第三十五話 結界術師、襲われる
第二章 商人の町ユーリア
第三十五話 結界術師、襲われる
妖精の住む村の前、妖精が俺達の前で頭を下げている。
「えっと…どういうことだ?」
助けてとだけ言われても、何のことだかさっぱりわからない。面倒ごとには極力首を突っ込みたくはないが、自分にも降りかかる可能性があるのならば話は別だ。
内容は聞いておくべきだと思う。
「最近、村を飛竜が襲ってくる」
竜の中にもいろいろな種類がいて、中でも空を飛ぶ竜を飛竜という。他にも翼を持たない地竜や水の中で生きる水竜がいる。竜の中でも伝説級と呼ばれていた者達は、飛竜だったという。現在確認されている飛竜や地竜、水竜は力を失っていった子孫だと言われている。
戦争時代に生きていた竜は竜帝と名付けられているが、精霊のように生きて延びている可能性だってあった。その場合、他の町を襲い始めたら全てが滅んでいくだろう。
今の世界で彼等に対抗できる存在は、同じ四大種族くらいだ。そして、戦い始めたら周辺は焦土と化す可能性が高い。
「飛竜はどの種類だ?」
飛竜といっても、種類によって強さはかなり違う。S級の巨竜やA級の空竜、B級の翼竜がいる。
だが竜はどの個体も能力が高く、なりそこないと言われている翼竜ですらB級だ。翼竜は腕の部分に翼があり、二足歩行の竜である。
息吹を吐くこともなく、体格は小さく地上を動くのはかなり遅い。そのため、他の飛竜よりも弱い。翼竜がなりそこないと言われる所以だ。
「わからない」
竜に襲われれば、妖精の村など一瞬で滅ぶだろう。つまり、村自体が襲われた訳ではないのだ。妖精の中で誰かが襲われたのだろう。
命からがら逃げてきたのであれば、種類を確認している暇などないだろう。襲ってきたのが翼竜だったとしても、彼等の大きさならば一撃で殺されてしまう。
人間ですら、翼竜の一噛みで半身が食われる。
「流石に、飛竜は相手にできない」
B級なので、魔王軍幹部であったスラウに近い強さを持っているのだ。倒せる可能性もあるが、危険極まりない。空を飛ぶという点も厄介なところだ。
俺達には遠距離攻撃が得意な魔術師系の職業がいない。空に逃げられると、俺の結界を足場にして空中戦をしなければならないのだ。自由に動ける翼竜とでは、動きに差が出てきてしまう。
「…そう」
悲しそうな表情を浮かべたが、それ以上の言葉を発することはない。
「拒否したら、案内は終わりか?」
俺達に助けてほしくてここまで連れて来たのだろう。助けないと知った今、彼女に案内を続ける理由はない。二人を人質に取っているが、すでに俺の言葉を無視してここまで来た。
俺が短気だった場合、その時点で二人を殺している。彼女が村を優先していることは明らかだ。それだけ切羽詰まった状況なのだろう。
だが、悪いが自分達の安全を優先させてもらうことにする。
「こっち」
俺の言葉を聞き、再び案内を始める。どうやら、案内は最後まで行ってくれるようだ。罠に嵌めようとしている可能性もあるが…。
彼女は口数が少なく考えがわかり難いが、それでも何かこちらに危害を加えようとしているようには思えない。
「何故案内を続ける?」
「…約束」
約束は守るということだろう。村を救えなかった代わりに、せめて二人は助けようとしているのだ。実はすでに二人は解放されている。
ここまで離れると、範囲を越えているので俺の結界は勝手に解除されてしまう。つまり二人がこちらの場所へ来ると、人質がいないことに彼女が気付く。案内を途中で放棄して逃げてしまうだろう。
「そう言えば、魔物を見かけないです」
「恐怖」
「どういうことですか?」
「…飛竜」
「??」
サーシャはこの林に魔物が全然いないことに気付いたようだ。説明は言葉が足りず、彼女は理解できなかったらしい。
「飛竜が怖くて、魔物も近付かないんだろ」
俺の言葉にミリアが頷く。サーシャが凄い、というように俺へと羨望の眼差しを向けた。別に、そこまでのことではないと思うのだが…。
もしかすると林の魔物が大移動をした結果、群れが形成されたのかもしれない。それがソルトへとやって来たのだろう。
ソルトへと攻めて来た群れは、飛竜が原因だった可能性がある。今となってはどうでもいいことだが。
「真っ直ぐ」
彼女が真っ直ぐと指をさす。この先に進めば林を抜けることが出来るのだろう。
「…約束」
「すでに解放している」
それを聞くと、俺に背を向けて飛んでいく。二人を探しに行ったのか、村へと戻ったのだろう。確認も取らずに去っていくとは…。
彼女にとっては約束は絶対のものなのか、はたまた嘘を見抜くような特殊なスキルを持っているのか。どちらにしても、俺達はここを抜けることができる。もう、彼女達とは関係がない存在だ。
林を抜けると、すでに太陽は真上まで来ていた。町へと辿り着く頃には陽が落ちているかもしれない。夜になると冒険者は入れないため、野宿をしなければいけなくなってしまう。
「少し急ぐぞ」
「陽が落ちるからな」
「はい!」
急いで歩いても問題ないようだ。そもそも、俺が一番体力がない。俺のペースに合わせてもらうのが一番いいだろう。
「グギャァァァァ」
背後から、何者かの声が聞こえてきた。咄嗟に振り返るが、何もいなかった。
「視線を感じる」
カリアが、遠くの空を見てそう呟く。周囲を見渡しているが、どこにいるのかまではわからないようだ。
俺の空間認識にも反応がない。つまり、近くにはいないということだ。サーシャは槍を構えてはいるが、何処にいるのかわからない存在に不安そうにしている。
「近くにはいないようだし、警戒しながらユーリアへと戻ろう」
いつまでもこの場に留まってはいられないので、移動を開始する。警戒を怠らない訳にはいかないが、居場所がわからないのであれば仕方がない。
結局町まで戻ってきたが、襲われることも近付いてくることもなかった。カリアが視線は感じていたようなので、どこかで見られてはいたのだろう。町に近付くと、視線は消えたようだ。
もしかすると妖精達が何かしらの魔法で監視していたのかもしれないが、可能性としては薄いだろう。魔法で監視をしているのであれば、俺の結界で遮ることができるからだ。俺達を結界で囲んでも、視線が消えることはなかった。
「取り敢えずは宿へ戻るか。報告は明日でいいだろう」
ウザン達を見つけられた訳ではない。飛竜も俺達は見ていないため、報告をする気はなかった。もしも討伐隊を結成して、俺達もそこへ組み込まれては困る。
ここには優秀な冒険者がいるし、人の行き交いも盛んだ。誰かが飛竜を見つけて、報告する可能性がある。俺達は、それまでに王都へと向かえば巻き込まれなくて済む。
「明日には王都へ向かうのか?」
「ああ」
「それならば、私は食料等の準備をしておこう」
「私も手伝う」
林から帰ってから数日が経った。冒険者ギルドへ報告したがほしい情報がなかったため、何も止められることなく解放された。
他の者達もウザンを見つけられていなかったので、彼には賞金がかかっている。居場所の報告だけでも少しもらえるため、冒険者以外の者も賞金ほしさに居場所を捜しているようだ。
カリアとサーシャが買い物を済ませておいてくれるらしい。これで遅くなったとしても、問題なく出発することができるだろう。
「いらっしゃいませ」
鍛冶屋の奥さんの声が店内に響く。やはり、店主の声は聞こえてこない。相変わらずの愛想の悪さのようだ。
「頼んでいたものはできたか?」
「ちょっと待っててね」
そう言って、店の奥へと入って行った。
「遅いぞ」
出て来たのはドワーフの男、この店の店主である。
「一週間って聞いていたんだが…」
「興が乗ってな。四日で完成したわ」
わざわざ一週間待ったのに、その必要はなかったようだ。最初からそう言ってくれれば、もっと早く王都へと向かえたのに…。
店主の態度は悪いが、渡された品物はどれもいいものだった。ミスリルで作られた防具で、鉄の装備よりも軽く丈夫だ。さらに形もかなり綺麗で、攻撃をできるだけ受け流すように滑らかな流線型である。角をできるだけ取り払っているのが、見ただけでわかる。
「メンテナンスは定期的にしろよ」
店主の言葉に頷き店を出る。集合場所は馬車の乗り合い所だ。そこで二人と合流することになっている。
乗り合い所へ行くと、先に二人が待っていた。
鞄がかなり膨れ上がっている。どれだけ買ってきたのだろう。今回は歩きではなく馬車なので、それほどいらないと思うのだが。
「それじゃあ、出発しますよ」
俺達が乗り込むと、御者のおじさんが馬を動かす。冒険者は俺達だけだ。基本的に、冒険者は護衛の依頼を受けたついでに他の町へ行く。そのため、馬車に乗り込むことはない。
中には仲がよさそうな男女と、小さな女の子がいた。
護衛にはEランクの冒険者三人がつくようだ。値段が安かったので選んだが、護衛の依頼料をケチっていたのだろう。
女の子はそれを見て不安に思っているようで、頻りに周囲を見渡している。
「ウガァァァァ」
「ひっ!」
馬車は順調に進んでいたが、何者かの咆哮が聞こえた途端に動きを止めた。護衛の冒険者が、緊張した様子で周囲を警戒している。
「来るぞ!」
カリアが叫ぶ。彼女の見ている方向を見る。
「何もいないじゃないか!」
「驚かせるな!」
冒険者が彼女へと罵声を浴びせる。まだ何も見えない。彼女もまだ見えてはいないだろう。だが、すでに感じているのだ。
やがて、こちらへ近付いてくる姿が見え始める。
上空で羽を動かし、口を大きく広げて前傾姿勢で急降下してくる。その姿は紛れもなく、小型のドラゴンである翼竜だった。
第二章を二十四話始まりに変更しました。




