第七十七話 小さき者達
第四章 桜花
第七十七話 小さき者達
カリア視点
時間通りに砦を攻撃する。木でできた砦は脆く、桜花の兵が使用する銃という武器で簡単に破壊されていく。
ある程度破壊されたところで、私達が砦の内部に侵入する。桜花の兵はその場に残り、銃を撃ち続けていた。私達が近付いてきたことで、襲おうと魔物が数体外へ出て来る。それを銃の弾が的確に捉える。
私達と言っても、敵に見えているのは私だけだ。サーシャとミリアは、認識阻害の魔法で身を隠してついて来ている。内部に入ると、サーシャとミリアが先頭を行く。身を隠した二人が先に行くことで、待ち伏せを防ぐ役割を担う。
私達が侵入したことにより、砦内部への発砲が止まる。一部の部隊が近距離用の銃を持ち、残りが刀を構えて砦へ近付く。
魔物はすでに半数以下になっているが、それでもまだかなり残っていた。
「雷付与」
剣に雷を纏わせ、敵を切り裂いていく。私が剣を振るう度に、雷が周囲の魔物を攻撃する。焼かれて死ぬ者もいれば、耐え抜いた者達もいた。耐え抜いたとしても、体は痺れて思うように動けないはずだ。
その者達は皆、見えない刺客に槍で貫かれて倒れていく。私が目立つことにより、余計にサーシャ達が見つかり難い状況となった。
破壊されてボロボロになった砦を進むと、一つだけ不自然に無事な部屋があった。その扉の奥には、魔物の気配が感じ取れる。
誰かがこの部屋を守り、その中に魔物を避難させたのだろう。
「見て来る」
それだけ言うと、ミリアが一人で扉へ向かう。いくら認識阻害の魔法があるとはいえ、見破れる実力がある者がいれば危険に晒されることとなる。
なので、彼女は一人で向かったのだろう。サーシャを危険な目に合わせないために。
「不味い!」
扉からミリアの悲鳴が聞こえてくる。いつも殆ど喋らない彼女にしては、大声を出すのはかなり珍しい。
逃げて来る彼女の後ろには、フードを羽織って大鎌を持った骸骨がいた。妖精の羽を精一杯動かして逃げる彼女の後ろを、浮遊しながら追いかけている。足がなく、常に浮いている状態だった。
「後ろに!」
逃げて来たミリアに代わり、私が前に出る。そして、骸骨の振るう大鎌を剣で受け止める。剣に衝撃が走るが、その鎌に重みはない。物質ではなく、霊体の鎌だからだ。
「…面倒なのが出て来たな」
恐らく、ゴーストと言われる種類の魔物だ。ゴーストは魔力を持った攻撃しか受けない性質を持っていて、普通に剣等で攻撃してもすり抜ける。鎌もゴーストの体と同じく霊体なので、魔法扱いなのだろう。だから、全く重みを感じないのだ。
ゴーストは独自の感覚を持っており、魔力を感知して襲ってくる魔物だ。そのため、ミリアの認識阻害も通用しない。
この中で魔法による攻撃を行えるのは、私一人だけだ。私の剣で、骸骨を相手にしなければならない。
「まだいる」
ミリアが骸骨の後ろを見ながら言う。その先にあるのは、部屋に続く扉だ。骸骨が来たことにより、魔物が出て来たようだ。
その中に、明らかに強そうな魔物が混じっている。六本の足を持つ像が動いていた。ゴーストは銃の弾を止めることはできない。なので、その魔物が部屋を守っていたのだろう。
この像は以前戦った死者の鎧のスラウと同じような魔物だ。その魔物が、大きな巨体で弾を防いでいた。
体はそれほど硬くないようで、弾の先端が減り込んでいる。それでもそれ以上は進んでいないので、銃で倒すことはできないだろう。可能性があるとすれば中央へ向かった六助が持っている、威力が高い大きな銃だけだ。
「強き者…」
「はは…。ガイアに強いと言わせるとは面白いな。僕の名前はジャン。魔王軍幹部二人の相手が、君達に務まるかな?」
像がガイアという名で、骸骨がジャンと言う名前のようだ。幹部が二人いるというのは、流石に分が悪すぎる。だからと言って、引くという選択肢も取ることができない。霊体である骸骨からは、逃げ切れないからだ。
「行くぞ!」
私の一撃を骸骨は大鎌で止める。
「ぐう…。少し痛いな」
剣に纏っている雷が、ジャンの体を襲った。痺れて僅かに動きを止めるが、すぐに動き出した。副次効果の雷では、あまり効いていないようだ。ガイアの方にも雷は走ったが、やはり像には効かないらしい。何事もなかったかのように動いている。
「炎付与」
部屋の中から他の魔物が出て来ない以上、ダメージを殆ど与えられないのでは雷付与の意味がない。攻撃力を高める炎付与に変える。
ガイアは今のところ、私しか見ていない。ジャンにはばれているが、ガイアはミリア達の存在に気付いていないようだ。
「消えた…?」
ガイアが不思議そうな声を漏らす。ミリアが、認識阻害の魔法を私にも適用してくれたらしい。おかげで、簡単に背後が取れる。
「そこにいるよ!!」
私が剣を振るう前に、ジャンが急降下して鎌を一閃する。バックステップで躱すが、距離が開いてしまった。さらに、ガイアの拳が私目掛けて降ってくる。それを剣で受け止める。
「くっ!」
拳はとても重く、足が地面へと沈む。
「そこ」
咄嗟に横へ転がると、鎌と拳が地面へと突き刺さった。完全には回避できていなかったようで、肩口が少し切り裂かれている。
「大丈夫ですか?」
「これくらいは問題ない」
サーシャの問いに、簡潔に応える。実際傷は浅いので大したことはないが、彼女の問いに丁寧に応えてられるほどの余裕はなかった。
とても面倒な組み合わせだ。ガイアは私を認識できていないが、ジャンは認識できる。そのため、私の奇襲は防がれてしまう。さらにガイアの攻撃は物理的な力なので、仲間であるジャンを巻き込むことはない。なので、ジャンごと巻き込んだ攻撃が可能となる。
ジャンの動きで、私の位置がばれてしまう。そして、そこへ目掛けてガイアが攻撃するという連携。私がジャンを引き付けておかないと、ガイアの重い一撃がサーシャ達に向いてしまう。
そう考えていたのだが、サーシャ達の考えは違ったようだ。
「何だ…今の」
私へと振りかざした拳が、途中で止まる。サーシャの短槍が、ガイアの膝の裏へと入っている。力が弱いので刺さってはいないようだが、バランスが狂ったのか違和感を覚えたようだ。
「他にもいるのさ」
戸惑っているガイアの援護をしに来たジャンが言う。それを聞いたガイアは、すぐさま私の下へと拳を振り下ろす。
「何だこいつ!?」
今度はミリアがジャンの下へと向かう。彼女の攻撃魔法はかなり弱いが、決して使えない訳ではない。ミリアがジャンの邪魔をしているため、動きがおかしくなる。
「そこじゃない!」
ガイアの攻撃が、的外れな場所へと向かう。遂に連携が崩れたようだ。ここで一気に畳みかける。
「はぁぁぁ!!」
サーシャの気合を込めた全力の突きが、ガイアの体に埋まった弾へと突き刺さる。
「ぐっ」
ほんの僅かにだが、ダメージが通ったようだ。
「うっ!」
ジャンの邪魔をしていたミリアが、クルクルと回転しながら地面へと落下する。まともに攻撃を受けてしまったらしい。
「そこか!!」
彼女が飛ばされたことにより、認識阻害の魔法が解けた。怒りを露わにしたガイアの瞳が、サーシャを睨む。
「聖槍剣!!」
ガイアに向かって、聖槍剣を放つ。私のことも見えているはずなのだが、ガイアはサーシャに気を取られていて気付いていない。
「させるか!!!」
ジャンが間に割って入り、鎌で聖槍剣を防ごうとする。だがそこで、不思議なことが起きた。
「がああっ!!」
ジャンの鎌も体も素通りし、剣はガイアの下へと向かう。さらに素通りした際、炎付与で纏った炎がジャンの体を焼いた。
「がはっ!」
横からの一撃がガイアを襲う。ギリギリで気付いて片方の腕でガードしたようだが、炎付与で攻撃力が増した聖槍剣は防げなかったようだ。腕を砕き、そのまま体に突き刺さっている。
「くっ…。今のは危なかったぞ」
そう言いながら、ガイアが無事な方の腕を振るう。
「きゃっ!!」
「サーシャ!」
槍でガードしたサーシャだったが、力尽くで吹き飛ばされた。
「これでも倒しきれていないのか…」
「流石に熱い。死ぬかと思ったよ」
燃えていたジャンが鎌を振ると、炎が消えた。
「炎を僕が受けてなかったら、ガイアは倒されていただろうね」
何か変だと思ったが、付与した炎だけをジャンが全て受け止めていたようだ。普通の聖槍剣になったので、一撃で倒せるほどの威力が出なかったのだろう。
まさか物理ダメージを素通りさせて、魔法ダメージのみを受けることができるとは思わなかった。ゴーストは魔法剣で斬れるはずなので、ジャンの特殊なスキルか何かだろう。二人にダメージを与えることはできたが、これで二体一になってしまった。
「これは不味いな」
流石に一人で幹部二人を相手にするのは難しい。さらに一人になってしまったので、この二人の連携を崩すことができなくなった。圧倒的に不利な状況だ。
「何だこの魔力は?」
ジャンが突然、明後日の方を向く。その場所には、ガイアに吹き飛ばされたサーシャが倒れていた。
「大変そうですね」
サーシャの鞄から、光が漏れる。その光が、妖精のような形を作った。
「精霊様…」
「強力な魔力…」
現れたのは、精霊様だった。先ほどまで軽い口調だったジャンも、その魔力を見て真面目な口調になっている。
「裁きの光」
幹部二人に手を向けて精霊様がそう呟く。手から光が迸り、私の視界を白く染め上げた。




