第10話【楽屋裏トーク】
――ピッ、と配信終了のランプが消え、ギルド訓練場に静寂が戻る。
モスト:「フゥ……ッ!! 今日の重力トレーニングも実に素晴らしかった!
いやぁ、ギルドの最新設備には毎度驚かされるな! あれほど大腿四頭筋が喜んだスクワットは久しぶりだ!」
モストは満足そうに脚を軽く叩きながら、特大サイズのプロテインをゴクリと飲み干す。
――その瞬間。
「違います。」
後ろから、聞き慣れた落ち着いた声が響いた。
振り返ると、受付嬢ひよりが一枚の調査報告書を片手に、少し呆れたような笑みを浮かべて立っていた。
モスト:「おお、ひより嬢! 今日の最新訓練設備は実に見事だったな!」
受付嬢ひより:「だから違いますって。」
モスト:「……む?」
受付嬢ひより:「解析班の調査結果が出ました。」
ひよりは報告書を軽く持ち上げる。
受付嬢ひより:「今日の超重力現象。
ギルドの設備でも、ダンジョンの罠でもありません。」
モスト:「ほう?」
受付嬢ひより:「同じ時間に二階を配信しながら歩いていた女性配信者さんの固有スキルでした。」
モスト:「…………。」
受付嬢ひより:「恋愛感情が高まるほど周囲の重力が増す能力だそうです。」
モスト:「…………。」
受付嬢ひより:「つまりモストさんは、女の子の恋愛スキルを見事なスクワットメニューだと思って全力で楽しんでいました。」
数秒間、控室に静寂が流れる。
やがてモストは腕を組み、真剣な表情で一度だけ頷いた。
モスト:「なるほど。」
受付嬢ひより:「理解していただけました?」
モスト:「つまり――。」
モストは爽やかな笑顔で白い歯を輝かせた。
モスト:「恋とは、大腿四頭筋を鍛えるものだったのだな!」
受付嬢ひより:「違います。」
モスト:「違うのか。」
受付嬢ひより:「違います。」
モスト:「そうか……実に奥深い。」
受付嬢ひより:「全然分かってませんよね?」
控室の外から、そのやり取りを聞いていた若手冒険者たちの笑い声が漏れ聞こえる。
「教官、最後まで教官だったな……。」
「兄貴、本当に天然なんだな……。」
その笑い声を聞いたモストは、嬉しそうに大きく頷いた。
モスト:「ガイズ!
今日も最後まで見届けてくれてありがとう!
重力にも負けず、心にも負けず、明日も元気に筋肉を鍛えよう!
そして若き冒険者たちよ。
どんなに苦しい負荷が来ても、一人で抱え込まず、仲間と共に乗り越えるんだ!」
受付嬢ひより:「皆さんも本日も応援ありがとうございました!
……あと、モストさん。
次にその配信者さんと遭遇したら、今度はスクワットを始める前に私を呼んでくださいね?」
モスト:「もちろんだ!
事前にウォーミングアップも済ませておこう!」
受付嬢ひより:「そういう意味じゃないんですけどね……。それでは皆さん次回新・第11話『慈愛の重戦車、消える』【前編】:『悪意ある切り抜きと大炎上。俺が居なくても、世界は大丈夫なんだ』でまたお会いしましょう。」
今日も受付嬢ひよりの小さなため息が、ギルドの控室へ静かに響くのだった。
ひより
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