第七十話 結界術師、幹部を討伐する
第四章 桜花
第七十話 結界術師、幹部を討伐する
グエンを見失った兵士達が、明らかに狼狽えている。予備動作も何もなく、二メートルもある骸骨が突然消えたのだ。いくら目で捉えられないレベルに早く動けたとしても、速度に乗るまでの予備動作はあるはずだ。
Aランク冒険者で速度重視であるサラが走る場合でも、地面を蹴る瞬間まではそれほどの速度は出ていない。つまり早くて見えないのではなく、スキルによって姿を隠しているのだろう。
それならば、俺の空間認識で捉えることができるはずだ。後は、何処にいるかの問題だけだ。俺の空間認識は、範囲内の者しか認識できない。なので、遠くから攻撃されては意味がないのだ。
「あぐっ!」
兵士の一人が崩れ落ちる。他の兵士が予測を付けてその辺りに刀を振るが、全て空振りに終わったようだ。俺の距離からでは認識できないので、どういった攻撃をしているのかが分からない。
刀が当たっていないので、回避しているのかその場にいないのかが判断できないのだ。残りの兵士は二人である。
二人は刀を構え、互いに背中合わせになっていた。視認できない相手に対して、それはあまり意味がない気がする。
空間認識で捉えるために、少しずつ兵士の方へと近付いていく。すぐに近付かないのは、相手が何処にいてどのような攻撃をしているかが分からないからだ。
仲間とあまり離れてしまっては、そちらが狙われた際に助けられない。フランですら認識できない以上、この中では俺の空間認識が唯一の対抗手段と言ってもいいだろう。
「がっ!?」
「かはっ!」
残りの兵士二人も倒れてしまった。かなり不味い状況だ。俺は未だに、敵の位置を捕捉できていない。さらに不意打ちとはいえ、グエンは兵士を一撃で倒しているのだ。ある程度の攻撃力を持っていると見て、間違いない。
救いがあるとすれば、遠目から見て兵士の体に外傷が見られないことである。打撃を受けて倒れているだけならば、意識を失っているだけかもしれない。
死んでいなければ、カトレアの回復魔法で助けることができる。
「うわぁぁぁ!!!」
逃げ遅れて魔物に囲まれていた兵士の声が、耳元まで届く。どうやら、彼はまだ無事だったみたいだ。遠距離用の銃ではなく、近距離用の銃を持っていたおかげだろう。近距離用の銃は飛距離はあまりないが、広範囲を攻撃できる。
囲まれた時等の集団戦において、かなり役に立つ武器である。見張り台にいる時は遠距離用の銃を持っていたので、逃げる前に持ち替えたのだろう。
味方の援護に任せて、自分は一切撃たずに逃げることを一番に考える。持っている武器を見て、そう考えていたのが分かった。近距離用を持っていたのは、追い付かれてしまった際に切り抜けるためだろう。攻撃力の高い武器なので、近付いてくる敵をただ撃つだけで排除できる。
だが、銃を撃つには専用の弾が必要だ。そのため、彼が銃を使用できる回数には限りがある。このまま放置していれば、殺されてしまうのも時間の問題だろう。
その時、目の前から何かが突っ込んできた。
咄嗟に剣を振るう。
「まさか…俺のことが見えているのか…」
剣は腕で防がれたが、やはり見えないだけでその場にはいるようだ。空間認識で、拳を振り上げて走って来た骸骨の姿が、しっかりと確認できた。
「そこですか」
「はっ!」
俺の攻撃で位置を特定したフランとカリアが、グエンに向けて剣を振るう。しかし奴は即座の判断で、回避行動を取った。二人の剣が空を切る。
それほど動きが早い訳ではないが、見えない相手に攻撃を当てるのはかなり難しい。奴の厄介なところは、目に見えないだけではない。
「流石に気配を感じ取れないのは、厄介極まりないですね」
「そうだな。何が起きているか、全く分からない」
二人の言う通り、気配が何もないのである。俺の剣が当たったので、ゴーストのように実体がない訳ではない。それなのに、息遣いや足音等が一切聞こえないのである。
職業が暗殺者であるフランのスキルでも、気配を薄くするだけだ。つまり感じ取り難いだけで、感じることができない訳ではない。
だが奴からは、一切感じ取ることができない。
空間認識の範囲から奴が出ないように、距離を詰めていく。
「フラン達は、奥の魔物を頼む」
「それがいいようですね」
「了解!」
「わかったわ!!」
「頑張るのです!!」
俺の言葉に、流石に不利を感じていた皆が魔物の群れへと向かう。
「サーシャは待ってくれ」
「?」
サーシャだけを呼び止めたことで、彼女は不思議そうな顔をしていた。俺が彼女の方を向いていることで、隙を見つけたと思ったのだろう。グエンがこちらへと襲い掛かってくる。だが空間認識で把握しているので、見なくとも動きが手に取るようにわかる。
奴の拳を躱し、カウンターで剣の一撃を叩き込む。しかし骨の体は硬く、ダメージを与えられない。
だがそれは、最初の一撃で予測済みだ。俺に気を取られている内に、フラン達が魔物の群れまで辿り着いた。
「サーシャは、集落に状況の報告に行ってくれ」
「はい!」
少しも考えることなく、すぐに足を進める。向かった先は馬を繋いである場所だ。
「…任せて」
鞄のポケットからミリアが顔を出し、小さな声で言う。彼女の場合は、サーシャを守るということを言っているのだろう。認識阻害の魔法を使える彼女が一緒ならば、より安全に集落へと向かえるはずだ。
「成程。俺はまんまと足止めされた訳だ」
「そういうことだな」
言いながら、奴の目に向けて剣を突き出す。先ほどは骨の硬さに身を任せて、一切防御をしなかった。しかし今回は、右手で剣を防ぐ。
「危ないな」
最初に骸骨の姿が見えた時、目には赤い宝石のような瞳があった。そこは骨ではなかったので狙ったのだが、どうやら弱点のようだ。
「目が弱点か」
「さて、どうだろうな」
そう言いながら繰り出してくる拳を、全て左右に回避していく。回避しながら時折剣を突き出すと、やはり全て防御していた。
奴の弱点はもう一つある。奴の胸骨の奥には、赤色の玉が見えた。つまり、胸に核があるということだ。これが一番の弱点だろう。
俺が目ばかりを狙っているのは、核の防御を薄くするためでもある。
「何!?」
奴の右拳を右に回避して、さらに視界から外れる。右拳を振り切った態勢なので、完全に胸はがら空きとなっていた。
そこへ剣を振るう。グエンは咄嗟に右腕を上げて目を庇うが、今回は目を狙っている訳ではない。
「…マジか」
「…流石に焦ったぞ。まさか核を狙ってくるとはな」
奴は無理矢理体を捻り、胸骨で剣を受け止めていた。視界外から隙を突いたはずなのだが、防がれてしまった。
「流石に無理か…」
その後何度も核を狙ってみたが、悉く防がれてしまった。奴は骨の体で剣を止めればいいが、こちらは胸骨の隙間を狙う必要がある。
このままでは、いつまで経っても奴を倒すことができない。
やはり隙を突いた一撃を加えなければならないだろう。一応、意識外からの一撃は考えてある。
「ここだな」
剣に結界を纏わせて、全力の一撃を叩き込む。先ほどまで全て体で受け止めていたので、同じように体を逸らして胸骨で受け止めた。
「グッ!?」
ミシッと胸骨が軋む音が響く。そのままさらに力を込めると、骨を砕いて核へと結界の刃が届いた。核はとても脆く、簡単に砕け散る。
「俺が…負け…」
言葉が途中で途切れる。すでにグエンの体は、核を壊されたことによりバラバラの骨になっていた。剣を当てた際に思っていたが、やはり他の骨より胸骨は少し柔らかかったようだ。おかげで、結界を纏わせた剣で砕くことができた。
こちらは片付いたので、次は魔物の群れへと向かう。




