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「あ、馬車だ」
翌朝、ブランが二日酔いでガンガンする頭をおさえながら出勤すると、施設の入口に馬車がとまっていた。四頭立ての豪華なつくりで、なかなか街中でも見かけないような代物だ。
そして、ブランが驚いたことには、馬車の脇には、護衛らしき二人の護法騎士が立っていた。
フィン共和国には、二つの騎士団が存在する。ひとつは、市民の安全や、街の治安を守る『護民騎士団』。幼なじみのナップが入隊しているのはこちらである。いまひとつは、フィン評議会を護衛し、他国からの侵略に対し防衛活動をとる『護法騎士団』。この2つの騎士団が、フィンの軍事力の要である。
とはいえ、護民騎士団一万、護法騎士団五千、これに、各地の警備隊等をかき集めて加えたとしても、国の総兵力が三万足らずというのは、この時代においては、相当な弱小国家であるといえるのだが。
ブランは、銀の鎧に身をつつみ、いかめしい顔で馬車の番をしている護法騎士の脇を、やや緊張した面もちで一礼し、通り過ぎていった。これが護民騎士であれば、街中でよく見かけるし、気軽にあいさつもできたのであろうが、総じてヨルム市民にとって、護民騎士は下町の安い定食屋、護法騎士は正装が必要な高級料理屋といった存在なのだ。
「おお、ブラン君待ってたよ」
ロビーにつくと、待ってましたとばかりに施設長のツールースがかけよってきた。
「着替えたら、すぐにアリッサさんの居室へ行ってください」
「え?でも伝達ノートが…」
伝達ノートとは、その日の入居者の健康状態等が記入されているもので、出勤したら、必ず最初に目を通さなければいけないものである。
「それはあと回しで大丈夫です。今、アリッサさんの居室に評議会の方がいらっしゃってます。さあ、行ってください」
ツールースは、何やらあせっているようだ。ブランは仕方なしに早足で更衣室へ向かった。




