新・第3話 『リリィを傷つけた絶対筋肉障壁の孤独』 :『最強の盾は、誰にも守られない』 ――仲間の想いは、なぜ届かなかったのか
――「この時の俺は、守れると信じていた。」
配信ドローンのレンズに映る、黒光りする己の肉体。今日も画面の向こうでは、
『歩く大胸筋!!』
『ナイスバルク!!!』
そんなコメントが絶え間なく流れている。
その光景をぼんやり眺めながら、モストは静かに右手を見つめた。
(……この手で、守れなかった。)
その瞬間。
脳裏に、あの日の笑い声が蘇る。
◇
まだ世界最強でも、ソロ探索者でもなかった頃。
ギルド裏にある小さな酒場。
探索帰りの四人は、いつもの席に腰掛けていた。
「かんぱーい!」
ジョッキがぶつかり笑い声が響く。
「……もーっ!」
リリィが頬を膨らませた。
「また食べたでしょ!」
テーブルの上には串焼き。
その一本がいつの間にかモストの皿へ移動している。
「む?」
モストは首を傾げる。
「これは私のではないのか?」
「違うよ!」
リリィが立ち上がる。
「私の!」
「おお、すまない。」
悪びれず笑う。
「筋肉が腹を空かせていた。」
「筋肉のせいにしない!」
酒場中が笑った。
アレンも腹を抱える。
「相変わらず食う量だけはドラゴン級だな。」
「盾役は燃費が悪いのだ。」
「燃費ってレベルじゃねぇよ。」
そう言ってアレンは、自分の串焼きを一本モストへ差し出す。
「ほら。」
「いいのか?」
「お前が一番前で守ってくれてるんだからな。」
モストは少し照れ臭そうに笑った。
「……ありがとう。」
リリィも優しく笑う。
「だから太るんだよ。」
モストは胸を張る。
「違うこれは筋肉だ。」
「知ってる!」
三人は大笑いした。
その笑い声を聞きながら、酒場の主人が微笑む。
「いい仲間だな。」
アレンが頷く。
「ああ。」
「俺たち四人でSランクまで行く。」
「一人も欠けずにな。」
その言葉にリリィも拳を握った。
「私ももっと強くなる!」
杖を掲げる。
「新しいバフ覚えたんだから!」
「ほう。」
モストが興味深そうに見る。
「どんな魔法だ?」
「今までよりもっと強い怪力強化!」
胸を張る。
「次の探索で使うからね!」
「楽しみにしている。」
モストは柔らかく笑った。
「だが。」
少しだけ真面目な顔になる。
「無理だけはするな。」
「大丈夫!」
リリィは満面の笑み。
「みんなを支えるのが私の仕事だもん!」
その笑顔を見て、モストも笑った。
「頼りにしている。」
誰も知らなかった。
その約束が、こんな形で終わるなんて。
◇
三日後、ダンジョン中層のボス部屋。
地面が震える。
「数が多い!」
アレンが叫ぶ。魔物の群れ。二十、三十、いや、それ以上。
「モスト!」
「任せろ!」
巨大な盾を構え、一歩前へ。魔物の牙、爪、棍棒。すべてを受け止める。
「今だ!」
アレンが斬る。仲間が攻撃する。璧な連携だった。
だが。魔物は減らず、包囲される。
「まずい!」
アレンが舌打ちしたその時。後ろからリリィの声が響いた。
杖を掲げ、桃色の魔法陣が優しい光を放つ。
「モスト!今助ける!」
魔力が集まっていく。
「怪力支援魔法──!」
暖かな光が一直線にモストへ向かう。
誰も疑わなかった。これで押し返せると思いモストも笑った。
「ありがとう、リリィ!」
その瞬間だった。
──バチィィィィィン!!!
世界が、割れた。モストの全身が白銀に輝く。
「……え?」
魔法が弾かれた。直線に術者へ。
「きゃああああぁぁぁ!!」
リリィの身体が吹き飛び石畳を何度も何度も転がる。
杖が砕け、桃色の魔力が虚しく霧散した。
モストの思考が止まる。
「……リリィ?」
自分でも理解できなかった。今、何が起きたのか。
(後編へ続く)
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