第三十四話 結界術師、村を見つける
第二章 商人の町ユーリア
第三十四話 結界術師、村を見つける
ウザンを探すためにユーリアを出る。周辺といっても、感じ方は人それぞれだ。一日で往復できる距離を探す者もいれば、近辺のみを捜索する者もいる。
俺は野宿でも問題ないため、少し遠くまで行くことにした。どの道、そろそろユーリアを出て王都へ行こうと考えていたところだ。もう少しこの町の役に立ってもいいだろう。
相手は腐ってもCランク冒険者ということで、低ランクの冒険者はいくつかのパーティーで固まって行動している。俺とカーベインのパーティーは、同じCランク冒険者ということで単独で動いていた。
「太陽が気持ちいいです」
草原を歩くサーシャは、ピクニック気分でいるようだ。とても楽しそうな表情を浮かべている。視界を遮るものが何もないため、周囲を見渡せばすぐに敵に気付くことができる。
警戒さえ怠っていなければ、奇襲されることもないだろう。
危険がないため、彼女の好きなようにさせてやる。結構遠くまで歩いてきたのに、あっちに走ったりこっちに走ったりと凄く元気だ。
カリアも警戒を緩めることはないが、サーシャのはしゃぐ姿を見て嬉しそうな表情である。視線は常にサーシャに向いているが、周囲の気配を探っているのは流石だと思う。
特に俺はその辺りを空間認識に頼っているので、全くそちらへ意識が向かない。空間認識は優秀だが、範囲に入るまでわからないという短所がある。遠くで何か小細工をされていても、気付くことができないのだ。
ユーリアから二時間近く歩いたところで、小さめの林があった。
「ここは何処だ?」
カリアの言葉に、俺もサーシャも首を傾げる。地図には西に行けば山があると書かれていた。確かに遠くを見れば、林のさらに先に山が見える。だが、その手前に林など書かれていなかった。
小さいと言っても、林なので町一つ分ほどの大きさはある。これだけの大きさがあるのに、地図に載っていないのは明らかにおかしい。
「入ってみるか?」
「ああ」
「はい!」
俺の言葉に二人が答える。かなり危険ではあるが、ウザン達が逃げ込むならば地図に載っていない林は好都合だ。
警戒心を強めながら、木々の合間を進んでいく。サーシャもすでに気分を切り替えており、注意深く周囲を確認している。
木々に囲まれて視界が悪いこの状況では、俺の空間認識はかなり便利だ。どれだけ上手に隠れていようと、範囲に入れば見つけることができる。
「これって…また迷うか?」
ある程度歩いたところで、どちらから来たのかわからなくなってしまった。これは、何処も同じような見た目をしているからではない。それならば、以前の経験で回避できただろう。それだけ神秘の森には苦労をさせられた。
今回は明らかにおかしい。まるで、エルフ達が張った認識疎外の魔法にかかっている時みたいに…。
そこでふと気付く。地図に載っていないのは、何者かによる認識阻害等の魔法によるものではないかと。ウェンデルト王国は亜人をそれほど軽視していない。そのため、この不思議な林にエルフがいてもおかしくはない。
「私も帰り道がわからなくなった。明らかに何者かによるものだろう」
彼女はエルフなので、自然の中で迷うなんてことはあり得ないのだ。つまり、誰かが妨害しているということだ。それも、エルフである彼女に自然の中で迷わせるほどのレベルで。
認識阻害は空間認識の最大の弱点とも言える。認識を阻害されるため、役に立たなくなってしまう。
「ここは私が」
そう言って、カリアが地面に手をつく。すると手から地面に、そして植物へと彼女の魔力が流れていった。
認識阻害の魔法を妨害するように、魔力が流れた植物が光り出す。その光に触れた空間が揺れ始めた。その場所だけが先ほどと見た目が変わっていく。植物の周辺の景色が変わっていくが、光が全てを覆うことはない。
「はぁ…はぁ…流石に無理か」
植物の発光が止まる。カリアが脂汗を垂らし、肩で息をしていた。彼女は魔法戦士であり、職業的には戦士系の職業だ。魔術師系とは違い、魔力がそれほど多い訳ではない。
これだけの規模の認識阻害魔法を打ち消すには、どうやら魔力が足りなかったようだ。
結局正解の道は見つからず、認識阻害の魔法がかかっているということがわかっただけだった。
「今日はここで休むことにしよう」
林の中だが、結界を張っていれば安全に寝ることができる。カリアの魔力が回復した後に、少しずつ先ほどの力を使って動くことにした。
結界の中で食事を取り、寝袋を広げる。カリアは魔力を使い過ぎたようで、寝袋に入るなりすぐに眠りについた。
サーシャはまだ起きてはいるが、うとうとしていてすぐにでも寝てしまいそうだ。昼間にあれだけ騒いでいたのだ。疲れているのだろう。今日は十時間近く歩き続けていた。
俺も眠りにつく。
「あれ!?」
「何これ!?」
「何?」
三つの反応が空間認識に引っかかる。二つが結界に阻まれて戸惑い、もう一つはその様子を後ろから見ている。このために、今回は結界を小さめに張っていた。
空間認識は結界よりもかなり大きく張っていたのだが、ここまで近付かれるまで気付けなかった。寝ていたということもあるが、やはり認識阻害によるものが大きい。
「結界を張った。お前達は逃がさないぞ」
居場所さえわかればこちらのものだ。反応を結界で囲む。
「何すんのよ!」
「出られない」
「…」
結界に捕らわれていたのは妖精だった。その辺りに咲いている花と同じくらいの大きさで、羽の生えた人のような見た目をしている。
出ようと必死に暴れているが、結界から抜け出すことはない。三人共女のようだが結界の近くにいた二人とは違い、後ろから見ていた者はおとなしい。
妖精は精霊に似ているが、明確に異なる点がある。妨害系の魔法に特化しており、攻撃魔法は苦手だ。そして、しっかりとした自分の肉体を持っている。そのため、全員が十センチくらいの大きさしかない。
精霊は魔力で体を構成しているため、突然現れたり変形したり、分身を作ることも可能なのだ。
「どうするの?」
おとなしい妖精がこちらへと尋ねてくる。脱出できない二人を見て、力尽くで出ることをすでに諦めているようだ。
「俺達はこの林を抜けたいだけだ」
「嘘つくな! 私達を襲いに来たんだろ!」
「そうですね」
俺の言葉を二人が否定する。
「敵?」
敵とは誰のことを指すのかわからなかったが、妖精がいるなど知らなかったのだ。俺達が敵であるはずがない。
「俺達は本当に敵ではない」
「「嘘だ!」」
「そう…。こっち」
騒ぐ二人を無視して、おとなしい妖精が進む方向を教えてくれる。結界に囲まれてるため、彼女はこれ以上案内できない。
「ちょっと! 何でミリアだけ出すのよ!」
おとなしい妖精はミリアというようだ。案内役として、結界を解除して彼女を自由にした。逃がさないために、他の二人は結界に閉じ込めたままだ。人質として使わせてもらう。
「…こっち」
彼女はおとなしいだけでなく、口数もあまり多くないようだ。必要なことしか話そうとしない。木々の隙間から光が漏れ始めた。そろそろ林を抜けるのだろう。
そう思っていたが、現実は違うようだ。
「私達の村」
円形に林が開けていた。そこだけ光が入り込み、中心にポツンと小さな村がある。ミニチュアの玩具のような大きさだ。妖精の村なので、この大きさが適切なのだろう。大きさ的に、俺達が村へ入ることはできない。
何故彼女がここに連れていたのかがわからない。だが、騙してここまで連れてきたことに変わりはない。
「何故ここへ連れてきた。俺達は林を抜けたいと言ったはずだ」
「助けて」
彼女は一言そう言い、俺達へと深く頭を下げた。
妖精の名前がアンのままだったので、ミリアに修正しました。




