新・第29話:『血塗れの白雪(戦闘編)』―「お待たせいたしました、皆様。――それでは、探索を再開いたします」―
――ピツ、と空間に走る微かなノイズ。
過去のあまりにも深く、あまりにも気高い回想の旅を終え、白雪琴音の意識は、再び現代の、四方を巨大な『アイアン・ゴーレム』に完全に包囲された中層の大部屋へと、鋭く引き戻された。
リスナーたちには彼女の過去など見えない。画面の向こうの何百万人のファン(観客)たちが見ているのは、ただ無言のまま、衣服を1ミリも汚さない美しい純白のドレスを揺らし、その華奢な両腕に嵌められた無骨な黒鉄のガントレットを静かに構え直した、世界3位のお嬢様の今の凛とした佇まいだけだった。
だが、その一瞬の静寂の後に宿った彼女の瞳の「眼光」の鋭さに、コメント欄は瞬時に沸き立った。
『お嬢様の目が変わったぞ……!! ガチの戦闘モードだ!!』
『やっぱり世界3位の佇まいは次元が違う。格好よすぎる!!』
『あの綺麗なドレスで殴り合う人初めて見たんだけど!?』
『茶化すなよ! お嬢様は今、あの若者たちを助けるために命を懸けてくれてるんだぞ!!』
『お上品に構えるその黒鉄のガントレット、ドレスとのアンバランスさが最高にエグい……っ』
『頑張ってくださいお嬢様!! 負けないで!!』
「お待たせいたしました、皆様。――それでは、探索を再開いたします」
どこまでも丁寧で、凛とした美しい声を響かせた直後、白雪琴音は純白のドレスの裾を翻し、包囲するゴーレムの群れへと真っ正面から音速の踏み込みを敢行した。
――ドゴォォォォォンッ!!!!!!
彼女が超音速の突撃と共に、正面のアイアン・ゴーレムの胸へと、黒鉄のガントレットの拳を本気で叩き込んだ、その瞬間。
凄まじい衝撃波が大部屋全体を震わせた。、鋼鉄の肉体を持つはずのゴーレムの胸が一瞬にして粉々に消し飛んだ。
それと同時に、攻撃極振りの過剰バフのあまりの出力に耐えきれず、白雪琴音の右腕の骨が、ひじから先までバキバキィッ!!!と生々しい音を立てて内側から砕け折れた。
しかし――かつての初陣のように、彼女が痛みに悲鳴を上げることは、もう二度となかった。
右腕の骨が砕け折れたその刹那、魔力の詠唱すらなく、衣服を汚すこともなく、固有スキル【自己超再生】が完全自動で発動。光の速度で、肉体の内側からカチリ、カチリと一瞬で骨が繋ぎ直される。
琴音は眉一つ動かさず、完治したその黒鉄の拳をそのまま引き抜き、間髪入れずに真横から迫る二体目のゴーレムの顔面へと、強烈なアッパーを叩き込んだ。
――ズバガァァァァァンッ!!!! バキィッ!!!
二体目のゴーレムの頭部が消し飛ぶ。打撃の衝撃で今度は彼女の左腕の骨が砕け折れるが、それすらも打撃のフォロースルーの最中、わずか0.1秒で内側からカチリと超再生が完治させ、彼女の純白のドレスには返り血一つついていない。
自傷のダメージを上回る狂気的な超高速の回復。 あまりにも常軌を逸した、お上品な皮を被った人類最凶の無詠唱・自傷インファイトの全貌を目撃した瞬間、床にへたり込んでいた若手冒険者たち、そしてドローンの向こうのコメント欄は、引くのを通り越して驚愕の大絶叫の弾幕で大爆発を起こした!
『は!? は!? 今の回復速度何だこれ!? 意味が分からねえぞ!!』
『魔法の詠唱すらしてねえ!! 殴った次の瞬間にはもう治って次の拳出してるぞ!!』
若手冒険者たちは言葉を失った。
目の前では、骨が砕ける音よりも早く、琴音の腕が元に戻っていく。
『バキバキ骨の折れる音が聞こえるのに、ドレスもガントレットも1ミリもブレてねえの不気味すぎるww』
『昔は痛がりながら戦ってたって噂マジ!? 今のこれ、痛覚すらねじ伏せてるだろ……』
『骨を折りながら光の速度で繋げて相手を粉砕するとか、ガチの怪物じゃねえか!!』
『衣服を汚さない超再生、マジで芸術の域に達してて鳥肌が止まらん……っ』
『スパチャ¥100,000:血塗れの白雪!!! お下品な魔物どもを一網打尽にしちゃってください、お嬢様ーーーッ!!!』
凄まじい熱狂の弾幕が流れる中、白雪琴音の黒鉄の拳は止まらない。
残る三体のゴーレムが、同時にその巨大な鉄拳を彼女へと振り下ろす。防御のバフを持たない彼女は、その全ての打撃を避けることもなく、自らの黒鉄のガントレットの連打で真っ正面から『迎撃(相殺)』していった。
――ドガガガガガガガガガアンッ!!!!!
――バキバキバキバキバキィッ!!!!!
部屋中に響き渡る、骨が砕け折れる凄まじい破壊音の連打。
しかし、彼女の肉体はその破壊の音を遥かに凌駕する速度で、内側からカチ、カチカチカチカチリ!!!と完全自動で骨を繋ぎ直し続け、放たれる拳の威力は衰えるどころか、一撃ごとにバフの圧力を増していく。 そして――。
「――これで、終わりです」
お嬢様が両腕をクロスさせ、本日最高出力の双拳を目の前の空間へと叩き込んだ。
――ズバゴォォォォォォォンッ!!!!!
猛烈な空気の衝撃波が、残るゴーレム三体の巨躯を鎧ごと一瞬にして消し飛ばし、
大部屋の頑丈な石壁にまで巨大なクレーターを穿った。
戦いは、文字通りの一網打尽。
白雪は何事もなかったかのように、
純白のドレスの裾をそっと整え、
銀のガントレットに嵌め込まれた透のコア結晶の輝きを愛おしそうに見つめる。
『はい優勝!!! 圧倒的優勝!!!』
『衣服を1ミリも汚さずに更地にしやがったww』
『これが世界3位の、世界を救う最強の矛だあああッ!!!』
『最高の神回をありがとうお嬢様!!! ナイスバルク!!!(※モストのリスナー)』
『お嬢様格好よすぎて一生ついていきます!!!』
丁寧すぎる敬語のまま、
恐怖で腰を抜かしている若者たちへ優しく微笑みかけた。
「お怪我はありませんか? 脅威はすべて排除いたしました。さあ、安全な地上へ戻りましょう




