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『ダンジョン配信のトップ層、まともな奴が一人もいない件』 〜規格外のソロ配信者5人が集まったら、同接1億の伝説パーティになりました〜    作者: うちの猫
白雪琴音

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新・第28話:『血塗れの白雪(改造編)』―鉄槌の火花に踊る記憶――「届かないなら、わたくしが前へ出ます。透さんの代わりに、このガントレットの拳で」』―

――カンッ!!! カンッ!!! 

ギルドの裏街にある、薄暗い一本の武器屋。 使い込まれた鉄槌が赤く灼けた金属を叩くたびに、夜の闇のような工房の中に、眩いばかりの真っ赤な火花が美しく舞い散っていた。

 白雪琴音しらゆき ことねは、自らの手で裾を乱暴に引きちぎり、魔物の返り血でドロドロに汚れたロングワンピースの聖衣を纏ったまま、その薄暗い工房の扉を静かに押し開けた。


「……ッ!? な、なんだその格好は……!? お嬢ちゃん、一体どうしちまったんだ!」 


火床の前に佇んでいた老職人は、入ってきた琴音の姿を見るなり、目を見開いて絶句した。 

お屋敷の中で大切に守られていたはずの、最高位の白雪院のお嬢様。それが、衣服をボロボロに引きちぎり、全身を魔物の生々しい返り血で真っ赤に染めて立っている。その凄惨で異様な佇まいに、職人はただただ圧倒されていた。

 琴音は職人の驚愕を前にしても、美しく凛とした表情を崩さない。彼女はカウンターの上に、前衛の屈強な男のサイズゆえにぶかぶかだった、あの遺品を静かに差し出し、どこまでも丁寧な敬語で職人へ懇願した。


「お騒がせして申し訳ありません。……お願いです。これを、わたくしの腕に合うように作り直していただけないでしょうか。……全てを溶かして、別のものにしてしまうのは嫌なのです。これは、わたくしにとって世界でたった一つの、命に代えても守らなければならない大切な宝物ですから。……せめて、せめてほんの一部分だけでも、透さんが生きて戦っていた証を残していただきたいのです」 


職人は、差し出された傷だらけの巨大なガントレットへ視線を落とした。それは、あいつのために自分が魂を込めて打った、世界に一つだけの得物だった。


「お前……それ、透のガントレットじゃねえか。……あいつはどうしたんだよ。こいつはあいつの、命の次に大事な物だぞ。なんでお前がそんな血塗れで、あいつの得物を持ってるんだ」


「……透さんは、亡くなりました」 


琴音の静かな、けれど微塵も揺るがない敬語の返答に、老職人の言葉がピタリと止まった。 

槌を握る職人の大きな手が、わずかに震える。


「……嘘、だろ。あいつが、あの深層の壁が、死んだってのか」


「はい。深層の主の前に……わたくしの回復が、間に合いませんでした。……届かなかったのです」


 琴音の声は低く、けれど工房の空気を一瞬で凍りつかせるほどの執念が籠もっていた。 彼女はガントレットの傷跡にそっと触れ、血を吐くような言霊の重さで、職人を真っ直ぐに見据えた。


「後ろの安全な場所で祈るだけの光では、透さんの命すら救えませんでした。


傷ついてからしか治せないヒールなど、もう必要ありません。


届かないなら――わたくしが前へ出ます。


透さんの代わりに、このガントレットの拳で、迫り来るすべての脅威を打ち倒すために。」


「世界を救う、最強の『矛』になるために……わたくしは、この遺品を求めているのです」

 

一人の人間としてのすべてを捨て去り、化け物になってでも誰も死なせないと誓った、聖女の真実の狂気。


 老職人は、彼女の涙の跡が残る血塗れの顔と、絶対に折れない高潔な眼差しをじっと見つめ、やがて、深く、深く、負けを認めるように息を吐き出した。


「……ハッ、イカれやがって。透のやつ、とんでもねえ聖女様を遺していきやがったな。……分かったよ。お前のその面と覚悟に免じて、あいつの遺志を繋いでやる。俺の腕で、お前のサイズに完璧に叩き直してやるよ」 


職人は繊細な手際で透のガントレットから最も大切な「拳のフロント・プレート」の装甲と、内側に嵌め込まれた、透の魔力が染み付いた「コア結晶」の2つの心臓部だけを綺麗に切り離した。そして、その透の魂の一部を、彼女の腕の細さに合わせた強固なガントレットの基礎へと、慎重に、けれど力強く火床の炎のなかで接合していく。

 ゴオォォォォォッと燃え盛る真っ赤な炎。

 職人が大振りの鉄槌を振り下ろし、透の装甲を彼女の新たな矛へと叩き込んでいく。

 ――カンッ!!!!! 

激しい衝撃音と共に、火花が琴音の凛とした瞳の奥で弾けた。その眩い光の残像に導かれるように、彼女の脳裏に、かつて透さんと過ごした、まだ描かれていない大切な日常の記憶が、鮮烈にフラッシュバックした。




鉄槌の第一打(カンッ!)


それは何年前、彼らと出会ってまだ間もない頃の、ギルドの片隅での他愛のないやり取り。


最高位の元貴族、名家である白雪院の娘という高すぎる身分のせいで、周囲の誰もが琴音に対して「お嬢様」と遠慮し、どこか壁を作って腫れ物に触るように接していた。そんな息苦しい日々のなかで、前衛の戦士である透さんだけは、彼女の身分など最初から1ミリも気にしてはいなかった。


『おい琴音! 今日お前の実家から高級な菓子が届いたんだろ? 俺にも一個くれよ!』


『まあ、透さん。皆様が遠征の準備をなさっている最中に、そのような不躾な物言いは……』


『いーじゃん、減るもんじゃねえだろ。ほら、口開けろ、俺の干し肉と交換な!』


そう言って、彼は大きな手で彼女の口元へ冗談めかして肉を突き出し、ケラケラと豪快に笑っていた。


誰もが「白雪院の聖女」として距離を置くなか、透さんだけは違った。


彼は最初から最後まで、「白雪院のお嬢様」ではなく、一人の琴音として笑いかけてくれた。


その何気ない時間が、彼女にはどんな華やかな社交界よりも、ずっと大切だった。



鉄槌の第二打(カンッ!) 


――カンッ!!!!! 

再び響く重い打撃音。飛び散る火花の向こう、今度は過酷な深層の探索で、初めて見る強敵の圧倒的な殺意の前に、琴音の足が完全に竦んでしまった、あの死線の記憶。


『ひっ……あ、足が……』


 恐怖で一歩も動けなくなった彼女の視界の真ん中に、凄まじい地鳴りと共に、透さんの背中が真っ正面から割り込んだ。 ガギィィィンッ!!! と激しい金属音が響き、彼はそのガントレットの拳で、魔物の凶悪な牙を真っ正面から受け止める。衝撃で彼の足元の地面が爆砕し、肉が裂ける痛烈な衝撃が響く。


『怖がるな、琴音!! 後ろを見ろ、お前の後ろには誰もいないだろ!!』


 前線で血を流しながら、彼は一度も琴音に恐怖の景色を見せないように、その大きな背中で魔物の暴力を遮り続けていた。


『俺がここに立ってるのはな、お前に絶望の景色を見せないためだ。お前はただ、俺の背中だけを信じてろ!!!』


 傷つく瞬間の痛みに耐えながら、自分を守り抜くために戦い抜いてくれた、あまりにも頼もしい背中。後から治すことしかできない自らの無力さを呪いながらも、彼のその言葉が、彼女の信仰のすべてだった。



鉄槌の第三打(カンッ!)


 ――カンッ!!!!! 

火床の炎が激しく舞い上がる。最後にフラッシュバックしたのは、何の変哲もない、遠征の合間の夕暮れ。ギルドの静かな屋上で、二人が風に吹かれながら、他愛のない未来の話をした、あの橙色の空。『深層の魔物を全部片付けて、いつかこのダンジョンを全部救って、平和になったらさ』


透さんはガントレットを嵌めた両腕を頭の後ろで組み、のんきに空を見上げながら、悪戯っぽく笑っていた。

『お前さ、その動きにくいローブ(聖衣)なんか脱いで、地上の一番可愛い普通の女の子の服着てさ。街を美味いもんでも食いながら、のんきにお散歩しようぜ。俺がずっと、お前の隣を歩いてやるから』


『……まあ。わたくしをお散歩に誘ってくださるのですか? 楽しみに、しておりますね』


いつか訪れるはずだった、静かで、優しい、当たり前の幸福。けれど、彼が望んでくれたその未来は、もう二度と訪れることはない。



――ジュゥゥゥッ!!!!!



激しい水蒸気が立ち上り、冷たい水の中で一気に冷却されたのは、透さんのガントレットから受け継いだ最も強固な『拳の甲』の装甲と、彼の魔力が宿る『コア結晶』をその中心部に完璧に融合させた、新たなる彼女だけの武装。


老職人はそれを丁寧に磨き上げると、琴音へと手渡した。

「待たせたな、お嬢ちゃん。透の心臓コアは、今確かにあんたの腕と繋がった。あいつの戦いの記憶は、1ミリも死んじゃいねえ。……大事にしな」


「……はい。心より、感謝いたします」


彼女の白く細い手首に「カチリ」と、完璧なサイズで嵌め込まれた、鈍い銀光を放つあの無骨で強固なガントレット。


白雪琴音は、その無骨な拳を静かに、けれど骨が軋むほど固く、強く握り締めた。

引きちぎられ、魔物の返り血で真っ赤に汚れたボロボロの聖衣のワンピース。そこに嵌められた、死んだ男の最も大切な一部を宿した、ドレスとは不釣り合いなほどに無骨で頑強なガントレット。


その、あまりにも歪で、美しくも悍ましい、相反する二色のアンバランスさ。

大衆リスナーが後にその姿を見て、畏怖と熱狂を込めて名付けることとなる絶対的な二つ名。


「――お待たせいたしました、透さん。」


ガントレットを嵌めた右拳を、静かに握る。


「……行ってまいります。」

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