第18話 【恋の楽屋トーク】
――ピッ。
配信終了の電子音が鳴る。
いつもの控室。
だが――。
今日の空気は、いつもと違ってあまりにも重く、冷たく沈み切っていた。
恋
「…………。」
ひより
「…………。」
恋
「……ひよりちゃん。」
ひより
「……はい。」
恋
「れん……どうしちゃったんだろう。」
恋は自分の細い両手を見つめたまま、小さく震えている。
恋
「いつもなら、男の人のドロドロした視線も、全部『れんへの愛』に変換できたのに……【純愛過剰負荷】で、床ごとぺちゃんこに出来たはずなのに……。」
ひより
「……恋ちゃん。」
恋
「あの人たちの目を見た瞬間……身体の力が、全部抜けちゃったの。スラム街にいた頃の……ヒロくんの後ろで泣いてるだけの、何もできない『れん』に戻っちゃった……。」
ひより
「……それは、仕方のないことです。」
ひよりは優しく恋の肩に手を置く。
ひより
「恋ちゃんのスキルは、相手の好意を『愛』だと受け取ることで発動するもの。ですが、あの時の彼らが向けたのは、愛などでは決してありませんでした。ただの身勝手な独占欲と、思い通りにならない不満をぶつけるための、純然たる『悪意』と『暴力』です。」
恋
「悪意……暴力……。」
ひより
「はい。そんな薄汚いものを、恋ちゃんが『愛』だと認める必要なんて、どこにもありません。だから、スキルが動かなかったのは、恋ちゃんがヒロさんへの純潔を、心を、最後まで守り抜こうとした証拠でもあるんですよ。」
恋
「……そっか。れん、ヒロくんの宝物を、汚されたくなかったんだ……。」
ひより
「はい。恋ちゃんのその純粋さは、何一つ汚されていません。……ですが。」
ひよりは少しだけ表情を戻す。
ひより
「恋ちゃんのそのピュアさ、たまに方向性が迷子になりますよね。」
恋
「え……?」
ひより
「普段、男たちの勘違いを限界まで加速させておいて、自分だけは完全にビジネス割り切りなところです。」
恋
「だって! 恋はビジネスだけど、みんなのことは本当に大好きなんだもん!」
ひより
「その結果、男3人が恋敵になって内側からドロドロに溶けちゃったんですけどね。」
恋
「え?」
ひより
「え?」
恋
「溶けたの? チョコレートみたいに?」
ひより
「そこじゃありません。」
恋
「じゃあ、どこ?」
ひより
「彼らの脳のブレーキです。」
恋
「脳のブレーキって溶けるの!?」
ひより
「恋ちゃんの全肯定スマイルを浴びすぎると溶けます。」
恋
「そんなぁ〜! れん、ただ可愛いって認めさせたいだけなのにぃ〜!」
ひより
「本人が一番自覚がないのが、一番タチが悪いんですよねぇ。」
恋
「でもね、れん、やっぱりみんなに笑顔を届けたいの。今回はちょっと泣いちゃったけど……次は絶対に負けないよ?」
ひより
「ふふ、その意気です。」
恋
「次は……そう、重力だけじゃなくて、なんかすごいビームとか出せるように頑張る!」
ひより
「どこに向かって進化しようとしてるんですか!」
恋
「あれぇ?」
ひより
「恋ちゃんはまず、自分の戦闘スタイルがすでに普通じゃないことを覚えましょう。」
恋
「がんばる!…………たぶん。」
ひより
「その『たぶん』が一番心配なんですけど!」
ひよりはカメラへ向き直る。
ひより
「次回、新・第19話『その少女、クラッシャー』【後編】:『世界1位が救った、一人ぼっちの少女』――。でまたお会いしましょう。」
恋
「……うん! 次は、ちゃんと可愛いれんでみんなに会いに行くからね! また見に来てね〜♡」
(楽屋に二人の、少し安心したような笑い声が響く)




