第19話【恋の楽屋トーク】
――ピッ。
配信終了の電子音が鳴る。
いつもの控室。
だが――。
今日は、いつもと少しだけ空気が違っていた。
恋
「…………。」
ひより
「…………。」
恋
「…………。」
ひより
「……恋ちゃん。」
恋
「……なぁに?」
ひより
「今日は……無理に笑わなくてもいいですよ。」
恋
「…………。」
恋はしばらく黙ったまま、膝の上で小さく手を握っている。
恋
「……怖かった。」
ひより
「……はい。」
恋
「すっごく……怖かった……。」
ひより
「……はい。」
恋
「れん、強くなったつもりだったの…ヒロくんがいなくなって……自分で頑張って、いっぱい配信して……世界中の人に、れんのことを可愛いって認めさせて……だから……もう、昔のれんじゃないって思ってた。」
ひより
「…………。」
恋
「でもね。」
恋は胸元に手を当てる。
恋
「怖くなったら……れん、やっぱり小さい女の子だった…何にもできなくて……ヒロくんに守ってもらってた、あの頃のれんと……何にも変わってなかった。」
ひより
「……でも。」
恋
「?」
ひより
「恋ちゃんは、最後までヒロさんを忘れませんでした。」
恋
「……うん。」
ひより
「そして――助けてもらえました。」
恋
「……うん。」
ひより
「世界1位に。」
恋
「…………。」
恋の目から、また涙がこぼれる。
恋
「……モストさん。」
ひより
「はい。」
恋
「すごかったね……。」
ひより
「そうですね。」
恋
「壁、壊したね。」
ひより
「壊しましたね。」
恋
「…………。」
ひより
「…………。」
恋
「……あれ、入口から入ってくる必要ありました?」
ひより
「…………。」
「ありませんでしたね。」
恋
「だよねぇ!?普通に道から来ればいいのにぃ!」
ひより
「モストさんですから。」
恋
「モストさんだからって壁壊すの!?」
ひより
「筋肉ですから。」
恋
「筋肉で全部説明しないでよぉ〜!」
ひより
「ちなみにモストさん本人は、今回も非常に真面目です。」
恋
「そこが一番面白いの!」
ひより
「……確かに。」
恋
「しかも、あの状況で第一声が筋トレの話だよ!?」
ひより
「モストさんですから。」
恋
「またそれぇ!?」
ひより
「ですが。」
ひよりは少しだけ表情を変える。
ひより
「今回、モストさんが来てくれたことには、大きな意味があると思います。」
恋
「…………。」
ひより
「恋ちゃんは、ずっと一人で戦っていました。」
「ヒロさんを失って…それでも笑って…可愛い自分を武器にして…世界中の人に、自分の存在を認めさせようとして。」
恋
「……うん。」
ひより
「でも、今回、恋ちゃんは初めて、自分から誰かを利用するのではなく、誰かに、ただ助けてもらったんですよね。」
恋
「…………。」
恋は小さく頷く。
恋
「……うん。何にも考えられなかった、ただ……怖くて泣くことしかできなくて、そしたら……。」
恋
「モストさんが来てくれた。」
ひより
「はい。」
恋
「……大きかった。」
ひより
「身体が?」
恋
「身体もだけどでも……。」
恋は少しだけ笑う。
恋
「……心が。」
ひより
「…………。」
恋
「なんかね、ヒロくんとは違うんだけど……ちょっとだけ、安心したの。」
ひより
「……そうですか。」
恋
「だから……。」
恋は涙を拭う。
恋
「ありがとうって言いたい。」
ひより
「きっと、伝わりますよ。」
恋
「うん。今度、ちゃんと言う。」
ひより
「はい。」
少しの沈黙。
そして恋は、カメラへ向き直る。
まだ目は赤い。
けれど――。
その表情には、ほんの少しだけ未来を見る光が戻っていた。
恋
「……みんな。今日は、ちょっとだけ泣いちゃったけど、次は、ちゃんと笑えるように頑張るね…ヒロくんが可愛いって言ってくれた、れんの笑顔、今度は……れん自身の力で、もっともっと世界に届けるから。」
「だから――これからも、れんのこと見ててね⭐︎」
ひより
「……恋ちゃん。」
恋
「なぁに?」
ひより
「次回からは――少しずつ、本当の恋ちゃんが始まるのかもしれませんね。」
恋
「……うん。」
恋は小さく笑う。
恋
「おつかれん〜っ⭐︎」
ひより
「おつかれんです。」
――ピッ。
カメラのランプが消える。
その直後。
控室の扉が――。
ガチャッ。
モスト
「愛染恋…。」
恋
「…………。」
ひより
「…………。」
モスト
「今回の件で、筋肉における重要な教訓を得た。」
恋
「……なに?」
モスト
「一人で抱え込む負荷には限界がある…だからこそ――仲間という補助筋肉が必要なのだ。」
恋
「…………。」
ひより
「…………。」
恋
「……モストさん。」
モスト
「なんだ?」
恋
「ちょっとだけ……ぎゅーってしてもいい?」
モスト
「汗臭いが大丈夫か?愛染恋。」
恋
「……うん。」
恋はモストの胸に顔を埋める。そして――今度は、泣くためではなく、誰かに守ってもらえたという安心を胸に。
小さく笑った――ここから始まる一人ぼっちだった少女が世界1位の男に救われ――やがて、自分自身の力で世界を魅了していく物語が。




