面倒な依頼⑤
「おれは人間相手だって容赦はしないぜ。」
おれは右手の雷の魔法を放った。
ビシャンッ‼
「ぐっ、ぐああああ!」
雷撃が部屋の天井や壁に焦げ跡を作り、周囲にいる武器を持った男たちに命中する。まあ、死にはしねえぜ。電流に肉の内側を焼かれて二度と剣は持てないだろうがな。
「おい。ジャスだったか。本物の妙薬エリクサーを出せ。」
「そ、そんなものは初めからありませんよ……!」
「無いだと⁉」
それじゃカトリーヌは騙されたってことかよ? じゃあカトリーヌの母親の病はどうするんだ?
腰を抜かして立ち上がれない様子のジャスがおれを指さし指示を飛ばす。
「い、今です! やってしまいなさい!」
「はあ?」
槍をかまえて横から飛び出してきた男が槍でおれを刺そうとしてくるが、当然おれのステータスがカンストした体はそんなもの受け付けない。おれは槍がカトリーヌに当たらないように盾になり、あえて槍を受けた。おれに槍を突き立てた男は壁に突進したかのように弾かれて吹っ飛んだ。
おれはジャスを睨み付けて言った。
「お前、往生際が悪いな。」
剣を持って軽く振る。おれの剣から放たれた剣撃はジャスの足下の床に大きな斬り跡を作った。
「ひ、ひぃいい!」
「覚悟しろ。」
おれはジャスの前で剣を振りかぶった。
「おやめください! オレ様!」
おれが最後の一撃を食らわせてやろうとした時、カトリーヌがおれの腕に抱きつくようにしておれを止めた。腕にカトリーヌの柔らかい胸の感触を感じておれは手を止めた。
「なんで止めるんだ? カトリーヌ。こいつらはあんたを騙そうとしたんだぞ。」
「それは私も許せません。ですが、オレ様が手を汚す必要はありません……!」
「……そうか。」
そう言われてみればそうだな。ジャスの悪事は明るみに出たし証拠だってあるだろう。報復はウェスブルク家がやればいいことだ。おれは別に何もこいつから損害を被っちゃいない。
カトリーヌを見ると酷く疲れたような顔をしている。
まあ、ここで止めておくか。
「ふっ。命拾いしたな、ジャス。」
「ひぃいい……。」
ジャスは丸々太った豚のように縮こまって震えていた。
「んじゃ帰るか。」
おれとカトリーヌは大店ノルトベルク商会の外に出た。店の前では何があったのかと野次馬どもが店の中を覗こうとしており、おれたちはその人だかりを掻き分けるようにしてその場所を離れた。なんだが後ろの方で火事だなんて声が聞こえるが、まあもう関係の無いことだ。
少し歩いたところでカトリーヌがおれに言った。
「申し訳ありません。オレ様。私のせいで、このような事態になってしまい……。」
「気にするな。あんたは騙されただけなんだろ? 悪くないさ。」
「ですが、結果的にオレ様は街から追放ということに……。」
「ああ? 追放⁉」
なんでだよ? ちゃんとカトリーヌと一緒に妙薬エリクサーを取りに行っただろうが。残念ながら偽物だったが。
いや、待てよ。クエストの依頼は何だったか……。品物を持ち帰ること……?
「まさか。妙薬エリクサーが偽物だったからクエスト達成にならない……のか?」
カトリーヌが悲壮な顔でおれを見る。
「……兄、アスランは元々、冒険者ギルドで揉め事を起こしたオレ様の追放を決定していました。ですが、私が街でオレ様の噂を聞き頼み込んだのです。オレ様の助力で母の命が助かったら追放を取り消してもらえないかと。」
「マジかよ。」
アスランって名前、どっかで聞いたな? カトリーヌの兄だと?
うおおお。このまま街に帰ってもクエスト失敗? おれは街から追放だと?
マジでふざけんな!
「本当に申し訳ありません。オレ様……。これで私の母の命も……。」
「……わかった。つまり、本物の妙薬エリクサーがあればいいんだな?」
「……え?」
「あいつ、言ってただろ。妙薬エリクサーはダンジョンで手に入るって。おれがダンジョンに行って取ってくればいい。そうすりゃ問題はない。」
「で、でも……。」
つーか、それしかねえじゃねえか。
おれなら部屋を使えばダンジョンの内部にそのまま瞬間移動することもできるし、感知魔法を使えばどこに宝物があるかわかるはずだ。んで、鑑定魔法で妙薬エリクサーを鑑定すればいい。なんだよ、簡単な話だった。
「待ってろ。カトリーヌ。一日くらいで取ってくる。それならまだ間に合うだろ。」
おれは別空間のおれの部屋に繋がる扉を創ると扉の中に飛び込んだ。いや、待て。カトリーヌをここに置いていくのは危険かもしれん。
「カトリーヌも早く入れ。」
「え? は、はい。」
カトリーヌがおれの部屋の中に入ったのを確認し、おれは部屋の位置をダンジョンの中へと移動させる。
たぶんこの辺だな。窓の外は薄暗い洞窟みたいな風景になっていた。
「じゃあ、行ってくるからな。」
「はい……いってらっしゃいませ……。」
妙薬エリクサー。さっさと見つけてやるぜ。
「あの……オレ様……この部屋はいったい……? 見たこともないような上等な物ばかり……。」
カトリーヌが何か言っていた気がするが、今はそれどころじゃねえ。
おれは部屋の扉を開けて、いきなりダンジョンの最深部へと突入したのだった。




