第八十九話 結界術師、遺跡へ
第五章 過去の遺物
第八十九話 結界術師、遺跡へ
「本当に何もしなくていいのですか?」
「魔力を温存しておいた方がいいからな」
エドラスに頼み、連れてきてもらったベラルの問いに答える。俺達は彼と合流した後、再びダンジョンの一階から奥へと進んでいた。遺跡の罠による魔物生成速度はかなり早く、すでに一階にまでかなりの魔物が集まっている。おかげで、再び魔物の討伐をしていかなければならない。
ベラルは百発百中の異名を持つAランク冒険者だ。彼の力があれば魔物の討伐も楽になるのだろうが、彼には大部屋で魔物を討伐してもらう予定である。できるだけ魔力を温存しておいてほしい。
今回は前回と比べ、かなり早く四層まで行くことができるだろう。蟻の巣のようになっていた二層の地図も作ったので持っているし、殆どの魔物は戦ったことがあるので調査と言って研究を始めることもない。かなりの時間短縮ができている。
「やはり、新たな魔物は見かけませんね。それに、認識阻害の魔法に耐性を持つ魔物も組み込まれている」
研究者に見てもらったが、今もなお認識阻害に対して耐性を持った魔物が生み出されていうようだ。ベラルに来てもらったが、認識阻害が効くならそちらの方がよい。そう思っていたが、遺跡はそれほど甘くないようだ。
「前回はここで引き返したんですよね」
二層に到達したところで、懐かしむようにベラルが隣で呟く。彼は一度、エドラスに頼まれて一人でダンジョンに潜っている。
その時は魔物の多さと二層の構造に引き返すことを余儀なくされた。スナイパーという職業は後衛職なので仕方のないことだが、俺達はこの人数で二層を突破するのに苦労したのだ。引き返して正解だっただろう。
「地図があるとかなり楽ですね」
「前回はかなり時間が掛かりましたからね」
目の前にいる魔物を倒しながら順調に進んでいると、研究者達が後ろで嬉しそうな声を出して話し合っていた。
彼等は考古学者だ。今回のような過去の遺跡が見つかるのは稀で、基本的には過去の書物等を調べるのが仕事である。そのため、研究所に籠っていることが多い。
ダンジョンは城下町のように舗装された道などがないので、長時間歩くだけで疲労が溜まっていたのだろう。特に二層を探索してる際は、何度も行き来していたのでうんざりしていたようだ。
地図があれば最短ルートで進むことができる。歩く時間だけでなく、魔物との戦闘も減るのでかなり楽になった。
「ここで少し休憩するか」
前回と同じように、階段の前の開けた場所で休憩を取る。三層は四つの部屋を進む必要があり、部屋の中に集まった魔物と何度も戦闘をしなければいけない。なので、無理をして進まない方がいい。
「便利ですね」
魔物と俺達を分断している結界を見ながらベラルが言う。彼とは戦争で一緒に戦った仲だが、彼はリサを食い止めるので精一杯だった。俺達も勇者やフスト軍と戦っていたので、あまり彼と共に戦っていたという感じがしない。
休憩を終えると、前回と同じように階段前に集まった魔物と通路側の魔物を討伐する。サクサクと三層まで来てしまった。
そして、三層は二層よりも楽に突破できたのを覚えている。部屋の魔物を討伐するだけだからだ。大部屋とは違って部屋が小さいので、近距離攻撃をしてくる魔物との距離が近い。遠距離攻撃を放つ魔物が、仲間を巻き込むのであまり自由に動けないのだ。
反対に俺達は、突破力が高いフランが遠距離攻撃の魔物まで突き進んでくれる。彼が魔物を掻き乱している間に、俺達は近くの魔物を全滅させればいい。
大部屋でなければ、問題なく攻略できる。これが遠距離攻撃が得意な者がいない、俺達ならではの弱点だった。しかし、今回は違う。遠距離最強と言っても過言ではない、スナイパーがいるのだ。
「砂蜥蜴族の女性は別格で早かったですが、彼も中々のものですね」
ベラルが前線で動き回りながら刀を振るっているフランを見て、感心したように言う。フランは仲間になった当初から、速度重視で戦うスタイルだった。桜花の侍達に動きを教えてもらって以降、さらにその動きに磨きがかかっているように感じる。
力で斬る剣よりも、鋭さや切れ味を重視した刀を使っているということも理由の一つだろう。これにより、敵を斬る際にスムーズに動けるようになっている。
純粋な足の速さならばサラに負けるだろうが、今の彼ならば彼女といい勝負ができるかもしれない。
「ここまで戻って来たな」
四層に続く階段の前。俺達は一度、この先の大部屋で敗北したのだ。今回はベラルに行ってもらう。一応俺が後ろを付いて行き、万が一の時には結界で彼を守る準備もできている。
「ここまでですか」
「ああ。これ以上行くと、魔物に気付かれる」
向こうから足が見えないギリギリの位置まで行くと、ベラルは弓に矢を番えた。
「矢の雨…曲射」
彼が矢を放つと、一本だった矢が数百本に増える。さらに曲射により、全ての矢を操作していた。
「狙い撃ち」
彼は一気に階段を駆け下りながら、狙い撃ちのスキルを発動する。そして、次の瞬間には再び弓に矢を番えていた。
狙い撃ちで飛んで行った矢は、それぞれが魔物へと向かって飛んでいく。魔物も遠距離攻撃を放っているが、矢の速度の方が圧倒的に速い。
「流石だ」
遠距離攻撃を俺が目の前で防いだ頃には、すでに二回目の矢の雨が魔物達の頭上へと広がっていた。ベラルが放った矢は、ほぼ全てが遠距離攻撃を行う魔物へと降り注いだ。そのおかげで、一瞬にしてかなりの魔物が減った。
「今ですよ!」
「分かっているわよ」
「今度は負けないです!!」
フランが魔物の群れの中を突き進み、カトレアとサーシャが近くの魔物を倒す。
「この程度なら一人で捌けるな」
「ありがとうございます」
カリアはベラルの近くに残り、彼を狙ってきた魔物の相手をしていた。その間に、ベラルの放った矢が再び魔物達を襲う。
彼が一気に魔物を減らしてくれたおかげで、遠距離攻撃がほとんど飛んでこない。俺はカトレアとサーシャに向かって飛んできた攻撃だけを防げばいいので、余裕すらあるくらいだ。
フランが大部屋の奥まで辿り着き、後方にいる魔物を倒していく。ベラルは流石に魔力を使い過ぎたようで、スキルを使うことなく矢を魔物の頭へ突き刺していた。
遠距離攻撃がなくなった後、すぐに部屋内の魔物は掃討された。サーシャとカリアが研究者達を呼びに行っている間に、階段を上って来ようとする魔物を倒していく。ある程度減らしたところで、カリア達が戻ってきた。
結界を張り、階段を魔物が上れないようにする。
「遠距離攻撃も中々にいいですね」
フランがベラルを褒める。彼の言う通り、遠距離攻撃が使える仲間がいてもいいかもしれない。それほど、今の戦いはとても楽だった。
階段の上で少し休憩をする。ベラルの魔力を回復するためだ。遠距離攻撃が来ないよう、彼はスキルを惜しみなく使っていた。
矢の雨は複数の敵に同時に攻撃ができるので、殲滅力が高い。そして、狙い撃ちですぐに魔物へ攻撃する。
本来狙い撃ちは敵の動きを察知するためのスキルであり、敵に向かって自動で矢を動かすスキルではない。そして曲射は自分で矢を操るスキルなので、魔物一体一体に狙いを定めていては時間が掛かってしまう。
だが狙い撃ちと曲射を併用することで全ての敵の動きを察知して、それぞれに一瞬で照準を合わせることができるのだ。
ある程度休憩した後、俺達は四層の階段を下りる。
「これが遺跡ですか…」
「中々に趣がありますね」
「雰囲気が変わりましたね」
研究者達が興奮していた。無理もない。ここはダンジョンと遺跡が繋がっている場所である。階段を下りている途中で、突然大きな遺跡の入り口が目の前に現れたのだ。
明らかに壁や床の材質、雰囲気が違っている。
「油断するなよ」
皆に…特に浮かれている研究者達に注意を入れる。俺達の目的地は、ダンジョンではなく遺跡である。ようやくここから、本格的に調査ができるのだ。




