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面倒な依頼④

 カトリーヌが先におれに謝ることだって?


「おい。いったい何のことだ?」


 おれがカトリーヌを問いただそうとした時、店の奥の部屋から男の声が聞こえた。


「ようこそいらっしゃいました。カトリーヌ様。」

「ジャス様……。」

「はやく私にお顔をお見せください。」

「は、はい……。」


 カトリーヌが緊張した様子で一歩踏み出す。

 んん? なんだ? 様子が変だな。カトリーヌは妙薬エリクサーを買いに来ただけじゃないのか?


「ちょっと待て。おれの話はまだ終わってないぞ。」

「……オレ様。どうかここは従ってください。エリクサーさえ受け取って街に帰ることができれば、オレ様は自由の身ですから。」

「ああ?」


 どうにも腑に落ちないが、カトリーヌの声は相変わらず緊張を含んでいるので、おれは黙ってカトリーヌに従うことにした。


「あとでちゃんと説明しろよ。」

「……はい。」

 

 そうして足を踏み入れた奥の部屋だったが、赤く光る高そうな瓶がテーブルの上に置いてあり、ソファには太ったおっさんが座っているだけだった。


「おお。カトリーヌ様。いつ見てもお美しい。」

「ジャス様……。そちらがエリクサーですか?」

「ええ。そうです。これが、あの難関のダンジョンでのみ手に入り、どんな怪我も病も呪いも立ち所に治してしまうという奇蹟の薬です。」


 なるほど。このデブのおっさんがジャスか。そしてこの瓶が妙薬エリクサーだな。これを持ち帰ればクエスト終了だ。意外と簡単だったな。


「よし。それじゃカトリーヌ。妙薬エリクサーをもらってさっさと帰ろうぜ。帰りの扉はすぐその辺に創ってやる。」


 おれがそう言って妙薬エリクサーに近づこうとすると、ジャスと呼ばれたデブのおっさんが不機嫌そうにおれに言う。

 

「なんですか、あなたは?」

「ああん?」


 そういうお前こそ何様だよ。おれは神様だが?


「はぁ……。私は今、カトリーヌ様とお話をしています。邪魔しないでください。カトリーヌ様は私の妻となるのです。三番目の妻ですが。」

「妻ぁ?」

 

 何いってんだ、このデブは? おれは思わずカトリーヌの方を見たが、カトリーヌは俯いたまま黙って突っ立っているだけだった。

 妻だと? そういやカトリーヌは妙薬エリクサーの値段は言ってなかったな。おれはてっきり大金を払って買うのだと思っていたが、まさかそういうことか? このデブは妙薬エリクサーを餌にカトリーヌに結婚を迫ったのか?


「……わかっています。ジャス様。それがお約束です。私がエリクサーのために何でも受け入れると申し上げたのですから。」

「ほっほっほ。そうです。もう決まったことです。約束どおりエリクサーはこの通り手配しました。では、カトリーヌ様は私と大事な交渉がこの後控えていますから、そちらの護衛の方はこのエリクサーを持ってさっさとお帰りください。」


 なんだ、それ。胸くそ悪いな。だが、おれにどうすることが出来ようか?

 おれは神様だが、クエストを達成するためには妙薬エリクサーを持ち帰らなければならないし、聞いた限り妙薬エリクサーはカトリーヌの結婚と交換だ。つまり邪魔するとおれのクエストも達成できん。達成できなかったらおれは街から追放だし、アンナとも離ればなれになってしまう。

 カトリーヌの顔は沈んでいて明らかに結婚を喜んでいる感じはしなかったが、ただの冒険者であるおれには関係のない世間の話だと割り切るしかない。カトリーヌの大きな胸をこのデブがこれから好きなようにするのだと想像するとムカツイてしょうがないがな……。


「ちっ。わかった。その赤い瓶を持って帰ればいいんだな?」

「……赤い?」

「赤い?」

「ん?」


 カトリーヌとジャスが怪訝な顔でおれを見る。


「赤……じゃないのか?」


 ハッとしておれはもう一度テーブルの上の妙薬エリクサーを見た。赤い。だが、これはおれの鑑定魔法が発動しているからだ。赤は偽物の色。


「お、おい! お前! この妙薬エリクサーは偽物だろ⁉」

「な、何を……⁉」

「おれは神様でちょうど鑑定魔法を創ったばかりだ。さっき真贋を見極める重要性をカトリーヌに教えてもらったからな。その鑑定魔法が、ばっちりこの瓶が偽物だと示しているんだよ!」

「……どういうことですか、ジャス様?」


 カトリーヌが目を見開いてジャスを見る。その顔色には明らかに怒りの色が浮かんでいた。ははっ。この女、こんな顔もできるんだな。


「カ、カトリーヌ様。私よりもそんな冒険者の言うことを信じるのですか⁉」

「……信じます。オレ様は不可能と思われたウェスブルクと王都との移動をほんの一瞬で成し遂げられました。私は、オレ様が「神様だ」と言うその言葉を信じます。そのオレ様が鑑定魔法を創ったと言うのなら、私は信じます。」

「ぐぬぬ……。」


 ジャスの脂ぎった額に更に脂ぎった汗がにじんでいる。こいつ醜い顔をしてるぜ。

 ジャスは形勢不利と見るやソファから立ち上がると叫んだ。


「来い! お前たち! この二人を絶対に逃がすな!」

「はっ!」


 部屋の入り口から出口から武器を構えた男たちが流れ込んでいる。

 なんだ? やるのか? おれは神様でステータスもカンストしているし、人間相手だって容赦しないぜ。

 おれは剣を抜くとカトリーヌに言った。


「カトリーヌ。おれの後ろに隠れてろ。」


 おれは右手に雷の魔法を集めた。

 バリバリバリ!

 と、おれの雷の魔法が音を立て、放電が部屋のあちこちに火花を散らす。

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