学院祭
学院のイベントは生徒会を中心に運営する。それは学院祭でも変わらない。しかし、学院祭は販売する団体もあるため、会計の私は準備期間から忙しく駆け回る羽目になった。
「エミリアー! もし良ければ、一緒に給仕を――」
「……ごめんなさい!」
本番でも忙しさは変わらず、むしろトラブル対処のせいで忙しさは増していた。殿下がいると余計に騒ぎが大きくなってしまうし、メリナの姿は見えない。二人が戦力外なせいで、私の仕事量が増えていたのだ。もう少し要領が良ければ、合間に学院祭を楽しむこともできたかもしれないけれど……。
「少しは顔を出してよ。お客さんでも良いから!」
「時間が作れたら……」
楽しそうに働くクラスメートを横目に、私は仕事へと戻るのだった。
学院祭二日目のお昼頃、私は学院の端で横たわっていた。遠くで楽しそうな声が聞こえる中、食事をする気力もなく、ぐったりしていたのだった。この辺りに出店はなく、学院の中心からは離れているためわざわざ来る人はそうそういないだろう。
「これ、食べれるか?」
差し出された苺飴を食べる。
「アレル、さん……?」
苺飴のおかげで頭が再び働き始め、私に食べさせた人物がいることに気がついた。
「あっ、えっと……私……」
「それはやるよ。忙しくて食べてないんだろ」
「ありがとうございます」
とても甘くて美味しい。座って食べていると、少し元気になった気がする。
「ありがとうございます。アレルさん。昼食を食べる時間がなくて……」
「気にすんな。ありがとな」
ぽんぽんと頭を撫でられる。座っていてちょうど良い高さにあったからかもしれないが、同級生にすることでもないだろう。
「撫でられるような年齢ではないです。それと代金は渡しておきます」
苺飴の値段を思い出し、その金額をアレルに握らせる。一度突き返されそうになったけれど、押し付けることに成功した。
「頑張れよー」
アレルに手を振って、私は会場の方へと戻った。
「様子を見に来ました」
アレルと会ったあと、少しくらい休憩しても良いかと思い、クラスの出し物に顔を出してみた。やっているのはカフェらしく、入り口にお洒落なメニューと給仕服を着たクラスメートがいた。出し物はゲーム通りみたい。そもそも、カフェをやるクラスが多いけれど。
「生徒会の方……でしょうか?」
「いえ。今は休憩中です」
付けっぱなしにしていた腕章を見て、入り口に立っていた子が遠慮がちに聞いてきた。私が否定するとほっとしていたけれど、生徒会が来ると緊張するものなのだろうか。
「あっ! 来てくれたんだ!」
中からひょっこりとヒカリが顔を出す。
「ゲーム通りだ……」
「ゲーム?」
「似合っていますよ、ヒカリ」
ゲームで見た姿とあまりに似ていたからか、口に出してしまったらしい。聞き返されはしたものの、誤魔化せただろう。
「ありがとう! せっかくなら、仕事していく?」
「あまり長くはできないけれど……せっかくならやってみたいです」
「はい、着替えはこれね」
ヒカリと話していたのを聞いたのか、ライラがメイド服を手渡してくれた。
「更衣室で着替えてきてねー」
「は、はい……」
戸惑いつつも、言われた通りに更衣室に行くことにした。
クラスメートを見ていて思っていたけれど、アンナたち――本物のメイドと比べるとかなり装飾が多い。たっぷりのフリルにふんわりと広がるスカート、ヘッドドレスなどが付いて可愛らしくアレンジされているようだった。
私を含めてほとんどのクラスメートは給仕のような仕事をしたことはないし、することもないだろう。違う立場を体験できる学院祭はそういった視点でも人気イベントなのだ。
「ライラ、お待たせ」
「マニュアルは一応あるから、読んでみて。とにかく楽しもう!」
「やってみます!」
マニュアルに目を通した後はメニューや料理を運びで忙しかったけれど、かなり楽しかった。顔を出してよかった。
途中、殿下がやってきてプチ混乱が起きるというハプニングはあったけれど、楽しそうなみんなを見れて満足だ。
見ている限りでは、ヒカリはグレイ王子ルートを進めているように見える。他の攻略対象が来ていないとは限らないけれど。
「では、そろそろ生徒会の方へ戻りますね」
「わあ! もうそんな時間かあ……。生徒会の仕事も頑張って!」
ヒカリに一声かけてから、更衣室に向かう。慣れ親しんだ制服を着て、腕章をつければ生徒会役員の完成だ。
「後夜祭まで乗り切れば忙しいのは終わる! それまで頑張ろう!」
自分を励ますような声を出し、気合いを入れた。
「「終わった……」」
私とオリバーはベンチでぐったりとしていた。こんな姿は他の人には見せられないだろう。
「無様ですこと」
「二人とも、お疲れ様」
メリナと殿下が気力を使い果たしている私たちに声をかける。
「サボっていたメリナ嬢には分かるまい?」
「あら、あなたは元気そうね。今サボり?」
凄いな、オリバー。私は言い返す気力もないのに。二人の口喧嘩をBGMにして、後夜祭の目玉を待つ。
花火が上がった。色とりどりの花が上空で咲いては散っていく。口喧嘩をしていた二人も、楽しそうに話していた生徒たちも、静かに花火を見ている。静かな夜に花火の音だけが響いていた。
……無理だとは分かっていたけれど。この花火を兄と見たかったな。




