第四十八話 それぞれの準備-2
第三章 歪んだ国
第四十八話 それぞれの準備-2
カリア視点
城下町が騒がしくなっている。戦争準備をするため、兵士が走り回っているのだ。町の住人には、戦争の話は伝わっていない。この国の王が情報を開示しないことにしたのだ。
戦争を行うとしても、神秘の森周辺で戦うことになるからだろう。戦争に負けない限り、冒険者や兵士以外にはあまり関係のない話だ。無駄に住人の不安を煽るような真似をする必要はない。そう考えると、この国の王は賢人なのだろう。
現在は宿屋の一室で、クロウ達と今後のことについて話し合いをしている。参加しているメンバーは、私達のパーティー全員である。
一人部屋なのだが、流石は王が用意してくれた部屋だ。パーティー全員が入っても、まだ狭苦しくない。はっきり言って、ソルトの冒険者ギルドとそれほど変わらない大きさだ。まあ、あの冒険者ギルドが小さい過ぎるだけのだが…。
「カリアとミリアには頼みたいことがある」
クロウ達は王都に残るようだが、私達には別の用事があるようだ。
「カリアはエルフの里に、ミリアは妖精の村に行ってほしい」
「戦争のことを知らせるのか? 確かにエルフの里は神秘の森にあるから危険だが、妖精の村は関係ないのではないか?」
「…ん」
防衛線を神秘の森を抜けた先に張ろうとしている以上、森に冒険者や兵士が入り込む必要がある。そのため、里の皆に迷惑がかかるかもしれない。
それ以前に、里から離れてもらった方がいいだろう。防衛線を抜けて、森へと入って行く冒険者がいるかもしれないのだ。そうなると、エルフの里が攻撃されてしまうかもしれない。
「エルフや妖精にも手伝ってほしいんだよ」
「何だと?」
「…?」
どうやら、クロウは皆を戦争で戦わせようとしているようだ。まさか、そのようなことを考えているとは思わなかった。神秘の森の先で戦うと王に進言したのも、エルフの里の皆を守るためだと思っていたのだが…。
「まあ聞いてくれ! これは、皆のためでもあるんだ」
私とミリアの視線を受け、彼は狼狽しながら慌ててそう言った。
「俺達がもし負ければ、フスト王国の冒険者や兵士がウェンデルト王国に入ってくる」
「そうなるな。だが、それは負ければの話だ」
私は負ける気等は一切ない。誰が相手であろうと、全て斬るつもりでいる。
「俺達のパーティーは少数だ。たとえ俺達が勝とうと、他が負けていれば意味がない」
「それは…」
「フスト王国の者達は亜人差別が酷い。見つかれば、何をされるかわからない」
「…」
クロウの言葉に、私は何も言い返せなくなってしまう。私達だけで全ての敵を倒せるとは思っていない。冒険者見習いをしていた頃は小さな町にしか行っていなかったので、多くの人間がいることを知らなかった。
だが今は昔とは違い、クロウ達とユーリアや王都という人口が多い町を見てきたのだ。全ての人間が攻めてきたら、私達だけで行軍を止めることはできないだろう。
エルフ達は全員が強力な魔法使いだ。そのため、戦いではそうそう負けないだろう。しかし、戦争に出てくる相手も強者達だ。さらに人間は、狡猾で自然を大切にしない。森で戦うとなると、エルフ達が不利な戦いを強いられることになるのは目に見えている。
それならば自分達で敵を倒すというのは、案外悪くない方法なのかもしれない。
「分かった。エルフの皆には私が伝えよう」
「私も」
ミリアもクロウの頼みを了承したようだ。
翌日、私とミリアは二人で王都を出た。本当は馬車でソルトまで行きたかったのだが、冒険者や兵士の行き交いが多く乗ることができなかったので、歩きで向かう。
数分歩く度に、馬車が横を通り過ぎていく。馬車にはやはり、冒険者や兵士が乗っていた。そのおかげで、私達が歩く道には全く魔物がいない。止まることなく、順調に進むことができる。
「またな」
「ん」
ユーリアでミリアと別れる。彼女は妖精の村に行くため、この町から別行動となるのだ。町から林まではそれほど遠くないが、今から向かえば夜になってしまうだろう。この町で一泊してから林に向かうと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
彼女が言うには、夜の方が行動しやすいようだ。夜目の利く魔物は、あまり多くない。それに彼女は飛ぶこともできるため、夜の方が襲われる心配が殆どないのだ。
魔法も認識阻害の魔法なので、感覚が鈍る夜の方が効き目がいいらしい。
私も少しだけユーリアで休憩した後、再び神秘の森を目指して歩く。昼間とは違い、流石に広い道でもあまり馬車を見かけない。
昼の内に魔物は掃討されているため、全くと言っていいほど見かけなかった。ソルトに着くまでで一回だけ魔物と遭遇したが、群れからはぐれたのであろう一匹のナイトウルフだった。夜の闇に紛れて襲い掛かってきたが、群れからはぐれる程度の奴だ。
足音や息遣いは完全に殺していたが、気配を隠しきれていない。それにウルフは群れで息を合わせて襲い掛かって来るのが、面倒な相手である。一匹で襲われたとしても、全くと言っていいほど怖くない。
危なげなくナイトウルフの首を刎ねる。ナイトウルフは鼻のいい魔物だ。近くに仲間がいれば、血の臭いを嗅ぎつけて襲い掛かってくるかもしれない。すぐに剣の血を拭い、その場から離れた。
ソルトに着いた頃には、すでに日が昇ろうとしていた。徹夜で歩き続けて町まで来たが、あまり眠たくはない。なのでエルフの里に向かって、森へと入って行く。
元々エルフは、数日は眠る必要のない種族だ。夜は皆やることがないので眠っているが、夜の警備の担当になった者は、徹夜で警備をしている。人間よりも何百年と長く生きるエルフは、一日の感覚が人間と異なるのだ。
人間に合わせて毎日眠ることによって、すっかりこの生活が身に付いてしまった。今では数日起き続けている者の方が少ないだろう。
「カリアではないか!!」
里の近くまで来たところで、里の者と出会った。近くにも数人いるため、森の中を警戒して回っている者達だろう。
「話は明日する。私の家は空いてるか?」
「ああ。誰も手をつけてないから汚いだろうがな」
礼を言って彼と別れる。里に戻り家に入ると、懐かしい独特の香りがした。人間の作る住居と違い、自然の匂いがする。
今日はいつも以上によく眠れることだろう。
翌日に、長老の家の前に皆が集まってくれた。私が帰って来たことを知った者が、伝え回ってくれたのだ。
「よく帰った来てくれたな。それで、どうしたのだ?」
皆が集まる中、長老が代表として尋ねてくる。
「実は…」
フスト王国とウェンデルト王国の戦争のことや、クロウの考えを皆に伝える。それを聞き、全員が押し黙って考え始めた。
エルフは基本的に人間が嫌いだが、自分から戦闘を行うような血の気の多い種族ではない。そのため戦争があろうと、人間同士の諍いに介入することはないだろう。
しかし、今回は話が別だろう。神秘の森付近で戦争を行うということは、介入せずとも巻き込まれるということだ。危険も付き纏うので、誰しもが判断できないでいる。そんな中、長老が一歩前に出た。
「皆が悩むのも無理はない。今回の戦争は、国同士の戦いだ。名の知れた冒険者等も参加するだろう。儂等が魔法に優れているといえど、楽な戦いではない」
「神秘の森を守るのは、私達の使命では?」
「しかし、命を賭けて人間を助けるのもどうなのだろうか?」
エルフの里の中でも、特に力を持つパウとササリアの二人が長老に言う。二人の意見は対立していて、それぞれ発言に頷いている者がいる。
だが、どちらの言葉も皆の本音だろう。命懸けで人間を助けたくはないが、神秘の森は守りたいのだ。どちらの発言にも納得できるため、強く意見を言うものがいない。そのため、話し合いはずっと平行線であった。
「おほん!!」
長老がわざとらしい咳払いをする。周囲が静寂に包まれた。皆が、長老に全ての決定を委ねると視線で伝える。
「儂は決めたぞ! 儂等は…」
長老の声が、静寂の中に響き渡った。




