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第七十二話 結界術師、作戦を聞く

                             第四章 桜花

                        第七十二話 結界術師、作戦を聞く



「手伝いに来てもらって早々、世話になったみたいだな」


 旧王都から駆け付けた雅が、集落にいた兵士を見ながら俺達に言う。彼は幹部が来たと聞くと、慌てて兵士を集め、こちらへと来てくれたようだ。伝令に送った兵士が夜に帰って来た後、明け方には雅達は集落へ到着していたらしい。

 彼の他に十二人の兵士がやって来た。これで集落に滞在していた者達を合わせて、桜花の兵は三十人以上となる。

 これでも魔王領の魔物と比べると圧倒的に人数は少ないが、それは仕方のないことだろう。十二人ということは、旧王都にいた兵士の半数以上を連れて来たことになる。元々人数が少ない中で、これほどの人数を連れて来たのだ。明らかに、少し無茶をしている。

 雑務の引継ぎが完了する前に、彼はやって来た。今頃旧王都ではてんてこ舞いとなっていることだろう。


「俺達は人数が少ないからな。別々の場所を、同時に攻める必要がある」


 時間がなかったので、攻め込む準備が何もできていない状況だ。魔王軍四天王のデルダが、現在魔王領の何処にいるのかも分からない。俺達は戦力を注いで戦いに挑むのだ。一つの場所を攻めている間に他の場所から攻められては、一気に魔王軍の侵攻を許してしまうことになる。

 そのため、戦力を分断する必要があった。


「部隊は四つに分ける。その内の三つが攻め込み、一つは後方で待機。デルダがいた際に、そこへ援護に入る」


 つまり攻め入る部隊が三つと、デルダに対抗する部隊が一つということだ。何故三つに分けたのかは、彼等が簡易的に作った地図を見れば一目瞭然である。前線の近くに、三つの砦があるのだ。その砦の向こうに、魔王軍が作った町がある。

 まず抑えるべきは、この三つの砦ということだ。デルダがいるのも、この三つの何処かの可能性が高い。幹部が突然襲って来たのが奴の指示ならば、前線から近い場所である砦で指揮をしているだろうという考えだ。


「流石に人数が少ないので、俺達が防衛に回るのは不味い。一気に砦を攻め落とし、魔物をこちらへ近付けさせるな!」

「「「おう!」」」


 雅の声に呼応するように、兵士達の気合の籠った声が響き渡る。彼等は魔王軍が境界を越えることを、心配しているようだ。

 その後も彼が、今回の作戦の詳細や今までで分かっている情報を話す。

 彼等は一切戦いにおいての、人数の差をというものを考えていない。それだけ、自分達の実力を信じているということだろう。確かに、彼等の持つ銃という武器はとても強力だ。さらに今回は、一般兵ではなく精鋭が銃を持って進軍する。

 銃の扱いも、彼等の方がより長けているのだろう。優秀な戦士系の職業の者が、魔力を殆ど使わずに遠距離攻撃や範囲攻撃をできるのだ。それも、魔法を使うよりもずっと早く。

 攻撃範囲や威力で言えば、熟練の魔術師が使う魔法の方が強いだろう。しかし、彼等は戦士系の職業なのだ。銃で数を減らし、その後に近接戦闘でも暴れることができる。弾を補充しなければいけないという点も、交代で撃つことにより解決していた。集団戦において、心強いことこの上ない。

 そうなってくると、やはり心配なのは敵の実力だろう。今回攻めて来た魔物は弱かったが、いつもは強力な魔物が攻めて来るらしい。町ではなく、砦にいる魔物。つまり、戦うために滞在している魔物ということだ。

 今までに攻めて来た魔物を聞く限り、Cランクに近い魔物が沢山いるらしい。中にはBランクに匹敵するほどの魔物もいたとか…。

 そして一番厄介なのが、幹部の存在だ。彼等はBランクからAランクの力を持っている。さらに今回の件で、強さだけで幹部になっている訳ではないということが分かった。魔王軍幹部であったグエンは、強さだけならばBランクに満たないだろう。しかし、彼の厄介なところは特殊なスキルにあった。

 つまり、他にも特殊なスキルを持った幹部がいるかもしれないということだ。スキルによっては、どれだけ強い軍でも簡単に掻き乱されてしまう恐れがある。

 今回は幹部一人で攻めて来たが、魔王軍四天王がいるのだ。一人しかいないという訳ではないだろう。


「こんな時、勇者様がいてくれればよかったのだがな」

「勇者?」


 思ってもみなかった単語が急に出て来たので、ついオウム返しをしてしまった。


「この大陸にも魔王がいるということは、勇者自体はいるのだろう? まさか…勇者を知らないのか?」


 彼の言葉に引っ掛かりを覚える。彼は今この大陸にも、と言ったのだ。つまり、桜花にも魔王がいるのだろうか?

 他の兵士達も、勇者の話を始める。雅が言っている勇者は、どうやら桜花にいる勇者のことのようだ。


「桜花にも、魔王や勇者がいるのか?」

「ああ。俺達の勇者様はとてもお強い方でな。すでに魔王軍四天王の内、二人を討伐してしまわれた」


 本当に桜花にもいるらしい。そう言えば魔王がいるから勇者が、勇者がいるから魔王が存在する聞いたことがある。つまり、魔王と勇者は対の存在なのだろう。

 昔から魔王は勇者が討っていたが、このことも関係していそうだ。四天王を二人も討伐したということは、勇者が強いのか四天王が弱いのか。どちらにしろ、フェスティナ大陸の勇者よりはしっかりとした勇者のようだ。


「そう言えば、この大陸の勇者はどうしたんだ?」


 雅が不思議そうな表情で、俺へと尋ねる。四天王が近くにいるのだ。勇者が出て来ても、おかしくない状況である。一度も顔を見せないことが、彼にとっては疑問なのだろう。

 しかしこの大陸の勇者は、すでにウェンデルト王国で死刑となってこの世にいない。勇者は自分の職業をいいことに、かなりの悪事を働いていた。その事実を、国は全てなかったことにしていた。フスト王国と勇者は繋がっていたのだ。

 桜花との戦闘ではいなかったようだが、ウェンデルト王国との戦争ではフスト王国側の兵士として、勇者達が現れた。勇者は魔王と戦う存在だ。人間同士の戦いである、戦争には本来関わらないはずなのである。


「もういない」


 その言葉である程度は察したのであろう。彼はそれ以上、勇者の話をすることはなかった。


「以上だ」


 雅が全ての説明を終える。俺達は流石に、人数を分けることとなった。桜花の兵士と、合同で魔王領へと攻め込む。戦力的に言っても、銃を持っていない俺達では足りていないのだ。今回はある程度の速度で制圧しなければならないので、いつものように軍を掻き乱しながら数を減らすという、長期的な戦いができない。

 魔王軍の魔物は、元々の能力値が高い。そのため、人間のように強固な建物は必要としないのだ。

 普通の砦は頑丈に作られており、防衛側はその利を生かして戦う。そのため攻め込む側は、砦を壊せる力がないと攻略できないのだ。

 それに比べて魔王軍の砦は、全て木や藁等で作られている。とても脆いので、防衛による利は何もない。今回のように速く砦を攻略しないといけない場合、とても有難いことである。


「今回は私も行きます!」


 サーシャが俺に告げた。

 今回の作戦では桜花の兵士で作った部隊、フランとカトレアと桜花の兵士の混合部隊、カリアと桜花の兵士の混合部隊、俺と桜花の兵士の混合部隊を作る。桜花の兵士だけの部隊には、副隊長候補の二人。六助ともう一人の女性である黒だ。

 俺の部隊には雅がいる。俺が含まれている部隊が、四つ目の部隊であるデルダを討伐する部隊だ。

 そこにサーシャとミリアは含まれていなかった。サーシャは子供だから、ミリアは一度も桜花の兵士の前で姿を見せていないからだ。ミリアの能力は集団戦において有効なので、連れて行くつもりだ。

 敵はCランクという強力な魔物ばかりだが、ウェンデルト王国ではDランクの魔物を一人で倒してもいる。サーシャは連れて行かないつもりだったのだが、彼女だって強くなっている。今回の敵は人間ではなく、魔物なのだ。それを踏まえて、彼女の意思を尊重することにした。

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