第四十七話 それぞれの準備-1
第三章 歪んだ国
第四十七話 それぞれの準備-1
ソルトから馬車で王都へと向かう。戦争が行われようとしているという情報を速く届けるために、帰りはユーリアで泊まらずに進むこととなった。一応町は経由するが、馬を乗り捨てる算段らしい。ユーリアで疲労した馬を新たな馬に変えて、馬を休ませずに帰還する。
俺達は馬車の上で寝れるため、眠れないのは御者の兵士だけだ。一夜だけとはいえ、常に馬車を操作する必要があるため疲労が蓄積していく。
「それでは、お休みなさいませ」
夜になり、馬車には明かりが付けられて走っている。すでに、馬車はユーリアを越えている。このまま走らせ続けると、昼前には王都に辿り着くだろう。
俺達のパーティーは六人いるため、三人ずつ交代で眠ることにした。残りの三人は、起きて見張りをしてもらう。馬車の御者を務めているのは兵士のため、本当は見張りをする必要はないのだ。
しかし何かが起きた際にすぐ対応できるよう、見張りを立たせておくことにする。今馬車が進んでいる道は、強力な魔物が出る可能性もあるからだ。兵士が魔物に気付いて起こされてからでは、対応に遅れてしまうかもしれない。それでは困る。
「サーシャは戦争に連れていくのか?」
「連れて行く訳ないだろう。流石にサーシャには荷が重い」
カリアの問いに答える。サーシャは着実に力を付けていってるが、まだ戦争を生き延びられるとは思えない。また、彼女は人間と戦うのが未だに苦手なのだ。
「私は勿論行くぞ」
「ああ。頼りにしている」
「…行く」
ミリアも戦争の際は、付いてきてくれるらしい。
フスト王国はウェンデルト王国と違って、兵力の強化に力を入れている。これは、フスト王国には魔王の領地が隣にあるからだ。そのため、ウェンデルト王国よりもフスト王国の方が戦力は高い。
兵の強さだけならば、それほど大きく変わらないだろう。何なら、それぞれの特徴を生かして育てているウェンデルト王国の方が、個人の力は強いかもしれない。それでも、やはり数の差は大きい。
兵の数は、純水に三倍近くある。流石に桜花軍と魔王軍が周囲にいる状況で全ての兵を出しては来ないだろうが、兵数ではこちらをかなり上回って来るだろう。
兵数の差をカバーするには、彼女の認識阻害の魔法はとても重宝するはずだ。彼等も魔法道具で効果を防いでくるだろうが、魔法道具はかなり高価なものだ。団長や小隊長クラスならば兎も角、全員に行き渡ることはないだろう。
「そろそろ交代しますよ」
「眠たいんだけど…仕方ないわね」
「頑張ります!!」
カリア達と話している内に、交代の時間となったようだ。目を閉じて眠りにつく。昨夜は異臭であまり眠れなかったため、簡単に眠りに落ちた。
「付いて来て下さい」
王都に着いた後、城の入り口にいた兵士に連れられ、城の中を歩いて行く。どうやら、今回は王の私室ではないらしい。
「こちらになります」
着いたのは、作戦会議室のような場所だった。壁に付いた窓から中が窺える。中には王以外にも団長やローブを纏った魔法使い等がいる。
「あいつもいるのか…」
カリアが嫌そうな表情をして呟く。彼女の視線の先には、俺達のことが嫌いな大臣がいた。サーシャやミリアまでかなり嫌そうな表情だ。双子は彼のことを知らないので、不思議そうな表情を浮かべている。
向こうはこちらに気付いていないようで、一度も目を向けることはない。それほど会議に集中しているということだろう。
「失礼します」
兵士がドアをノックしてから入って行く。
「クロウ様一向をお連れしました」
「ご苦労」
兵士の声に、ようやく部屋の中の者達がこちらに気付いた。王が立ち上がり、こちらへと近付いてくる。
「どうだった?」
「フスト王国は…」
探ってきた情報を王に伝えていく。実際に見て来たのはフランなので、彼にも説明に加わってもらう。こちらの方が、細かいところでも的確な情報を伝えることができる。全てを伝え終えると、王は口を閉ざして考え始めた。
「やはり戦争を企てていたか。兵を集めてくれ!」
「はっ!!」
王の言葉で大臣達が動き始める。
すぐに城中の兵士が城門前に集まった。兵士が整列している中、王が前に進んで出て行く。
「一週間後、フスト王国がウェンデルト王国に攻めて来る」
王の言葉に僅かに兵士達が動揺するが、誰もが口を閉ざしている。一切騒がしくならないところが、兵士に教育が行き届いている証拠だろう。
「我々は、今から一週間後に神秘の森前に防衛線を敷く。そこからはフスト王国が攻めて来た時に、順次反撃を開始することとする」
「少しいいでしょうか?」
俺の言葉に、王だけでなく全ての兵がこちらに注目する。
「口を閉ざせ! 冒険者風情が!!」
やはり大臣が噛み付いてくる。
「大臣!」
「…申し訳ございません」
一言で大臣を黙らせ、視線で話せと訴えかけてきた。
「神秘の森を抜けた先に、防衛線を張りましょう」
「ふむ…」
再び王が考黙考を始める。理由を聞いてこないが、そこは俺が言う気はないと思っているのだろうか?
恐らくそれを踏まえたうえで、何か利点がないか考えているのだろう。
「ウェンデルト王国の領土をわざわざ踏ませる必要はないか。よかろう。我々は神秘の森の先に防衛線を張る!!」
どうやら受け入れてもらえたようだ。
「案内は頼むぞ」
「はい」
当然だが、神秘の森の案内役を任された。
サーシャ視点
フスト王国との戦争が決まったみたいです。クロウ達もその戦争に参加するようで、会議が終わった後も王様と熱心に話していました。特に最近仲間に加わった、双子がやる気満々です。
私もクロウ達と共に戦いたいです。そのために、カリアに沢山特訓をつけてもらいまいした。昔の私と違って、今の私は強くなったと思います。クロウやカリアは、私が子供だからと戦いから遠ざけたりします。私は、もっと拾ってくれたクロウの役に立ちたいのです!
「一週間はとても長いですね」
「そうね。戦争があると聞いたら、特に長く感じるわ」
双子が待ち侘びるような表情を浮かべています。
「取り敢えず宿に向かうか」
クロウがそう言って、宿へと向かいました。王様が手配してくれたようで、とても高そうな宿です。部屋も全て一人部屋で、大きさもいつも以上でした。いつも皆一緒なので少し寂しくもありますが、私だけ妖精のミリアと相部屋なのです。
彼女は私の鞄の中によくいるため、私と一緒の部屋になりました。彼女は他の人よりも小さいので、一つの部屋を与えられると、大きすぎて使い辛いらしいです。
「俺はここに残る。冒険者達は一旦王都に集まるからな。見ておきたい」
「僕達も残ろうかな。特にやることないし」
「そうだね~」
クロウと一緒に、双子も王都に残るようです。
「カリアとミリアには頼みたいことがある」
そう言って、クロウは二人に頼みごとをしていました。二人も異論はないようで、明日には王都を出て行くようです。
私は戦争で活躍できるように、もっと訓練を続ける必要があります。私には、どうしても克服しておかなければいけない弱点があります。対人戦が苦手なことです。ウェンデルト王国と違ってフスト王国では、亜人は差別されていました。王都ではあまりなかったですが、それでも肩身狭く暮らしていました。
私は正直に言って、人間がとても怖いのです。というより、人間の攻撃的な表情に恐怖を覚えるのです。
カリアとの戦闘訓練は問題なく行えました。彼女は、私に一切攻撃的な表情を見せないからです。それならば、私は問題なく戦えます。しかし、戦争ではそうもいきません。誰もが、私達を殺す気で向かってくるでしょう。
「冒険者の双子が稽古をつけてくれるらしいぞ」
「大丈夫なのか?」
「それが、凄く強いらしい」
カリアとミリアが王都を旅立ってから、二日が経ちました。皆忙しそうにしていて、私は基本的に独りぼっちです。そのため、一人で特訓を続けています。初日の日は双子が暇そうにしていました。今では城に残っている兵士を訓練しているようです。
私はもっと強くならなければいけません。天職をまだ得ていない私が、パーティーで一番弱いからです。このままでは、いつまで経っても足手まといのままです。それは嫌なのです。
しかし私一人では、どれだけ頑張っても強くなれる気がしません。
「戦争で生き残るためには、少しでも強くならないとな」
そう呟きながら歩いて行く兵士に、私も付いていきます。
兵士が向かった先には、他にも沢山の兵士が集まっていました。
「お願いします。私も訓練に混ぜて下さい」
そう言って、私は頭を下げます。こうして強くなるために、私も一緒に訓練をしてもらうことになりました。




