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『ダンジョン配信のトップ層、まともな奴が一人もいない件』 〜規格外のソロ配信者5人が集まったら、同接1億の伝説パーティになりました〜    作者: うちの猫
白雪琴音

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新・第27話『血塗れの白雪』―母親の涙を背に浴びて――「たとえ化け物と恐れられようとも、わたくしが前を走ります」―

 ――「もう、誰も、絶対に傷つけさせません」 


あの日、深層の主を自らの拳で相打ちになりながらも撲殺し、血の海の中で最愛の戦士――透とおるの遺体の前でそう決意した白雪琴音しらゆき ことね。 


しかし、ダンジョンから地上へと生還した彼女を待ち受けていたのは、凍りつくような「絶望」と、あまりにも冷酷な現実の追放劇だった。

 最高位の貴族であり、清廉な「神聖な聖女」としての娘のブランドを政治の道具として誇っていた実家、白雪(しらゆき)。 そこへ、前線から琴音を見捨てて逃げ帰った元パーティメンバーたちから、最悪の『噂』が届けられていたのだ。


『白雪琴音が、自分の骨をバキバキと悲鳴を上げて折り、泣き叫びながら、魔物を笑顔で撲殺した』


『純白だったワンピースを、魔物の真っ赤な返り血でドロドロに染めて、狂ったように笑っていた』


 厳格で、体面と伝統の事しか頭にない白雪家の長――実の父親から呼び出された琴音は、豪華な大理石の広間の真ん中で、冷徹な断罪の言葉をぶつけられていた。

「白雪院の誇り高き聖女であり、我が家の最高傑作であるお前が、あろうことか前線で泥に塗れ、自らの骨を折りながら野蛮な暴力を振るうなど、我が一族最大の恥だ。返り血を浴び、笑いながら魔物を撲殺するような化け物など、白雪家には必要ない」


父親の冷酷な声が、広い部屋に寂しく反響する。 

かつて自分がどれだけ過酷な治療をこなし、家のために尽くしてきても、結局は「都合の良い聖女の看板」としてしか見られていなかった現実。

胸の奥が、底なしの暗闇に引きずり込まれるように痛む。


「今すぐ、その腕に嵌めている薄汚い、死んだ男のガントレットを捨てなさい。迅速に、神殿の最奥の懺悔室へ入り、生涯、我が家の恥をそそぐための贖罪の祈りを捧げるのだ。お前はただの後衛ヒーラーなのだから」 


ガントレットを、捨てろ。

その言葉を耳にした瞬間、琴音の瞳の奥に、絶対に折れない、冷徹なまでの高潔な意思の火が灯った。 

透が、自らの命に代えて自分を守り抜くために嵌めていた、この世界でたった一つの絆の証明。それを捨てることなど、死んでもできるわけがない。


「――お断りいたします」 


琴音はどこまでも丁寧で、凛とした美しい敬語のまま、静かに父親を見据え、一族への決別を言い放った。


「わたくしは、もう二度と、後ろの安全な特等席で皆様の血が流れるのを待つだけの聖女には戻りません。治すのが遅いというのなら、わたくしが前へ出ます。このガントレットと共に、わたくしは、世界を救う最強の『矛』となります」



「不届き者が……! ならば今すぐこの家から出ていくがいい! 勘当だ!! 二度と白雪の敷地を跨ぐな!!」


 着の身着のまま、透の遺品であるぶかぶかのガントレットを嵌めただけの姿で、琴音は生まれ育った家を完全に叩き出された。 本当の、真の孤独ソロ。もう彼女を「琴音」と呼んでくれる家族すら、この世界には誰もいなくなったのだ。


◇ 


白雪院の冷たい鉄門をくぐり、失意のまま夕暮れの街へと歩みを進める琴音の背中に、不意に切迫した足音が追いかけてきた。 

振り返ると、そこには息を切らし、高貴な外套を乱れさせた実の母親の姿があった。周囲の目を気にする事すら忘れ、ただ娘のために走ってきたその顔には、深い悲痛と、それ以上の愛が滲んでいた。


「琴音……! 琴音、待ちちなさい……っ!」




「お母様……。どうしてこのような場所まで。


わたくしはもう、あの家を勘当された身です。これ以上わたくしと関われば、お母様までお父様に……」 


丁寧すぎる敬語のまま距離を置こうとする琴音の身体を、母親はたまらずきつく抱きしめた。高価な香水の匂いと、あの日血の海で失った「家族」の温もりが、琴音の冷え切った心を微かに震わせる。


「関係ありません……っ。


あの人が何を言おうと、あなたは私の、たった一人の大切な娘です……。


ねえ琴音、本当に行ってしまうの? あんな野蛮な前線に、自分の身体を壊しながら飛び込むなんて、そんな悲しいことはやめて頂戴……。お願いだから、今からでもお父様に謝って、神殿の奥へ行きましょう? 私は、あなたが傷つく姿なんて見たくないの……っ」 


 母親の涙が、琴音の衣服の肩口に染みていく。


ヒーラーが着るべき長く動きにくい聖衣のワンピースは、自らの手によって乱暴に裾がバリィンと引きちぎられ、細い脚が剥き出しになっている。


何より異様なのは、その白く華奢な彼女の両腕に嵌められた、前衛の屈強な男のサイズゆえに、あまりにもぶかぶかで不釣り合いな、鈍い銀光を放つ無骨なガントレットだった。


その涙が、本当に自らを「化け物」としてではなく、一人の娘として心配してくれている本物の慈愛であると分かるからこそ、琴音の胸は張り裂けんばかりに痛んだ。


「お母様。お心配をおかけして、本当に申し訳ありません。」


「琴音……っ、琴音えぇええッ!!」


琴音は深く、最後のカーテシーを一礼すると、母親の引き止める涙の声を背に浴びながら、夕闇の街へと真っ直ぐに歩き出した。


 家を失い、完全に孤高のソロとなった彼女の足は、ギルドの裏街にある、薄暗い一本の武器屋へと向かっていた。手首を動かすたびに、サイズが合わずに金属の擦れる鈍い音が寂しく響く。  このぶかぶかな透の形見を、世界を救うための真の「矛」へと打ち直すために。

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