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【連載版】ラスボス義兄に一目惚れしました  作者: 岩越透香
裏切り令嬢は未来を変えたい

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2

 馬車は王城につき、そのまま顔パスで進んでいく。ローゼギフトは凄いなと思っていたけれど、どうやら違うらしい。


「おかしい。こんなすぐ入れるなんて……」

王城に入る際は貴族でも簡易的な審査をされるらしい。予定にない訪問なら尚更だ。


 私の頭に過ぎるのはゲームでの敵――トピア教団。理由は違えど兄が王城にいるという点は同じだ。


「あれは……! あっ、見ない方が良い!」

アレルが指を指した先に居たのは血まみれになって倒れている兵士。おそらく亡くなってしまっているのだろう。


「メリナ。行っても良い?」

「ええ。我が家の失態かもしれないの。望むところよ。ひとまず謁見の間に行くわ」

庭園に馬車を停め、三人で中に入る。先導するのは剣を構えたアレルで、メリナがすぐ後ろから道順の指示を出している。


 今のところ敵の姿は見えないけれど、血まみれの兵士はそこら中に転がっていた。その中に生存者が居たようで、アレルは魔法を使って話せるまで治療した。


「早く……陛下を……」

「陛下が!? やっぱり賊が!?」

「どきなさい」

メリナがアレルを押しのけ、生き残った兵士の前に立つ。


「敵について教えなさい」

「……賊はおそらく複数人、です。しかし、圧倒的速さで目にも追えず……。謁見の間の方に向かっていきました……」

メリナはちらりとこちらを向く。私は頷いた。


「そこに兄が居るなら行きます」

「……!? 危険です……!」

「大丈夫ですよ、私は賊には殺されません」

未来予知から考えると私は生贄にされるまでは死なない。変わることもあるから、信じ過ぎは良くないけれど、一つの判断材料にはできる。


「アレルさん。協力していただけますか?」

「ああ。王国の危機に逃げ帰れるかよ」

兵士を軽々と殺せる実力者と聞いたからか、彼は手を震わせていた。それでも着いてきてくれるのは彼の正義感故だろう。


「危険と感じたら逃げてくださいね」

「女の子置いて逃げれるか……」

素直に逃げるタイプには思えないから、彼を精一杯サポートして殺させないようにしないと!



「アレルといったかしら? 扉を開けなさい。エミリア、私たちは壁の裏に隠れるわよ」

「くそっ。どうとでもなれ!」

彼は手を剣に添えながら扉を蹴って開く。そこには縛られて固定されている陛下と、殺されている兵士、トピア教団と思われる黒フードの男、そして兄がいた。


「元会長、まさかそっち側っすか!?」

驚く彼に黒フードが近づいてくる。咄嗟に防御魔法を展開して剣を防ぐ。


「ほう。この魔法……あなたから来ていただだけるとは。実に運が良い」

アレルの他に誰かいることはバレている。幻を作れるメリナが隠れていたほうが良いと思い、姿を表す。


「エミリア!? 領地に居るはずじゃ……」

「ごめんなさい、お兄様。言いつけは破りました」

目に見えて動揺している兄に謝ったあと、黒フードに目を向ける。


「お兄様を返して貰える?」

「エミリア様、あなたの兄の代わりにこちらに来てください。さもないと」

別の黒フードが現れて兄の首元にナイフを突き立てる。


「大事な兄が死んでしまうぞ」

「そうして欲しくなかったら?」

挑発するかのように聞く。


「我らと共に来い」

「生贄にするために?」

「分かっていたのか」

未来予知の場面に、やはりこの人たちが関係しているらしい。少しでも聞き出すために知っている振りをする。


「さすがは大魔法使いの血を引く娘。我らの神の復活には封印した者の子孫たちが必要だと知っているのだな」

……大魔法使いの子孫!? 大魔法使いって、もしかして聖女と王子と共に邪神を封印した人? 古い家とは知っていたけれど、そんな由緒正しいの!? ゲームで兄に国を盗らせたのは国王確保のためで、兄に近づいたのはラヴィーネの血を引くと思っていたからか。復活の生贄は相伝魔法を受け継いでいる必要があるはず、だから私が捧げられてしまっては駄目だ。


「お兄様!!」

「エミリア……僕のことはいい……だから……」

「早く決めろ」

兄を捕まえていた男は私が時間を稼ごうとしたと思ったのかナイフで兄の首を撫でた。赤い線が付いて、血が出てくる。


「私、は……」

どうする、どうすれば兄を助け出せる?


「そうか、殊勝なことだ。素晴らしい兄妹愛だな。手を挙げたままこちらに来い」

フードの男は私の返答を聞くことはなく――いや、違う。私が頷いたのを「見た」のだ。


「氷よ、貫け」

メリナが作ってくれたチャンスは一度きり。氷で槍を作り、狙いを定めて兄を捕まえている男を狙う。


「……! 魔力!? 偽物か!?」

フードの男が私の幻がいた辺りを斬ると同時に、魔法が兄を捕まえていた人物の頭を貫く。


「確保っ!」

いつの間にかアレルは兄の後ろに移動していて、兄を拘束している縄を切ってくれていた。安心したのも束の間、黒フードが窓や廊下から現れ、私たちは囲まれてしまった。


「悲願成就は目の前だ。エミリア・フォン・ラヴィーネを確保しろ。他は殺して構わん」

リーダー格の黒フードが命令を出すと、彼らは一斉に襲いかかってきた。


「いっけー!」

数え切れないほどの氷の破片を作り出し、全本位に飛ばしまくる。兄たちは別の魔法で守られているから問題はない。メリナがサポートしてくれたのか、かなりの数が当たった。初級魔法だから、威力はないけれど。


「氷よっ!?」

急接近してきた黒フードに対して咄嗟に氷を放つ。相手を退けることはできたけれど、腕にナイフが刺さってしまった。


「エミリア、しっかりなさい! 幻は優秀ではないのよ!」

痛い、痛い、痛い、痛い……! 左腕は熱いし、痛いし、痺れている気もする。とりあえずナイフを引き抜いて、うろ覚えの回復魔法をかける。


「はあっ……! 降り注げ、貫けっ……!」

謁見の間全体に氷の槍を降らせる。痛みで精度はかなり低くめちゃくちゃだ。近くに落ちてきた槍の冷気が心地良い。


「はあっ……、ははっ。我慢比べ、しよっか?」

痛みを忘れるために、兄を守って戦うために選んだ方法は怒ることだった。怒りに身を任せて、必殺の攻撃を広範囲に降らせる。魔力消費は激しいけれど、負けたら生贄にされてしまうのであれば出し惜しみなんてできない。


「エミリア!」

「危ないから動き回っちゃだめっす! 今のエミリアには近づけない!」

私の耳には自身の心音と氷が床に突き刺さる音しか聞こえなかった。

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