、遺跡の中を調査し始める。調査は専門である彼等に任せるしかない。そのため、俺達は周囲の魔物を倒すしかなかった。
一つ一つ調査するのには時間が掛かる。だが、ここは遺跡の内部だ。周囲の魔物を倒しても、次々と新たな魔物が湧いてくる。どうやら罠から魔物が生み出されている訳ではなく、何処にでも生み出せるらしい。
魔物は魔法陣のようなものが浮かび上がったところに突然現れる。魔法陣は床や壁、天井に突然現れ、魔物を生み出しては消えていく。
生み出されたばかりの魔物は、動き出すまでに少し時間が掛かる。早く見つけられた場合、動き出す前に倒すことができた。
遺跡は二層のように迷路のような構造ではないが、それでもかなり広い。何処に罠があるかも分からないので、地道に一部屋ずつ調べていく。
調べていく内に、過去の文明はよく分からないということが分かった。この時代よりも明らかに進んだ技術もあれば、この時代の方が進んだ技術もある。遺跡に張り巡らされた罠も、かなり古典的なものが多い。
「技術が進んでいる時代だからこそ、古典的な罠の方が有効なのかもしれません」
「ですが、この壁の耐久はそれほど高くないですよ。これほどの技術があるのならば、もっと優れた建築もできたはずです」
研究者達もかなり困惑していた。同じ遺跡内なのに、技術力が全く噛み合ってないのだ。これではまるで、技術力を持った者達が後から遺跡を改造しているように感じる。元の技術力の低い者達が作った遺跡を残し、そこに後から手を加えているように思うのだ。
「その線は確かにありますね」
俺の意見を聞き、研究者達が新たな可能性を考え始める。
「ですが、それだと何故古典的な罠を残しているのかが分かりません」
結局、まだまだ調べていかないと分からないということになった。
魔物が次々と生み出されるとはいえ、先ほどのような大部屋はまだ見ていない。そのため、かなり順調に進んでいる。
「まだ続くのか…」
真っ直ぐ続く通路の先に、二つに分かれた通路が見える。左右に分かれた通路は、さらに奥へと進んでいた。
「右に行きましょう」
前に出て来た研究者が、左右の道を見比べて言う。
「右の方が綺麗なので、恐らくこちらに罠があるかと…」
彼は通路に積もった砂埃を見ていたようだ。そう言われて見てみると、確かに左の通路にはかなり砂埃が溜まっている。反対に右の通路は綺麗だった。
この遺跡は洞窟に隠され、最近になってようやく見つけられたものだ。砂埃が溜まっているのは当然だろう。今までの道が綺麗だったのは、誰かが通った後だったからだ。
そして、この遺跡には罠を発動させた冒険者が来ている。さらに魔物に追いかけられて逃げたのであれば、左の道のように砂埃が溜まっているということはないだろう。魔物の中には地を這う魔物もいる。砂埃の溜まった道を掃除していったということだ。
俺達は右の道を進む。通路に時々魔物が現れるが、狭い通路ならば動き出す前に倒すことも容易だ。こして進んでいくと、簡素な部屋が現れた。そして中央に、光を放つ魔法陣のようなものがある。
「恐らくこれが、自動防衛システムでしょうね」
部屋の中に魔物がいないのを確認すると、研究者達が魔法陣へと群がった。そして、各々に魔法陣を調べていく。
魔法陣を消せばいいのではと思ったが、それほど簡単なものではないらしい。魔法陣を解析して解除しないと、罠は解除されないそうだ。つまり消してしまうと、遺跡内で一生魔物が生まれ続けることになる。
魔法陣のある部屋に魔物がいないのは、誤ってこの魔法陣を消してしまわないためだろう。過去の人達にも制御できなくなってしまうので、事故で魔法陣が消えないように工夫をしているということだ。
「もう少しで解析ができますよ」
「いくつも仮説を立てて来てよかったです」
余裕があるのか、魔法陣を調べながらもこちらに報告する。侵入者を排除しようと魔物達がこの部屋に入って来るが、やはり魔法陣には近付かないようにプログラムされているようだ。
魔法陣を解析する研究者達に近付かないのであれば、何も問題はない。結界で通路を塞ぐことにより、俺達は部屋の中に湧く魔物を倒せばいいだけだ。
「全く手応えがありませんでしたね」
「流石に実物を見れば、ある程度は分かりますからね」
「私が立てた、仮説のおかげでもあるでしょう」
ついに解析を終えたらしい。三人が言い合いながら、魔法陣に停止させる呪文を足していく。書き終えると同時に魔法陣が一瞬眩く光り、目を開けた頃には魔法陣が消えていた。
「自動で復活する魔法陣なので、この部屋に入る際には停止の呪文を書き足さないといけませんが…」
「停止した魔法陣が勝手に動き出す仕組みなど、始めて見ましたよ!」
研究者達は、魔法陣の仕組みに興奮しているようだ。
「出口の位置が変わっていませんか?」
フランの言葉に、三人の口が閉じる。俺も確認するが、先ほどまで通路があった場所が壁になっている。
「何か変な罠を!?」
「いや、解析は完璧だったはずだ」
「何故?」
三人が見て分かるほどに狼狽えていた。
「何だ!」
「警報か?」
部屋の明かりが赤く点灯し、大きな音が部屋中に響き渡る。
「閉まっているぞ!」
出口へ向かったカリアが告げる。先ほどまで出口があった場所に、いつの間にか壁ができていた。やはり、何かの罠を作動させてしまったのだろう。
出口がなくなったことにより、完全に閉じ込められてしまった。
「ぐっ!」
「何だ…これは」
「頭が…」
突如、俺の頭に激しい痛みが走った。どうやら、他の者も感じているらしい。今この場で頭を押さえていないのはカリアだけだ。
「排除する」
警報が鳴り止むと同時に、ナイフを持った男が魔法陣から現れる。その瞳に光はなく、言葉も少し機械音のように感じる。恐らく、この男は魔法人形だ。
「…結界が維持できない」
頭痛に耐えながら結界を張ろうとするも、何故か形になる前に崩れ去ってしまう。フラン達も武器を構えようとするが、体が思うように動かず地面に膝をついていた。その間に、男はこちらへ駆けて来ていた。
「私しか動けないようだな。聖槍剣!」
俺の首にナイフが届く寸前に、カリアの放った聖槍剣が男を襲う。男は咄嗟に左腕を振り、聖槍剣の軌道を逸らす。壁に衝突し、大きく抉った。
男の左腕は袖が破れていたが、無傷だった。
「炎付与」
攻撃力が足りないと思ったのだろう。カリアは剣に炎を纏わせ、男に襲い掛かる。
「何だと!?」
男は再び左腕を振るっただけで、カリアの剣を逸らした。
「排除する」
ナイフでカリアへと襲い掛かる。速度はフランよりも少し速い。それでも反応して何とか攻撃を凌いでいるが、防戦一方になってしまった。
男の攻撃は速く、反撃する暇がない。俺達が自由に動くことができれば、どうということのない相手だ。しかし、何かの影響で動くことができない。
唯一動けるカリアに、何とかしてもらう他はないだろう。
「風付与」
自分の動きを速くするために、纏わせる属性を風に切り替えたようだ。先ほどよりも彼女の動きが速くなり、反撃の隙を見出す。
「硬いな…」
彼女の剣は相手を捉えるが、やはりダメージが入らない。炎付与でもダメージが通らないのだ。風付与で攻撃しても、それは力不足だろう。
何だ? 何か違和感が…。
カリアと男が戦う姿を見て、何か違和感を覚える。だが、何かが分からない。
俺が考え込んでいる間に、彼女が男の背後を取っていた。
「これでどうだ!!」
背後からの鋭い一撃が男を襲う。
「排除する」
男は一瞬踏鞴を踏んだが、ダメージを受けた様子はなかった。




