第四十九話 それぞれの準備-3
第三章 歪んだ国
第四十九話 それぞれの準備-3
ミリア視点
商人の町ユーリアで、妖精の村へと行くためにカリアと別れた。このまま休まずに、妖精の村がある林へと向かう。カリアはユーリアで少し休憩をしてから、ソルトへ向かうと言っていた。
私が休憩をしないのは、カリアの持つ鞄に入っていたからだ。王都からここまで動いていないので、全く疲れていない。認識阻害の魔法も、道に馬車が沢山通行していて魔物がいなかったため、一切使っていない。
「帰るのが早い」
つい最近村を出たばかりなのだが、もう帰ることとなってしまった。いろいろな場所を冒険してくると言って出て来た手前、すぐに帰るのは何とも恥ずかしい。
背中にある羽を動かし、地面から少し離れた場所を飛んで行く。地面から大きく離れてしまうと、風が強くなって飛び難くなってしまう。さらに、大空を飛ぶ鳥とは違って視力がいい訳ではない。なので大きなものしか見えなくなるのだ。
殆どの妖精が、ある程度の高さまでしか飛ぶことはない。大空を自由に飛び回りたいという例外もいるが、実際に上手に飛べているところを見たことがなかったりする。
「久しぶりに喋った気がする」
妖精の村では酒を飲むことがなかった。そのため、酔って誰かと話をするということがなかったのだ。私はどうやら、酔うと話が止まらなくなるらしい。宴会で酒を飲んだ時に、自分のことなのに初めて知った。
私は誰かと話をするのは苦手だが、話すこと自体は嫌いではない。それが酔った時に出ているのであろう。村では、唯一家族にだけは普通に話せていた。村を出て以降、酒の席以外で誰かとまともに話した覚えがない。
クロウはかなり特殊な人間だと思う。私があまり話さないのに、しっかりと意図を汲んで行動してくれるのだ。殆ど会話をせず極力言葉を短くするため、ぶっきらぼうな言い方に聞こえてしまう。それが原因で、嫌悪的な目を向けられる。
村でも仲がよかった者ですら、私の考えを理解してくれる者は少ない。それ以外の者も紳士的に接してくれるが、それは私が村長の孫娘だったからだ。
今は周囲に誰もいないので、独り言も長くなってしまった。私は自分が思うよりも、話すのが好きなのかもしれない。
パーティー全員に話すのが苦手と思われているのは、共に旅をしていて分かった。実際、まだパーティーメンバーの誰とも話すことができないため、そう思われても仕方がないのだが…。今話すこと自体は好きだとカミングアウトしたとしても、私がまともに話せないのでは意味がない。
「いつかは慣れて、沢山話したいな」
これは周囲が解決してくれるものではない。私が頑張らないといけないものだ。陽が落ちて、周囲が暗くなってくる。夜になったようだ。少しだけ高度を上げる。
「スンスン」
夜に群れで狩りを行うナイトウルフ達が、活発になってきた。獲物を探して、鼻を鳴らしながらウロウロとしている。彼等は夜目が利くが、それ以上に嗅覚や臭覚を使って狩りを行う。
「ガルルル」
宙にいる私のことに気付いた者がいたが、ナイトウルフ達ではここまで届くことはない。このために高度を少し上げたのだ。夜に狩りを行う魔物は、狼等のような地上にいる魔物達ばかりである。空を飛んでいる魔物で夜目の利く鳥のような魔物もいるが、空に注意をしていれば襲われることはない。
彼等は夜に獲物を探す際は、低空飛行して探す。そのため、意外と分かり易いのだ。
「やっと着いた」
ようやく林に着いた。ユーリアからここまであまり遠くはないが、私達の大きさからすると結構な距離がある。
林には妖精の認識阻害の魔法が掛かっているため、魔物は生息していない。たまに迷い込む魔物もいるが、集団で戦えば私達の低レベルな攻撃魔法でも倒すことができる。認識阻害の魔法以外は不得意だが、攻撃魔法が使えない訳ではない。
林に入った後は上空に気を付ける必要はない。木々が私の姿を遮るため、上空からでは見えなくなるのだ。魔物もそれが分かっているため、森等の木々が多いところでは狩りを行うことはない。
例外は前回妖精を襲っていた飛竜である。彼等は上空から狩りを行う訳ではないので、餌を探して林に普通に降りて来たのだ。強力な魔物のため、林に掛かっている認識阻害の魔法も効果がなかった。そのため、林の中にいても村の者に被害が出てしまった。
「ミリアではないか。もう帰って来たのか?」
やはり、皆が思っているより帰って来るのが早かったようだ。家に帰ると次期村長である、父親のジュラが言った。村長に話をするために家の中を探していると、再びジュラに声をかけられた。
「父様はすでにお休みになられている。挨拶は明日にするといい」
「分かりました。明日は父上も聞いていて下さい」
「分かった」
それだけ言うと、ジュラは自室へと戻っていった。話は明日になるということなので、私も自室に戻って眠ることにする。
私の部屋には、ものが殆どない。あるのはベッドと机、椅子が一つずつあるだけだ。ものを買うお金がないのではなく、私がものをあまり置かないだけである。
ベッドに体を預ける。宿では常に誰かと同じ部屋だったので、一人で眠るのは久しぶりだ。何だか少し寂しい気がする。
「そういうことか…」
「人間の戦いに、わざわざ参加する必要はないだろう」
「でも…」
ジュラとコートリアの二人に説明すると、ジュラはあまり乗り気ではないようだった。それはそうだろう。妖精達がわざわざ参加する意味がないからだ。たとえフスト王国の兵や冒険者が亜人である妖精を差別するとしても、その時に人間と戦えばいいだけだろう。
「差別されるとしても、今まで通りここに閉じ籠っていれば問題ないだろう」
やはり…そのように言ってくると思った。この言葉に、私は反論する言葉を持たない。
「私は賛成だ。この林を焼かれると、認識阻害の魔法も関係ないからな」
「それはそうですが…」
私が言ったら反論していたのだろうが、村長に言われたら流石に考え始めたようだ。
「私は、どの道戦争に参加できないだろう。最後の判断はお前に任すぞ」
ジュラに判断を託し、コートリアは口を閉ざしたのだった。
カトレア視点
王都に来てから二日が経過した。やることがないので、今日も暇潰しがてらに兵士の特訓相手を務めたいと思う。
ウェンデルト王国の兵士は、力を確認した際にあまり強くなかった。強い者は、それぞれの町に先に派遣されていったからだ。
しかし残った兵士も質はかなり良く、訓練を付けるとすぐに力を付けていった。未だに私からすると弱いが、始めよりも強くなっているのは間違いない。これは私よりも、フランの功績が大きいだろう。
私は暴れること自体は得意だが、それ以外はあまり得意ではない。会議を行っていた際も、私は聞くばかりで一切口出しはしなかった。フランは戦闘狂だが意外と頭が切れ、こういったことも得意だった。
特訓時には、私はただ数人相手に暴れているだけだ。それでも兵士は多人数で陣形を組み、強力な敵と戦うことが多い。これは、誰もが強力な魔物と戦えるほど強くなれる訳ではないからだ。弱者である人間ならではの考え方だった。
私もこの考え方には好感が持てる。強敵と戦いたいと常々思っているが、一対一で戦いたい訳ではない。戦略を組んで弱さを補うのも、それはそれで強さだと私は思う。
「あの、私にも特訓を付けて下さい」
兵士の中から、一人の亜人が出てくる。犬獣人の女の子、クロウのパーティーにいるサーシャという女の子だ。
「いいわよ。私は誰であろうと容赦はしないけど…」
「お願いします」
彼女は私の発言を聞き、頭を下げた。本当によくわからない子だ。まだ天職すら得られていないのに、彼女は強くなろうと必死に努力をしている。
それ自体は素晴らしいと思うのだが、魔術師系の職業になればあまり役に立たなくなってしまう。
「それでは、行きます!」
彼女は自分の武器である短槍を構えて、こちらに向かってくる。鋭い突きだが、短槍なのでリーチと威力が足りない。私は構えた武器で簡単に、突き出された槍を払う。
「まだです!!」
払われた槍を持ち替え、柄の方で私の顎を狙ってくる。払った勢いも相まって、威力が先ほどよりも上がっていた。この一撃をもらえば、私の顎は砕かれてしまうだろう。
「危ないですわね~」
「きゃっ!!」
柄の一撃を敢えて前に行くことで回避し、そのまま蹴りを入れる。咄嗟に短槍で防いだようだが、吹き飛んで地面を転がった。
カリアやクロウに鍛えられているだけあり、やはりこの子は相当強い。身体的にはまだ未熟であるので、そこはこれからの課題点だろう。しかし、反応速度や槍の技術はその辺りの兵士よりも上だ。
「治癒」
傷だらけになっても未だに立ち上がろうとしている彼女に、回復魔法を掛けてあげる。それを見ていた兵士達が、彼女に称賛の声を上げた。この程度で称賛されても、彼女は嬉しくないだろう。
これから戦場で戦う、クロウのパーティーでこれから戦うのであれば、この程度の強さでは話にならない。子供だからといって、敵が手加減してくれるとは限らないのだ。
「まだまだですわね」
「はい。頑張ってもっと強くなります」
彼女は表情を引き締め、再び私に向かって短槍を構える。彼女はこれから、さらに強くなっていくだろう。自分で強い存在を育てるというのも、それはそれで楽しそうだ。いい暇潰し相手を見つけて、私の顔に笑顔が浮かんだ。




