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生徒会役員として忙しくしていると、あっという間に一年が経った。生徒会業務にトピア教団の調査と、勉強するどころではなかったせいで下がってしまった成績を見てため息を吐いた。
「エミリアちゃん、大丈夫? 上位じゃなくても、凄いのは変わらないよ!」
落ち込んでいるように見えたのか、ライラが励ましてくれた。
「生徒会の仕事は忙しいですから。両立しているだけでも素晴らしいと思います」
「他の三人は変わらず上位ですが……」
流石は攻略対象と悪役令嬢と言ったところで、彼らはとてもスペックが高い。私の言葉に気まずそうに顔を逸らしたカンネに「気にしていないですよ」と声をかける。
「エミリア……約束果たせなさそう……」
赤点が並ぶテストを見て、ヒカリが項垂れる。約束とは彼女に王都を案内してもらうというものだ。名目としては下町を見てみたいから。本音はもしもの時にヒロインである彼女と行動しておきたいからだ。他の日もできるだけ攻略対象が近くに居るように予定を組んでいる。
「気にしないでください。また、他の日にしましょう? 外せない予定はありませんから、気軽に誘ってくださいね」
「ありがとう! それじゃあ私は補習に行ってくるね……」
肩を落としてとぼとぼ歩くヒカリを見送った後、ライラとカンネの方を向く。
「お二人は春休みどうされますか? 私は王都に居ようと思うのですが」
「縁談を組んだから帰ってこいって言われててさ……。あ、でもすぐに戻る予定だよ!」
「私は婚約者と過ごそうと思っています」
「婚約者……。お二人とも楽しんでくださいね。ライラ、私を気遣って早く帰る必要はありませんからね? ごゆっくりどうぞ」
これから王都で起きるかもしれないことを考えると、むしろこっちに居ないほうが良い。もちろん、起きないに越したことはないけれど。
春休み初日に祖父に運命が変わっていないことを教えてもらってからは、遠出せず王都内に居続けた。兄からは領地に来るようにと言われていたけれど、友人の実家に行くから難しいと嘘をついた。
「……暇なの?」
ベンチに座ってルーネイト先生に調べてもらった資料を読んでいると呆れたようにアレルに声をかけられた。
「暇ではありませんよ」
「……実用的な物には思えねえけど」
「役立たないと決まってはいませんよ」
「つーかさあ」
彼はにやりと口角を上げる。
「わざわざここに座るってことは俺に気が――」
「ない」
「即答!?」
「外で読みたかっただけですよ。寮の近くは人が多いのでここに来ました」
食い気味に答えると苦笑いされてしまった。
この近くでアレルが剣の自主練をしているというのは知っていて、彼に会うためにここに来ているのは事実だ。王城で何かが起こった時、彼が着いてきてくれればありがたいと思ったから。身体強化ができるといっても、敵モブに近づかれては対処できないし。
アレルとの会話はこれくらいにして、改めて資料に目を通す。古今東西の召喚系の儀式と生贄について調べてくれているようで頭が上がらない。
召喚は決められた魔法陣や詠唱を用いて多量の魔力を注ぐことで行えるらしい。ゲームでは転移魔法を研究していたけれど、それは召喚の応用らしい。その事もあって召喚についてはかなり詳しく書かれていた。もし、伝説上の存在――邪神を復活させるのであれば、大量の魔力が必要になるとも。研究を手伝ってくれる生徒がいると言っていたし、転移魔法が完成するといいな。……ゲーム通りならヒカリの成績的に難しそうだけど。
生贄については迷信がかなり多く、召喚のために魔力を根こそぎ取られた人のことを指すのではないかと書かれていた。けれど、私は小さく書かれた「実体のないものの依代にする」という文字が気になった。
ラヴィーネ家の人を依代にしたかった……なんて考えすぎか。ラヴィーネは魔力が特別多いわけではない、ただの侯爵家だし。ゲームでの兄は言うことを聞かせやすくてちょうど良かっただけかもしれない。
「こんな所にいたの。探したじゃない。部屋で大人しくしてなさいよ」
振り返ると、口元を扇で隠したメリナがそこに立っていた。ただし、その目は笑っていない。
「今すぐ準備なさい」
「な、なんの準備ですか!?」
「王城に向かう準備よ」
「えっ!?」
「はっ!?」
「今、向かわないとあなたは後悔する。……友達からの助言よ」
「……分かりました」
メリナがここまで真剣なら考えがあるはずだ。理由は向かいながら聞けば良いだけだ。早く準備しないと。
念のため杖を持って、メリナと馬車に乗り込む。扉を閉めようとするとアレルが走ってくるのが見えた。
「よく分かんねえけど、俺も行く!」
「アレルさん!?」
「……馬鹿? 私たちは城に喧嘩を売りに行くようなものなのよ?」
「でも……行かないと後悔すると思った! それに殴り込み? に行くなら前衛は必要だろ?」
剣をとんとんと指で叩いて彼はアピールした。メリナはため息を吐くと、私の隣を指さした。
「席は空いているわ。勝手になさい。責任は取らないけれどね」
「ありがとう!」
アレルが座ると馬車は動き出す。私が口を開くより先にメリナが話した。
「レオン・フォン・ラヴィーネはこれからローゼギフトを告発するわ」
「つまり……」
「アレはきっと自分ごと罪に問わせるつもりよ」
「なるほど……? って、なんで知ってるん、ですか?」
「私も証拠集めに協力したからよ」
至極当然なアレルの疑問に彼女は淡々と答える。
「メリナ。自分の首を絞めるような真似をして、良いの?」
「ええ。アレはちょうど良かったわ。私が提出したって状況は変わらないもの」
知らずに兄が捕らえられていたら、きっと悔やんでいた。そんな私を知っていたから教えてくれたのだろう。……メリナが実家を潰したがっているなんて初耳だったなあ。ゲームでも、そうだったのだろうか。
「ありがとう、メリナ」
「喜ぶのはまだ早いわ」
彼女は顔を背けたけれど、耳はほんのり赤くなっているのが見えた。




