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困ったときの神頼み 〜神様、そうじゃないんですけど!〜  作者: まりしてん美鶴


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第1話 大事なものは隠せ! EP1-1

「いらっしゃいませ。お預かりでよろしいですか?」

 私は雪代くらね、貴船神社の近くで短期アルバイトをしている18歳。

 いかにも巫女さんみたいな名前はちょっとお気に入り。



「こちら、Yシャツ3点お預かり致します。仕上がりは明日となります。」

「え、……」

「ああ、お客様すみません、夕方には上がりますので、お仕事帰りにお立ち寄りください。」

 彼は美嗣さん、同じお店で働く私と同い年くらいの先輩社員。



「だよね、助かるよ。それじゃよろしくね」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「雪代さん、昨日も説明したけど、Yシャツはねその日のうちに出来上がるんだよ、だから出社前に出して夕方取りに来る人が多いんだ。覚えておいてね。」



「いらっしゃいませ。お引き取りですか?」

「ああ、雪代さん、お客様が抱えている洗濯物、持ってあげて。(両手で毛布を抱えているのに引き取りなわけないだろうに……)」



「いらっしゃいませ。お預かりですか、お引き取りですか?」

「雪代さん、その人は配送の人だから、あとでもう一度来てもらって。(入るときに「つばめ急便です、集荷にきました」って言ってたよね……)」



「いらっしゃいませ。お預かりで・」

「雪代さん、その人は店長ですよ。(さっき、すぐ戻るからって出かけたでしょ……)」



「いらっしゃいませ。」


 ・・・


 ・・


 ・



「雪代さん、僕がいるので午前の休憩を取ってください。戻ってくるときに、配送の人に渡すシーツとか枕カバーが作業場にあるので持ってきて。」

「は~い」



 カウンター横の扉を開けると、そこは熱気の立ち込める作業場で、店長や社員の方達が、いろんな機械を額に汗して操作している。みんなが頑張っている姿を横目に作業場を抜けると、少しくたびれたサッシで区切られた部屋があり、年季の入った質素なテーブルと丸イスが乱雑に並び、窓際に粗末なソファーが置いてある。



 窓から見える空は低い雲が一面に立ち込め、雨が近づいていることを予感させる。

 ソファーに腰を下ろし、ふぅ~とため息。



「ねえ、いなり、私って使えない子?」

「というより……、見事なポンコツぶりだね。」


 この子は神主のお父さんが使役している管狐で、修行の様子を報告することと、私のサポートを命令されているらしい。名前はないのだけど、呼びやすいように私は「いなり」と呼んでいる。



「ひどい言い方、あなた私のサポートもしてくれるんじゃないの?」

「宗一郎から、助言はするな、くらねに考えさせろと命令されている。」

「それはねサポートじゃなくて監視っていうのよ!」



 休憩も終わり、作業場においてあったリネンを持ってカウンターに戻った。



「美嗣さん、交代しましょ。」

「あ、俺は大丈夫だから……。もうじきお昼休みだから頑張ろうね。(この娘に店番をまかせる勇気は僕にはないし)」



「いらっしゃいませ。」

「あっ、それ違う。」

「はいっ!」



「あ、それも違う。」

「えっ?」



「雪代さん、そっちじゃない。」

「はいぃ!」


 ・・・


 ・・


 ・


 そして、涙。




「美嗣~、お昼になると引き取りのお客さんで混雑するから、雪代さんと早めにお昼取ってきな。」

「店長、二人とも一度に抜けちゃって大丈夫ですか。」

「一人も二人も変わんねーよ、さっさと行ってきな。」

「それもそうですね……、雪代さん行きましょ。」



 窓から見える空はいっそう暗くなり、いつ降り出してもおかしくない空模様だ。

 美嗣さんは出勤途中に買ったコンビニ弁当を食べ終えると、とても疲れた様子でソファーに横たわり、真剣な表情でスマホに目を通している。



「美嗣さんごめんなさい、私って昔からドジで失敗だらけ。今日も迷惑ばっかりかけて……」

「ん、気にしなくていいよ。雪代さんは短期のアルバイトだしね。おっちょこちょいなのも、相手を考えすぎてのことだし。何より素直で明るいから。それにもう……」

「もう、なに?」

「いや、人には向き不向きがあるからね。」

「ですよね、こんなにドジばっかりじゃ。」

「君じゃなくて、おぉぅ!」



 ピカッ

 ゴロゴロゴロ


 ザザー



 窓の外を照らす閃光と轟く雷鳴、すごい土砂降りだ。



「雪代さん、商品を包むためのビニール袋を倉庫からカウンターへ持ってきて、いろんな大きさがあるからまんべんなくね。僕は傘立てを出して、店先の雨よけテントを広げるから。」

「はい!」


 私がそう返事をすると、美嗣さんはカウンターへ走っていった。

(ところで倉庫ってどこにあるのかしら?)




 作業場にいた社員さんを捕まえて倉庫まで案内してもらい、ついでに使いそうなビニール袋を用意してもらった。


「ありがとうございます。」

(おいおい、か弱き乙女にどれだけ持たせるつもりなの、体で覚えろですか~。これだから昭和の職人に今の子はついて行けないのよ。)



「よ~し、私だって美嗣さんの役に立つことを見せてやろうじゃないの。」


 通路をつっきり、休憩室の前を通って作業場を駆け抜け、店舗に続く扉から中へ飛び込んだ。



 ぜ~、は~、「持ってきました。」



 もう準備を終えた店長と美嗣さんが、カウンター脇で立ち話をしているのが見える。


「美嗣、休憩中に済まなかったな、助かったよ。急に降り出したからな。」

「いえ、会社のお昼時間を利用して引き取りに来るお客さんは結構いますからね、準備が間に合ってよかったです。お、雪代さんもご苦労様、ちょっと見せて。(こんなに汗かいて、どんなことでも一生懸命がこの娘のとりえだな。)」



「お~、いろいろなサイズが一通り揃ってる、お願いした通りだ。カウンター裏へ補充して入りきらない分は後ろの事務所へ。」

「はい!」

(何かちょっとうれしい。)



 カウンター後ろのアコーディオンカーテンを開けると2畳ほどのスペースがある。

 使い込まれた事務机と、お客様用の丸イスが数脚おいてある。

 私は机の上にあるくたびれた電話とFAXを端に寄せて余りの袋をおいた。



「美嗣さん、準備が終わりました。」

「雪代さんありがとう。店長、準備はできました。とは言ってもこの雨と雷なのでお客は少ないでしょうから休憩に入ってください。」

「お前も雷は苦手なんだろう。小さいころ、ばあさんによく怖いことを言われたって話していたからな。」

「もう子供じゃないですから、それに今は少し頼りになる相棒もいますから、ご心配なく。」

「そうか、じゃいつものうどん屋へ行ってくるから店を頼むぞ。」

「はい、いってらっしゃ~い。」

(相棒って私のこと?、もしかして美嗣さんに頼りにされてるの、やった~!)



 でも外は相変わらずの雨と雷、こんな天気でお店に来るお客さんなんているのかしら。



「うわー、すごい雨だ、明後日の試合できるかな。」


 入ってきたのは作業着の方二人と事務員さん。近くの会社の方でしょうか。


「いらっしゃいませ、お引き取りですか。」

「京阪物産野球部です。先日お願いしたユニフォームとジャケットできていますか。」


 事務員の方は野球部のマネージャーさんのようだ。お得意さんらしく、美嗣さんが駆け寄ってきた。


「いつもご利用ありがとうございます、いまお持ちしますので少々お待ちください。」


 伝票を受け取った美嗣さんは仕立て品を取りにバックヤードへ消えていった。

 ほどなくして持ちきれないほどの品物を両手に抱えて戻ってきた。



「お客様、お預かりしてからあまり日にちがなく、まだ仕分けができていません。これからセットしますので20分ほどお時間をいただけますか。もし、お昼がまだでしたら食事をされている間にはご用意できると思いますので。」

「ええ、でも雨がすごいのでお店で待たせてもらっていいですか。」

「もちろんです。雪代さん、お客様にイスをお出しして。」


 私は事務所から丸イスを3脚出してカウンター横へ並べた。


「こちらにお座りになってお待ちください。」

「ありがとう。」


「背番号12番の上着と12番のズボン。それに12番のジャケット、……」


 美嗣さんはそんなことを言いながら、ユニフォームの上下とジャケットを揃えて小さいビニール袋に詰めた。ひとり分ができるとそれを段ボールに入れて次の背番号にとりかかる。京阪物産さんは大口のお客さんらしく、いつもこの形でお渡ししているのでしょうね。それにしても全部で何着あるのかしら、すごい数。



「いらっしゃいませ、お引き取りですか。」


 入ってきたのは事務服を着た中年の女性。会社のお昼休みなんでしょうね。


「えぇ、明日からの連休最終日が大安で、従妹の結婚式があるのよ。だから、先日お願いした礼服がどうしても必要なの。」

「お預かり票を拝見いたしますね。」


 伝票を見ると和服のお預かりでシミ抜きも依頼されていた。アルバイト2日目の私じゃ無理、美嗣さんに相談しよう。


「美嗣さん、和服のお客様でシミ抜きも依頼されているみたいなの、どうすれば。」

「雪代さんはユニフォーム上下とジャケットをセットにしてその箱に入れて。和服のお客様は僕が対応するので。」


 美嗣さんは私からお預かり票を受け取るとバックヤードへ品物を取りに入った。


 品物を手に戻った美嗣さんは、落ち切らなかったシミや汚れの位置をお客さんに説明したあと、流石の手さばきで包み、濡れないようにビニール袋に納めた。


「足元の悪い中、ご来店いただきありがとうございます。」

「雨足も強いし、少しここで待たせてもらっていいかしら。」

「もちろんです、こちらにお掛けになってお待ちください。」



 美嗣さんは事務所から丸イスを出し、お客さんに座ってもらっている。


 外を見るとすごい雨、これじゃお店から出られないですよね、早く止めばいいのに。



 しばらくすると、またお客さんが入ってきた。

 小学生と幼稚園くらいの兄弟を連れたお母さんのようだ。



 美嗣さんとユニフォームをセットしていた私は手を止めてカウンターへ向かう。


「いらっしゃいませ、お引き取りですか。」



 ピカピカッ

 ゴロゴロゴロ


 ドザー


「こわいぃぃ!」

「大丈夫、大丈夫だから」


 とお母さんは弟ちゃんをなだめている。


「大丈夫だよ~、雷様はおへそ取ったりしないから」

「おへそ取られるのぉぉぉ!?」「やだー」と大泣き

「あなた、ちょっと!」


 美嗣さんは野球部のユニフォームを抱えたまま振り返り、こちらの様子を見ている。


「あぁ、まことに申し訳ありません。」


 ・・・


「恐れ入りますがお預かり票をいただいてもよろしいでしょうか。」

(やっちゃった、お母さん、かんかんだ。)


 伝票を見ると、制服の上下2着、テント、タープ、シュラフが2枚と書いてある。

 制服とテントは解るけど、タープって何? シュラフって着るもの? 私じゃ無理っぽい美嗣さんに相談だ。


「美嗣さん、見たこともない品物があるの、どこに置いてあるのかすら解らない、どうしよう。」

「伝票を貸して、雪代さんはこっちをやって!」


(美嗣さんも手いっぱいでぜんぜん余裕がない、お母さんは怒ってるし、弟ちゃんは泣いてるし、品物待ちのお客さんはいるし、4人くらいでいっぱいのお店に全部で7人もいる、どうしよう、どうしよう。)



 ピカッ

 ゴロゴロゴロ


 チカ、チカチカ



(あぁ、お店の照明まで点滅しはじめた、これで停電でもしたら大パニックだ。何もできないけれど、せめて美嗣さんの役に立ちたい……。)



 ・・・・・

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


(神様お力添えを。)


「お客様、ユニフォームを入れる袋がなくなったので取ってきますね。すぐ戻ります。」

「どうぞどうぞ。それにしてもすごい天気になっちゃいましたね。」

「えぇ、でもすぐに良くなりますよ。きっと……」



 私は立ち上がると小走りに事務所に入り、少しだけ隙間を開けてアコーディオンカーテンを閉めた。

 カーテンの隙間から店内を見ると美嗣さんはお母さんに頭を下げている。



「美嗣さんならきっと大丈夫よね……、お父さん、ごめんなさい。」



 私はすっと目を閉じ極限まで精神を集中させる。

 長い髪をたばねているヘアゴムを外して髪を解いた。

 ヘアゴムには、父の神楽鈴からひとつだけ借りた鈴がついている。



 ---リン……。



 くらねを中心として鈴の音は広がり、周辺へと溶けていった。

 あれほど騒がしかった周囲の雑音が消え、神聖な静けさに包まれた。


 くらねは一度、深く息を吸い、厳かにそして澄んだ声で、幼いころから何度も何度も練習した祝詞を唱えた。


「……かしこみ……、かしこみ……。」


 くらねはゆっくりと両目を開き、瞬きを一切せずに美嗣をじっと見つめる。

 左目の瞳には、雪代の血族だけに代々伝わる家紋「雪輪に鶴」が淡く宿っていた。


「掛けまくも畏き八百万の大神等、恐み恐みも白さく。

 言挙げせぬ御心の内に結びし願ひを、此処に取り持ち奉り、神等の御前に聞こし食せと白す。

 願ひ負ひし者が身に幸魂奇魂を寄せ給ひ、現世の理を越えて、御手のまにまに成し幸へ給へと、恐み恐みも白す。


 降りし雨を鎮め、鳴る雷を遠ざけ、安らかなる空を戻したまう――

 高龗神(たかおかみのかみ)様、お越しください。」


 くらねの脇に控えていたいなりが不意に顔を上げた。

 そして一目散に美嗣の足元へ走り寄ると、その場でじっと見上げる。



 ………すぅ。



 いなりの目じりと額に赤い霊紋がうっすらと浮かび始める。

 それに呼応するかのようにくらねの瞳の「雪輪に鶴」は徐々に淡くなっていく。

 やがていなりの霊紋はくっきりと現れ、くらねの「雪輪に鶴」は瞳の奥に散っていった。



(いなりに霊紋が宿った、神様が来てくれた。)



 鈴のついたヘアゴムで、解いた髪をふたたび束ねた。



---リン……。



 ゴロゴロゴロ 「うわぁーん、やだよー」 ドザー 「袋詰めは、まだかかりますかー」



 周辺の音が一斉に私に押し寄せる。



(修羅場だ……)


 でも美嗣さんの目つきがいつもと違う。


(神様お願い、御力をお示しください。)



 くるる、キュ、パチン。「ーーはい、お母さんにはテントとタープ。」

 すっ、すっ、スポッ。「ーーはい、ひとつずつ。自分の荷物は自分で持つんだよ。」



 美嗣さんはいつにも増した手際の良さで、テントとタープをビニールで包みPPバンドでまとめ、ハンドルを付けてお母さんへ渡した。

 つづいて制服上下とシュラフを一瞬でセットし、手提げ袋に入れ兄弟それぞれに持たせた。



「ご利用ありがとうございました。」


 美嗣さんの品物を包む手際は普段でも早いのだけど、今日は神がかっている。


(神?、あれっ?)


 外は相変わらずの土砂降り。


(あれ、あれれっ? 高龗神様いったいどこに……)



「お待たせしております、すぐにご用意いたしますので。」


 美嗣さんは野球部のマネージャーさんにそう声をかけると、袋詰めしている私の隣に腰を下ろし、ユニフォームとジャケットの山に手を延ばした。



 パラパラパラパラパラ……

 上着、ズボン、ジャケット、それぞれの山をめくって軽く目を通した。


 すっ、すっ、すっ、スポッ。

 パサッ


 すっ、すっ、すっ、スポッ。

 パサッ


 すっ、すっ、すっ、スポッ。

 パサッ


 ・・・


 ・・


 ・


 積んである品物のどこに何番があるのか解っている。品物の山からつぎつぎに同じ番号を抜き取り袋に入れ、段ボール箱に納める、しかも背番号順だ、まさに神業。


 あまりの手際の良さに、カウンター周辺にいるお客様の視線も釘付けだ。



「大変お待たせいたしました。足元が悪いのでお気をつけてお持ち帰りください。」



 美嗣さんは段ボール2箱を、マネージャーさんに付き添ってきた作業着の男性にそれぞれ渡した。



「いつもご利用ありがとうございます。」


 美嗣さんはお礼を言っている。

 これはこれで良いのかもしれない。ま、ま、ま~、結果オーライでいいよね?



 ピッシャーン

 ガラガラガラ


 閃光が店内を隅々まで照らし、割れんばかりに窓が震える。近くに落ちた?


 ふっ



 お店の照明が消え真っ暗になった、停電だ。でも、仕立て品の引き渡しは全て片付いている。よかった、よかった。



「子供たちを!」


(え、誰、何?)


 ふわさっ、くるる、きゅっ。

 ふわさっ、くるる、きゅっ。


 パッ


 灯りが戻る。



 そこにはいつでも連れて行けるように、頭だけを覗かせワンショルダーバッグに包まれた、お兄ちゃんと弟ちゃん。

 リネンのシーツを使って、灯りの消えた一瞬のうちにお客さんが包まれている。

 氏子さんへ撤下品を包んで届けるお使いをよくやっていたので、その速度、その凄さが私にはよく解る。



 ピッシャーン

 ガラガラガラ



 ふっ



「お客さんを!」


(え、何?、何なの?)


 ふわさっ、くるる、きゅっ。

 ふわさっ、くるる、きゅっ。


 パッ



 瓶1本着物姿に包まれた中年の女性と、子供たちを連れても動けるよう、帯のように畳んだシーツで、必要な部分だけを真結びにされたお母さん。

 包まれる人に応じて最適な包み方を瞬時に選び、その結び目は寸分違わず左右対称、仕上がりまで妙に美しい。ラッピングのプロがどれだけ精進しても到達できない高みだ。



 ピッシャーン

 ガラガラガラ


 ふっ



「おへそを!」



 ふわさっ、くるる、きゅっ。

 ふわさっ、くるる、きゅっ。

 ふわさっ、サササッ、くるる、きゅっ。


 パッ



 頭と足、段ボールを抱える両手を隙間から出し、ひっかけで包まれた作業着の男性2人。

 シーツの端を何枚もの花弁のように折り重ね、胸元には大きな花が咲いたような結び目。

 残った布もひだ状に整え、ドレスのような花包みのマネージャーさん。野球部の華を表現しているみたい。



 ワンショルダーバッグ包み。

 瓶一本着物包み。

 必要な部分だけの真結び。

 頭と手足を出したひっかけ包み。

 絢爛豪華な花包み。



(お見事です。)



 カウンター前にはシーツで包まれた7人のお客さんが並んでいる。

 その傍らには、笑みを浮かべ、我を崇めよと言わんばかりに佇む美嗣さん。



 気づくと雷は遠のき雨も小降りに。

 


 霊紋の消えたいなりがいつのまにか肩に乗り私に小声で囁く。

「神は願いを叶えお帰りになったぞ。」

(うん。)

「これどうするんだ。」

(私にも解んない、どうしよう……)




「ただいま、すごい雷だったな、大丈夫だったか。」

「あ、店長……、お帰りなさい。」


 ・・・・・・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


「で、なんでこうなった。」


 美嗣さんと私は大慌てでお客様のシーツを解く。店長は平身低頭平謝り。でも不思議なことに怒っているお客さんはおらず、それが唯一の救いでした。




「今日はいろいろあって大変だったなお疲れさん。二人とも帰ってゆっくり休んでくれ。いつもそつなく仕事をこなす美嗣にしてはだいぶ慌てたようだな。

 でも少しだけ気づいたこともあったよ。あの、やり遂げたと言わんばかりに立ちつくすお前の顔を見たら、怒る気も失せたよ。」


「すみません。」

「いや気にしなくていい。いつもやる気があるのかどうか解らないお前にも、そんな感情があったんだな。」




 店の近くで寝泊まりに使っているネットカフェに戻った私。


「ねぇいなり、教えてほしいことがあるの。」

「なんだよ。」

「高龗神様は来てくれたの?」

「違う。」

「誰が来てくれたの。」

「八百万の神だぞ、わしにも名の解らん神はたくさんいらっしゃる。だが、包み、結ぶことを御業とする神だ。

 ……たとえるなら風呂敷の神、とでも言えばいいか。」

「どんな願いを叶えて下さったの。」

「それは解らん、御業をお使いになり願いを叶えお帰りになった。それだけだ。」

「あ~あ、私また違う神様呼んじゃったみたいね。今日はもう寝よう……」




 家に帰った美嗣は今日のことを思い出していた。


(なんであんなことしちゃったんだろう。商品を濡らさないように包まなきゃ、お客様の仕上がり品も包まなきゃ、泣いている子供さんもなんとかしなきゃ、お店のお客さんを不安にさせたくないと思ったら頭が真っ白になって、その後はもう無我夢中で。

 でも、なんだかうれしいような楽しいような、少しだけ懐かしいような。)


 そして美嗣はポケットから白い封筒を取り出しじっと見つめた。



(今日は店長に渡すタイミングがなかったな。今度出勤した時にしよう。)



 るるるる、るるるる。

 スマートフォンが鳴っている。


「もしもし。」

「美嗣か、俺だ。」


 離れて暮らす僕の父親だ。母と共働きをしながら僕を塾に通わせてくれた。教育熱心で子煩悩なのだが、自分の経験もあり学歴についてこだわりが強いのが玉にきずだ。

 目指す大学に入れず、高校卒業後に居づらくなった僕は家を出て一人暮らしだ。


「葬式の時に話をしたが、明日はおばあちゃん家の遺品整理をするから手伝いに来いよ。」

「解ってるよ。」

「父さんたちが忙しい時は、塾の送り迎えをやってくれたり、ごはんを作ってくれたり、さんざん世話をしてもらったんだ。そのくらいしてあげても罰はあたらん。」

「くどいよ、仕事は休みを取っているから大丈夫だって。もう切るよ……」



(あ~あ、なんだかとっても疲れた1日だった気がする。今日はもう寝よう……)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


雪代くらねと管狐いなりの旅は、まだ始まったばかりです。

話の続きエピソード1-2も読んでいただければ幸いです。

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