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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
裏切り令嬢は未来を変えたい

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4

 教団に捕まってから一日が経った。なんとか表に出してはいないけれど、心細くて泣きたくなってくる。今まで「魔法が使える」ことで安心していたのだと身に染みた。


 閉じ込められていたから実感はなかったものの外は暗くなりつつあった。予知で着ていたという白い服を着せられ、黒フードに囲まれて移動させられる。どこに向かうのかと問えば、神の御前にと返された。目的地は怪しげな魔法陣のようなものが書かれた祭壇で、薄暗い森のなかにあった。


「儀式を始めましょう」

司教が祭壇の傍に待ち構えていた。私は思いっきり蹴られて祭壇の上に投げ出される。


「生贄なんでしょ……?」

「冥土の土産に教えてやる。魔法使いの血(お前)は門を開くために必要なだけだ」

「えーと、私を捧げて扉を開いて、その後に聖女を捧げる……ってこと?」

彼は何も答えない。さあっと血の気が引く。このままでは聖女を待たずに私が死んでしまう! 無駄死になんてレベルじゃない!


 司教が準備で目を離した隙に転がって祭壇から落ちる。かなり衝撃が強くて全身が痛いけれど、今は距離を取りたい。森の中まで転がっていく。


「逃げたぞ!?」

「両手両足拘束してたぞ!?」

「こ、転がってる!」

「侯爵令嬢が!?」

「遠くには行けないはずです、捕まえなさい!」

森の中からも混乱している声が聞こえてくる。木の陰に隠れて足の縄を尖った石で切っていく。


「あっ、やったあ!」

「! いたぞ!」

振り返ると黒フードの一人が私を指さしていた。


「とにかく走らなきゃ!」

こんな所で死にたくない。その思いだけで走り続ける。


「崖!?」

目の前には滑り落ちるだけでも怪我してしまいそうな急な坂がある。捕まるよりはマシだと意を決して駆け下りる。疲れのせいか足がもつれて転がり落ちてしまう。


「いや、まだ……。死ねない……!」

荒い息を吐きながら立ち上がる。もはや執念だけで動かしているため、全身が痛く視界もぼやけていた。


「お兄様……?」

うっすらと見えた兄の姿に、手を伸ばそうとし――そのまま顔から倒れてしまった。何者かが私を抱き上げて運んでいるのを感じた。



「後に続いて言え」

ぼんやりと言わないといけないような気がする。そうだ、お兄様にお願いされたから……。でも、悪い道に行くなら止めないと……。ああ、一緒に居られるならそれも悪くないか……。


「エミリア」

近くにいるはずなのに、遠くから焦ったように私の名を呼ぶ兄の声が聞こえる。


「エミリア!」

「ちっ、こんな時に……!」

声の方を向くと、耳元で苛立った声の――いや、これは兄じゃない。司教の魔法で騙されていたということ……?


 相伝魔法でなくても、効果の弱い魔法であれば使うことができる。疲れ果てていた私なら簡単に騙せたことだろう。


「お兄さ――」

司教に口を塞がれる。兄は私の声を聞いて一瞬だけ優しく笑い、真剣な表情になった。


 けれど、兄は動かない。魔法を使ってそう見せかけているのかもしれない。司教もそう思ったのか、何もない場所へ剣を振るう。怖くて目を瞑っていると、剣が何かを斬り裂いた。


「アレルさん!?」

「こっちにもいるよー」

斬られたのは兄ではなく司教。兄は囮役だったのだろう。追撃をノアが入れ、司教は私から手を離す。


「巻き込んでごめん、エミリア」

「どうせなら最初から巻き込んでください!」

私は兄の首に手を回す。今度こそ、兄に抱きかかえられる。司教の方はというと、オリバーが罪状を告げつつ、縛り上げていた。


「エミリア。悪いんだけど、一緒にやってほしいことがあるの」

伝説上の聖女と同じ服装をしたヒカリが身長より高い長い杖を持っていた。


「やってほしいこと?」

「そう、それは邪神の再封印。王様たちに頼まれちゃった。これ、国宝なんだって」

一大イベントにも関わらず、彼女は軽やかに告げた。重大さの欠片もない。


「深刻さが足りないとか思ってる? 私にとって本番はエミリアを助けることで、これはおまけだからかな」

「ヒカリ……」

「手順はグレイ様が覚えているから大丈夫! 一緒に英雄になろう!」

そう言ってヒカリは手を差し伸べた。私は地面に降りて汚れた服を軽く叩いてからその手を取る。


「やめろ……!」

必死そうな司教を見ると、再封印をすればしばらくの間は邪神復活が不可能になるのだろう。今の私たちと未来の人々のために、再封印しよう。


「それじゃあ、行くよ……」

ヒカリに手を重ね合わせて、成功を祈る。すると、彼女の周りに集まっていた光の粒がより輝き出す。彼女が呪文を唱え終わると、その光の粒は祭壇へと吸い寄せられていく。最後の一つが祭壇に吸い込まれた瞬間、かちりと何かがはまった音がしたような気がした。


「そんな……こと、が……」

トピア教団の人々が膝から崩れ落ちる。しばらく眺めていても不穏な気配は感じない。


「やった、やったよ! グレイ様、エミリア、それにみんなも!」

飛び跳ねて喜ぶヒカリを見て徐々に実感が湧いてくる。


 これで、兄がラスボスになることはない。その安心で緊張の糸が切れ、私は気絶するかのように眠ってしまうのだった。



 目が覚めると、そこには知らない天井があった。


「ここは……」

「良かった! 急に倒れたから心配したんだよ!」

ヒカリが私の顔を覗き込んでいる。彼女によると、私は一日中寝ていたらしい。


「私たちは邪神復活を阻止した英雄だーって王様からご褒美が貰えるって聞いたよ。その式典の開始はエミリアが目覚めるのを待っていたんだ」

「へえ……」

ゲームでは語られなかった、エピローグに胸が高鳴る。物語の終わり、そして始まりがもうすぐやってくるのだ。


「そういえば、お兄様は?」

「えっ」

彼女は何かを告げようとして、そのまま顔を逸らした。


「私が寝ている間に何かあったんですか?」

「寝ている間というか、えっとお……」

「教えてください、ヒカリ」

「お、落ち着いて聞いてね?」

「ええ」

「レオンさんは、捕まったの」

ヒカリは恐る恐ると言った様子でそう告げた。


「内乱の手引きと詐欺罪、らしいよ。詳しくは分からないけど……」

「そんな……」

許せない。せっかくハッピーエンドになったと思ったのに。


「逃さない……」

捕まった程度で諦めてられる訳がない。覚悟してくださいね、お兄様。

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