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ヒカリは大して事情を聞かされていないだろうから、彼女を問い詰めても意味がない。彼女に知り合いたちの居場所を聞き、向かうことにした。一番知っていそうなのは殿下だけど、彼は式典で忙しいようだからオリバーにしておこう。
「いた」
ヒカリから貰った情報は正しかったらしい。
「エミリア、動いて平気なの?」
「ええ」
本当はヒカリに止められたけれど、立ち止まっている暇はない。怪しんでいる二人は見なかったことにして、オリバーに兄について聞く。
「城を襲い、侯爵令嬢を攫った賊――トピア教団は僕が手引きした、そう言ったそうです」
「詐欺というのはラヴィーネの血を引くと偽っていたことね。元凶はローゼギフトなのだけれど」
自首されては捕まえるしかないだろう。それが真実かどうか調べなければならないし。
「あれ、メリナは平気なんですか?」
兄が托卵されたことが知られれば、ローゼギフトの悪事全てが表に出て、メリナも公爵家の人間として罪に問われそうなものだけど、拘束もされずに城にいることに疑問を持った。
「ムカつくことに、ローゼギフトの乗っ取りを告発したのが私ということになっているのよ。告発者は罪が軽くなる上に、賊に立ち向かった功績もあって貴族のまま居られるのではないかしら」
「なんで……」
「さあ? 本人じゃないから知らないわ。けれど、あなたから逃げているのは確かではなくて?」
メリナは挑発的な言葉を私にかける。他人から「逃げられている」と言われると心に来る。
「報酬にレオンを望むのであれば、一度陛下に相談なさい。きっと良い方法を教えてくれるわ」
「ありがとう、メリナ」
「陛下がいる部屋は突き当たりを左よ。これは独り言だけれど」
メリナにもう一度お礼を言って、駆け出した。優雅になんてしていられない。
「失礼します」
返事を待たずに扉を開ける。そこには困った顔をした陛下と父がいた。
「陛下にご相だ――お父様!?」
「良い反応をする」
陛下は驚きが隠せない私を見て楽しそうに笑った。
「陛下にご相談があって参りました」
「式典のことだな? 申してみよ」
「ありがとうございます。報酬を頂けると聞きましたが、私が欲しているのはレオン・フォン・ラヴィーネです」
「ふむ?」
欲しているというだけでは理由が分からないかと思い、「結婚したいです」と付け加えた。
「え、いや、義理の兄……」
「婿になってほしいです」
陛下は割と本気で困惑していそうだった。
「だ、だが罪人だぞ?」
「教団の手引きをしているようには思えませんし、ローゼギフトの件を告発したのは兄なのでしょう?」
「い、いつからだ!? 気にかけているのは知っていたが!」
父が顔を青くしながら聞いてきた。
「……一目惚れ、しました」
親や偉い人に恋バナをするのが恥ずかしい。顔が熱い。きっと赤くなっているのだろう。
「……なあ」
陛下は気まずそうな顔をして父の方を向いた。父は何も答えない。それが答えを表していた。
「か、考え直さないか? 世間体的にも、な?」
「考え直した場合、ラヴィーネ家は途絶えますがよろしいでしょうか? 弟でもいれば別でしょうが」
決意の固い私の様子に二人とも呆れていた。父は泣いていた。
「陛下、私のお願いを聞いてくれませんか。罪人が一人減り、ラヴィーネ家の忠誠を確固たるものにするいい機会ではないですか!」
「……そう、だな」
私のプレゼンが効いたのか面倒になったのか、陛下は私の頼みを聞いてくれた。兄は私を嫌っている訳ではないし、向こうはもともと血が繋がってないと薄々勘づいていたはず。私を女性として見る壁は少ないだろう。
「脱走してる!? 無理しちゃだめって言ったでしょ!」
明るい気持ちで城を歩いていると、ヒカリに捕まって、元の部屋に戻されてしまったのだった。
義理とはいえ兄妹での婚姻は良い顔をされるものではないと思っていたけれど、陛下がでっち上げてくれた物語のおかげで広く受け入れられるものとなった。陛下パワーって凄い。
一応病み上がりではあるため、兄と一曲踊ってからエスコートをしてもらい会場から出る。
「エミリア……」
「これでちゃんと婚約者ですね?」
にっこりと笑ってみせるけれど、兄の表情は晴れない。振られたような気持ちになる。最初から両想いなんて求めては、なかったけれど……。
「ごめん、エミリア。僕のために……」
「お兄様のため?」
兄は、私を罪に問わせないためだけに婚姻を結ぶような聖人だとでも思っているのだろうか。
「違いますよ? 私のためです。私は人のために望まない婚姻はしませんよ」
今、望まない婚姻をさせている側といえばそうなんだけれども。
「お兄様は――レオン様は嫌じゃないんですか?」
「えっ……」
「私と結婚したくないですか? そうだとしても――」
彼の前に回り込み、にやりと笑う。仮に嫌だと言われても身は引けないけれど。
「嫌じゃない。兄としてどうかとは思うけど……」
「今は、『嫌じゃない』くらいで我慢しますが、いつかは」
「好きだ、エミリア」
肩を掴まれる。少し照れた顔が目の前にあった。
「愛してる」
「わ、私もですっ!」
咄嗟にそう答える。不意打ちの言葉で激しく心臓が鳴っている。
「ずるいです、お兄様! そうやって――」
「レオンって呼んでくれないの?」
「――もう! ……レオン、様」
名前を呼ぶと彼は微笑んでくれた。同じ気持ちだと知ることができて最高の気分だった。
「大丈夫!?」
「問題ありません。嬉しくて、つい」
ラスボス予定な義兄に一目惚れしてからの思いが報われて涙腺が緩くなってしまったのだろう。みんな無事なハッピーエンドを迎えられて本当に良かった。
これにて「ラスボス義兄に一目惚れしました」完結です。エタりかけましたが、なんとか完走できました。ありがとうございました。
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