第16話【恋の楽屋トーク】
――ピッ。
配信終了の電子音が鳴る。
静かになった控室。
そこには、ピンク色の買い物袋がいくつも並べられていた。
恋はソファに座り、その中から一枚の服を取り出して、嬉しそうに眺めている。
恋
「えへへ〜……⭐︎可愛い……!これも可愛いし、こっちも可愛いし……こっちはもっと可愛い……!」
ひより
「恋ちゃん。」
恋
「なぁに?」
ひより
「さっきまで感動的な話をしていた人とは思えないくらい、楽しそうですね。」
恋
「だってお洋服だよ!?ヒロが可愛いって言ってくれたれんが、もっと可愛くなれるんだよ?そりゃ嬉しいよ〜⭐︎」
ひよりは微笑みながら、机の上に置かれた小さな箱へ視線を向ける。
ひより
「……お墓に供えたブレスレット。」
恋
「うん。」
恋は少しだけ表情を柔らかくする。
恋
「初めて自分で稼いだお金で買ったんだ…だからね、ヒロに、ちゃんと見せたかったの…『れん、こんなに頑張ったよ』って。」
ひより
「きっと、喜んでくれていますよ。」
恋
「……そうかな?」
ひより
「はい。」
「だって、恋ちゃんが笑ってますから。」
恋は少しだけ目を伏せそして、ふわっと笑った。
恋
「……えへへ、じゃあ、もっと笑わなきゃね。」
ひより
「無理して笑わなくてもいいんですよ?」
恋
「ううん。これは無理してるんじゃないの、ヒロとの約束だから。」
ひより
「……そうでしたね。」
少しだけ静かな時間が流れる。だが恋が突然、買い物袋をひっくり返した。
恋
「それでね!このお洋服も、この靴も、このメイクも、ぜーんぶ買ったの!どうかな?」
ひより
「とても似合うと思います。」
恋
「ほんと!?」
ひより
「はい、ただ……」
恋
「ただ?」
ひより
「全部合わせると、かなりお金がかかっていますよね。」
恋
「…………。」
ひより
「初めての投げ銭ですよね?」
恋
「…………⭐︎」
ひより
「まさか。」
恋
「……えへへ。」
ひより
「全部使ったんですか!?」
恋
「ヒロへのプレゼントと、れんの武装に使ったよ⭐︎」
ひより
「武装。」
恋
「うん!これは世界と戦うための武装!」
ひより
「服ですよ?」
恋
「違うよ?可愛いは武器なんだから。」
ひより
「……確かに恋ちゃんの場合、否定しづらいですね。」
恋
「でしょ〜⭐︎」
ひより
「でも、ほどほどにしてくださいね。」
恋
「大丈夫!れん、ちゃんと計算してるから!」
ひより
「……。」
恋
「?」
ひより
「その言葉が、次回ものすごく怖く聞こえるんですけど。」
恋
「えへへ?」
ひより
「恋ちゃん。」
「次回は、今までよりもっとたくさんの人が恋ちゃんを見ることになります。」
恋
「うん。」
ひより
「その分、変な人も増えると思います。」
恋
「大丈夫だよ。」
恋はカメラへ向き直り、その瞳の奥に、いつものハートマークが浮かぶ。
恋
「だって、れんにはヒロがくれた『可愛い』があるもん。」
「だから、世界中の人に見せてあげるの!れんがどれだけ可愛いのか!どれだけ大好きになれる女の子なのか!みんなに、ちゃーんと分からせてあげるからね⭐︎」
ひより
「……恋ちゃん。」
恋
「なぁに?」
ひより
「ほどほどに。」
恋
「はーい⭐︎」
ひより
「……本当に分かってます?」
恋
「たぶん!」
ひより
「また『たぶん』ですか……。」
恋は楽しそうに笑う。
恋
「それじゃあ、みんな!」
「次回、新・第17話『純愛のハジマリ』【後編】――『有象無象の視線もただの燃料。世界をジャックするための冷徹な計算』で会おうね⭐︎」
「次回は、れんがもっともっと頑張るから!いっぱい見ててね?」
ひより
「……皆さん。」
「次回から恋ちゃんの『可愛い』が、少し怖くなるかもしれません。」
恋
「え?」
ひより
「なんでもありません。」
恋
「おつれん〜っ⭐︎」
ひより
「おつれんです。」
――ピッ。
再びカメラのランプが完全に消える。
恋は最後まで笑顔だった。
その笑顔の奥で――。
小さく、ハートの瞳が揺れていた。




