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「え〜、今回、我々が高名な魔女であるアリッサさんにお願いにあがったのはですなー」
「あたしは魔女じゃない、魔法使いだよ」
アリッサは、なぜか自分が「魔女」と呼ばれるのを好まない。彼女にビシッと指摘され、ハートストン魔道士は、再び汗を拭う。あまり気が強い性質ではないようだ。
「失礼いたしました。あ〜、つまりですな、私が言いたかったのは、今回我々が直面した事態というのが、我々の想定の範囲をはるかに超えたものでして、言うなればー」
「もう結構、私からご説明いたしますわ」
ハートストンの無駄の多い言葉は、ヒルダの無機質な声によって再びさえぎられてしまった。彼女は、ハートストンを一瞥すると、極めて事務的な口調のまま、言葉を継いだ。
「今回、私たちが伺いましたのは、ウォルター先生のご子息である、レイモンド様の捜索に協力していただきたいのです」
「ほう」
アリッサの目に、興味深そうな光が走るのをブランは見逃さなかった。
レイモンド・ウォルター…ウォルター議員の息子にして第一秘書。ヒルダ女史によれば、政治家としての将来も期待されている人物のようだ。
今月に入って、レイモンドの元には、毎日のように脅迫状が届いていたらしい。「君が欲しい」「いつも見ているよ」「すぐにでも奪い去りたい」など不気味な内容が続いたので、ウォルター議員の意向もあり、レイモンドの身辺は、厳重な警備がおかれることとなった。
事件が起こったのは五日前。三人の傭兵に警護され、議員会館から自宅へ戻る途中、何者に連れ去られてしまったのだ。傭兵たちはすべて無残な死体となって現場に残されており、あわれな彼らの皮膚は、異常な紫色に変色していたという。
「それでですな、ウォルター先生が、これは通常の誘拐事件とは違うと判断され、私のところにひそかに調査を頼みにいらしたのです、はい」
ヒルダが説明を開始して以来、初めてハートストンが口を挟む。
ハートストンによると、傭兵たちの死因は、黒魔術で使用する特殊な毒薬を気化させたものを吸い込んことによるものだった。
「現場に残された、魔力痕を調査する限り、これは相当に力のある、しかも闇の魔術に長けたものの仕業ということが判明いたしましてな。これはまずい。これでは、私一人の手においかねるとウォルター先生にご注進いたしたのですよ」
フィンは、評議会の元に福祉制度を整備し、発展してきた先進的な考えの国家である。そのため、魔法・魔術という社会システムに組み入れづらいものは、あまり重きをおかれていなかった。そのため公職においては、議会付きのハートストン魔道士以外には、一人も関係者がいなかったのだ。魔道士部隊を抱える近隣の王国や、ましてや魔道王を頂点に、国政を魔道士達が動かしている、魔道王国ドルクロスとは、まったく事情が違うのだ。




