第七十六話 双子の絆
第四章 桜花
第七十六話 双子の絆
カトレア視点
周囲を警戒しながら、北の砦へと進軍。私達の部隊は、桜花の兵士を先頭に進んでいる。最前線にいた彼等は、誰もが索敵等が得意な者達。
フランもそういったことが得意だが、それほどこの者達と索敵能力に差はない。そのため、私達は何かあるまで後方にいることとなった。
「そろそろよね?」
「はい」
私の言葉に、目の前を歩いていた兵士が頷く。そしてすぐに、砦が見えてくる。
「暇ね」
「そうですね」
私の隣で、フランがそう言った。何かあった時にすぐ動けるよう、視線は砦に固定したまま。魔物が作った砦はとても脆そう。私達が山賊をしていた頃、二人ということもあって砦の攻略は困難だった。これほど簡単に攻略できそうな砦は、始めて見た。
「自分達の力に自信があるのでしょうね」
フランが呟く。それに私は頷き返した。
決められた時間になり、ようやく部隊が動き出す。といっても、最初は私達の出る幕はない。理由は簡単。桜花の兵士が、遠距離から銃で攻めるから。
「次…撃て!」
二つに分かれた部隊が、合図に合わせて交互に発砲する。外にいた魔物が、次々と被弾して倒れていく。何が起きているか理解できていないようで、魔法以外での遠距離からの攻撃に、魔物達は右往左往していた。木でできた砦はやはり脆く、数回の被弾で穴が開く。
「回避!!!!」
遠距離魔法が飛んできたので、回避しながら発砲を繰り返す。砦攻略は順調に進んでいた。
「呆気ないわね。これでは、私達の分が残らないわ」
私の言葉に、フランは首を横に振る。そして、一点を指さした。
「厄介な存在がいますよ」
数体の魔法人形がこちらへ向かってくる。素材は見るからに岩なのに、弾が当たっても体が少し崩れるくらい。明らかに普通の岩人形よりも硬い。
岩人形達は自分の体が削れるのも気にせず、銃を撃っている兵士へ近付いていく。
「確実に倒せ!」
号令を受け、一斉に一体の岩人形へと発砲する。流石に耐えきれなかったようで、体が崩れ落ちた。後ろから、さらに岩人形が現れる。誰かが作成しているようで、その者を倒さない限り出現し続けるはず。皆で一体ずつ倒すのは効率が悪く、兵士達は追い詰められていく。
「行きますよ」
「待ってたわ!!」
フランが飛び出し、その後ろを付いていく。私達が出たのを確認した兵士は、後ろの岩人形に照準を定める。
「そこです」
「はあっ!!」
フランが人形の剥き出しの関節を狙い、確実に体を削っていく。私はその動けなくなった人形を、片っ端から愛用の棒で砕いていった。
「硬いわね。確実に強化されているわ」
魔法人形を強化できる存在は、魔法人形を作成する能力を持った者だけ。でもこれは、かなり魔力を使うことになる。魔法人形の作成と強化、二つに魔力を消費するから。
「ふっ」
一体の岩人形が突進してきたところを、彼は紙一重で躱す。岩人形は横を通り抜けた後、両腕を落とす。回避しながら、剣で斬り落とされていた。
「なっ!?」
いつも冷静なフランが驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に横へ跳ぶ。そこへ、一体の魔法人形が降ってきた。
「フン!」
持っていた斧で、彼に追い打ちを仕掛ける。
「くっ!!」
剣をクロスさせてガードするも、体が吹き飛ばされた。言葉を発したということは、ただの魔法人形ではなさそう。
「今のを防ぎきるか…」
そう言って、フランの方を見る。彼は受け身を取って、すぐに起き上がる。
「困りましたね」
そう言って、握っていた剣を投げ捨てた。彼が投げた二本の剣は、刃が折れてなくなっている。
「魔王軍幹部、魔族人形のデニアの攻撃を防いだだけでも流石と言える。だが、お前に勝ち目はない」
本当に特殊な魔法人形だった。魔族人形ということは、魔族に作られた魔法人形ということ?
フランがデニアに向かって走り出す。素手の彼を見て、デニアは余裕の表情を浮かべている。距離を詰めた彼は、岩人形が持っていた剣を拾って突き出した。
「だから無駄だと言っただろう」
フランの持っていた剣は、デニアの体に止められている。彼の力では、硬い体にダメージを与えることができない。
デニアの関節は人間のように体内にあるようで、そこを狙うこともできないかった。
彼がデニアに背を向けて走り出す。
「逃がす訳がないだろう」
そう言ってフランへと振り下ろされた斧は、私の棒によって受け止められる。
「何を無視してるのよ。私は強敵に出会えてこんなに嬉しいのに…」
まさか、私に受け止められるとは思っていなかったのだろう。止まった自分の斧を見て、呆気に取られている。
久々の強敵との戦闘に、少し気分が昂揚しているのを感じる。だけど、落ち着いてデニアの動きを分析していく。
模擬戦で余裕を見せてしまったために、まだ子供のサーシャに一本取られてしまった。それが今では、私の強さとなっている。冷静に判断して行動しなければいけない。特に今回の相手は、魔王軍幹部という強敵なのだから。
フランが桜花の兵士から援護を受けながら、砦へと近付いていく。岩人形は砦から現れている。だから、作成者は砦の内部に潜んでいるはず。彼はその者を倒しに向かった。
「その武器、中々いいもののようだな」
数回武器を合わせた後、デニアが呟く。私の武器は魔物の素材から作られたもので、鉄と同等の強度を誇る。その上木材等のようにしなるので、金属の武器と比べてかなり折れ難い。力任せに殴っていた頃は、どの武器も私の力に耐えられずに壊れてしまった。今の武器に出会ってからは、一度も壊れていない。
一度も斧の直撃を受けていないとはいえ、蹴りや体当たりのような攻撃をしてくる。それを咄嗟に回避できるほどの技術はないので、防御してダメージを軽減していた。
「治癒」
ダメージは少ないものの、少しずつ蓄積されていく。治癒で回復しつつ、反撃して相手にも相応のダメージを返す。回復魔法で疲労も回復できるので、魔法人形の無限のスタミナという点は相殺できる。
力と力のぶつかり合いは、殆ど互角に見えた。実際武器を合わせる度にそれは感じる。でも、相手は魔法人形。人間と違って防御力が高い。なので、与えられるダメージは私の方が少ない。
「はぁっ!」
私の一撃が、相手の頭部を捉える。何度も殴られて脆くなっていたようで、頭から目の付近にかけてひびが入った。
「流石に攻撃を受け過ぎたようだな」
ひびが入った自分の顔を触り、斧を私に向かって投げる。
「まさかこのような戦い方をする羽目になるとはな」
私が飛んできた斧を打ち払っていると、デニアは盾を取り出して両腕に着けた。先ほどの攻撃的な装備とは打って変わり、かなり防御重視の装備となっている。
でもこれが私にはとても辛い。全ての攻撃が、盾によって防がれてしまう。相手にダメージは何一つ入らない。
私の攻撃が通らない上に、相手は体の硬さを利用して攻撃してくる。結界術師であるクロウの唯一の攻撃手段なので、硬さがそのまま攻撃力になることは知っていた。
素手の攻撃は、斧と比べて攻撃速度が速い。簡単に回避できないので、殆どの攻撃を受けてしまう。このままでは、治癒による回復が追い付かなくなる。
「もっと強く!!」
「無駄だ!」
左腕の盾で防御しようとしているところを、盾の上から全力で殴りつける。
「何!?」
デニアの腕が跳ねる。盾が壊れるということはなかった。それでも私の攻撃に耐えられずに、左腕が跳ねている。
追撃は右腕の盾で防がれてしまった。素早く全力で殴るようなことはできないので、こちらは完全に防がれている。
「ぐぅ!」
跳ねていた左腕が、私へと向かってきた。咄嗟に腕でガードしたのに、横からの一撃は私の体にまでダメージを与える。
「治癒」
攻撃に身を任せて横へ跳び、回復魔法を唱える。折れていた腕とあばらが治っていく。
「危ないわね…」
急いで治した腕で地面を殴り、自分の体を宙へ浮かせる。追撃を仕掛けようとしていたデニアが跳躍した。
「残念ね」
下から私に向かって来ているので、迎撃はとても容易い。上段に構え、斜めに思い切り振り下ろす。両腕の盾でガードするも、今いる場所は空中。踏ん張ることもできず、デニアの体は弾き飛ばされる。
「フラン!!」
「分かっていますよ」
すでに魔法人形を作成していた者を倒したようで、飛んで行く先にはフランが立っている。彼はいつの間にか、デニアが投げた斧を持っていた。
「しまった!」
私の追撃を警戒していたデニアは、僅かに反応が遅れる。
力任せに振るった彼の斧が、無防備な頭を割った。斧を持っていたとはいえ、彼にそれほどの力はない。飛んできた勢いを利用したのと、すでにひびが入っている箇所を攻撃したことにより、頭を割ることが可能となった。
戦闘の殆どを見ていなかったはずなのに、フランは全てを理解して対応してくれた。私もデニアを飛ばすまで彼を視認していない。それでも、何となく彼ならそこにいると思った。
「お疲れ様です」
「そっちもね」
頭を破壊されたことにより、デニアの体は崩れていく。それを見ながら、私達は互いに拳をぶつけ合った。




