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「さて、ヒルダ」
アリッサの声に一同の視線が揺り椅子に集まる。そこに変わりはてた姿で座っていたのは、ウォルター議員の秘書であるヒルダ・ログストンであり、ここは彼女の自宅の一室であった。
いつもきっちりと結い上げていた髪はバサバサと肩から無造作に流れ落ち、目は焦点が定まらず、眼鏡は完全にずり落ちていた。口からは絶えず唾液がしたたり落ち、時おり思い出したように「うひひひひひひ」という声を漏らすのだった。
以前の知的で、キビキビとした彼女を知る者が今の姿を見たら、ショックを受けるのは確実であった。
「うひひひひひ」
ブランには、身だしなみを整えず、化粧もすっかり崩れ落ちている彼女が、最初に会った時よりも、少なくとも十は老けて見えた。
「さてと……サリサ」
アリッサに呼ばれたシスター・サリサが彼女の側へと行く。
「あんた、精神を治療する魔法は使えるかい?」
「ええ…」
シスター・サリサは、ちょっと困った表情になる。
「錯乱した気持ちを静める術法がありますわ。一時的に正気づかせることはできるかもしれません。でも…ここまで人格が崩壊していては根本的な回復はもう…」
「わかっているさ」
「え?」
アリッサの言葉に、うつむいていたシスターが顔をあげる。
「あれを見てごらん」
アリッサが指したのは、ヒルダの手に握られていた透明の小瓶だった。中身はすでに空だったが、瓶の内側が黒くすすけていた。
「かすかだがこの匂い…」
アリッサが苦々しい顔になる。
「ゾンビパウダーだ」




