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困ったときの神頼み 〜神様、そうじゃないんですけど!〜  作者: まりしてん美鶴


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第1話 大事なものは隠せ! EP1-2

 がた_がた_がらがら。


 今にも壊れそうな引き戸を開ける。

 そこには土間があり縁側が続く、昔ながらの古い平屋の日本家屋だ。

 小学校から中学校まで、塾と学校以外のほとんどを過ごした場所だ、今は懐かしい。



「来たよ。」


 いろりを片付けていた父が振り返りこちらを見る。


「奥の仏壇がある部屋に母さんがいるから、そっちを手伝ってやってくれ。」




「あら、よく来てくれたわね。ばあちゃん、美嗣が来てくれたよ。ばあちゃんのおかげでこの子もこんなに大きくなったよ。」



 祭壇に声をかける母。



「私はこの桐たんすをやるから、そっちの仏壇周りを片付けてね。」


 僕は仏壇に安置してある繰出位牌、おりんや香炉をおろし、少しだけ思い出のあるじいちゃんの写真を取り、埃をお清めした。



(ばあちゃん、よくじいちゃんに僕のことを報告してたな。)



 仏壇の引き出しを開けると、そこにはたくさんのノートが入っていた。表紙には古い日付が入っている、ばあちゃんの日記のようだ。



「母さん、ばあちゃんの日記があったよ。」

「あら懐かしい、ばあちゃんよく日記を書いていたからね。美嗣見てごらん、あなたを預かり始めたころの日記もあるわ。」



 11月10日

 洛南ルートとかで美嗣を私立小学校に受験させるらしい。


 1月1日

 新年おめでとう。美嗣は一人きり、正月くらい一緒にいてあげればいいのに。

 

 4月10日

 今日も幼児教室への送り迎え。寂しいのだろうけどとっても元気、がんばれ美嗣。


 4月11日

 願書を出したらしい。受験に向けて今年の夏が大事と言っていた。


 8月16日

 もうすぐ親子面接だというのに、美嗣は今日も落ち着きがない。


 8月17日

 今日も暑い1日だった。美嗣は庭の手入れをしているじいじにちょっかいを出して笑っている。



(――そうだ。思い出したあの日だ。)



「もうすぐお父さんとお母さんと大事な面接があるんだから、少しはじっとしてなさい。」

「やだよ、じいじともう少し遊ぶ!」

「あなた、雲行きが怪しいから早く家の中へ。」

「あぁ、美嗣、家に入るよ。」

「いやだー」


 ぴかっ……ざざー。


「ほらっ、早く早く」

「平気だもん」


 ・・・ゴロゴロゴロ。


「ほら! 雷様がおへそ取りに来たよ、地獄に連れてかれちゃうよ!」

「やだー」


(僕は大泣きして家に飛び込んだんだ。)


「ぼく、どっかに連れてかれちゃうの。やだー」

「じいちゃんとばあちゃんがいるから大丈夫、ほらこうして。」



(ばあちゃんはそう言うと、近くにあった風呂敷を僕のお腹に巻いたっけな。)



「おへそを隠してしまえばもう大丈夫。だからもう泣かない。」

「うん」



 8月26日

 今日は親子面接の日、おとなしくできたかしら。


 9月3日

 いよいよテストの日だ。親も作文があるらしい、みんな頑張れ。


 9月16日

 合格したと連絡があった。これで高校まで内部進学できる、本当によかった。


 4月1日

 今日は小学校の入学式。ブレザーの制服上下と新品のランドセル、かっこいいぞ美嗣。


 ・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・


 3月16日

 今日は中学校の卒業式。高校生になったら、塾も学校も自宅から通うようになる。見慣れた制服姿もこれが見納め。雷で泣いていた子もこんなに立派になりました。


 3月10日

 大学受験はだめだったと連絡があった。いままで順調だっただけに美嗣が心配。でも、いくつになってもあなたは私の自慢の孫。じいじ、天国から美嗣を見守ってあげて。



(ばあちゃん、こんなにいっぱい僕のことを書いてる。)



 自然と涙が溢れてきた。僕は抑えることができなかった。



「じいちゃんとばあちゃんはね、お父さんを上の学校へ行かせてあげられなかったことをとても後悔していたわ。だから、あなたがいい小学校に入れたことを、とても喜んでたの。」



(ばあちゃん、……ありがとう。もう少し頑張ってみるよ。)



 仕事で使う制服に入れてある白い封筒が脳裏をよぎった。






 ガシャ、ガシャ、ガラガラーー。


 お店のシャッターを開けると、少し離れたところにあるバス停に雪代さんが並んでいるのが見えた。



(あぁ、雪代さん昨日までの短期アルバイトだったな。修行で神社や仏閣を巡るって言ってたな。

 大変なことが多かったけど何だろう……、ありがとうでいいのかな。)


 僕はくすっと笑いながら店の中に戻った。




(なんで、私って上手に出来ないのかな。これじゃ神様のお勤めなんてまだ遠い先の話。家に帰れる日はくるのかしら、先は長いわー。)


「いなり、お父さんはどこに行けって言ってたの。」

「関東の有名な神社を言っていたぞ。ほら、バスが来たぞ。」

「見れば解るわよ。」






 〇今日のことわざ 【 雷が鳴ったらおへそを隠せ 】


 雷が鳴ったら、雷様に取られないようおへそを隠せという昔からの言い伝え。

 子供を雷から遠ざけ、身体を冷やさないようにするための知恵ともいわれています。

 いつの時代も、子供の無事を願う気持ちは変わらないのかもしれません。


第1話を最後までお読みいただきありがとうございました。


くらねといなりの旅は始まったばかりです。

また違った「神頼み」をご期待ください。

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