新・第10話『その男、特別教官』【後編】:『最新の訓練設備!?階上から降ってきた無自覚な激重重力』
――ミシ、ミシミシミシッ!!!
それは、突如として広場を襲った、目に見えない漆黒の圧力だった。
さっきまでモストの熱い説教に涙を流していた
【シャイニング・スターズ】の若手たちが、唐突に「ぶふっ!?」とカエルの潰れたような悲鳴を上げてその場に頽れた。
「な、なんだこれ……っ!? 体が、地面に吸い付くみたいに……っ!」
「重い、重すぎる……ッ! 息が、できない……っ!!」
骨がきしむほどの超重力。装備している鎧や武器が自重でひび割れ、若手たちは床にペシャンと完全に押し潰されて身動きが取れなくなる。
彼らのカメラドローンも「警告、環境重力の異常上昇」と電子音を鳴らし、出力不足で床へと墜落していった。
想定外の天変地異に、世界中のギルドの大画面を見つめるリスナーたちもパニックに陥る。
『おいおいなんだこれ!? 罠か!? イレギュラーのボスか!?』
『若手たちがガチで潰されかけてるぞ!!』
『ちょっと待て、さっきのマルチウィンドウの画面(れん側)見てみろ!!』
そう、この超重力の原因は魔物でも罠でもない。 遥か頭上の回廊を、スマホを弄りながら優雅に歩いている地雷系ギャル――れんちゃんの脳内妄想が最大風速に達した結果だった。
「れんね、みんなが他の配信見たら、そのスマホを粉々に潰しちゃうぞ⭐︎」
恋心が昂るほど周囲の重力を何百倍にも跳ね上げる、彼女の固有スキル【純愛過剰負荷】
本人はただの可愛いファンサ(ヤンデレ風)のつもりだが、その無自覚な激重オーラのドームが、階下の広場を完全に飲み込んでいたのだ。
若手たちが絶望に白目を剥きかける中。 この異常空間のただ中で、たった一人だけ、全く違う反応を示している男がいた。
「おおおおおおお……ッ!! なんという、なんという素晴らしい『負荷(負荷)』だ……ッ!!」
モストである。
195センチの巨躯に数百倍の重力がズドンと圧し掛かった瞬間、彼の黒光りする肉体がパキパキと歓喜の音を立てて波打った。
モストは潰されるどころか、むしろ顔面を真っ赤に紅潮させ、見たこともないほどの至高の恍惚とした笑顔を浮かべたのだ。
「ガイズ! 見なさい! ギルドの粋な計らいだ! 授業に退屈した我々のために、ダンジョンのシステムが最高級のウエイトトレーニング環境(超重力)を処方してくれたぞ!!」
『処方してくれたぞ(大勘違い)』
『違う、それ上にいるれんたんのスキルやwww』『この重力の中で笑顔で喋ってんの兄貴だけだよ!!ww』
『若手たちが死にかけてるから助けてやってくれww』
「ふんぬぅぅぅうううっ……!!」
モストは若手たちの前に立ちはだかり、彼らにかかる圧力をその巨大な背中で遮るようにして、ゆっくりと膝を曲げた。
固有スキル【絶対筋肉障壁】をアクティブ発動――
完璧なフォームでの『超重力フルスクワット』の開始である。
――ズ、ズズズズズッ!!!
モストが腰を落とすたびに、彼の足元の石畳が数センチ単位でメキメキと陥没していく。重力魔法を筋肉の質量だけで真っ正面から受け止め、強引に相殺しているのだ。
「いいかガイズ! 負荷が強ければ強いほど、大腿四頭筋は喜ぶ! 諦めるな、この重力を愛するんだ!!」
「む、無理です教官んんんんん!!」
モストが大真面目にスクワットを3レップ、4レップと刻むたびに、広場には衝撃波が吹き荒れる。
その様子はモスト側のドローン(床に墜落しながらも執念でモストを映している)を通して世界中に生配信され、コメント欄は笑いと畏怖の弾幕で画面が見えなくなるほどの爆発を見せていた。
『重力魔法をスクワットで筋トレに変える男、世界に一人だけだろww』
『慈愛の重戦車』
『れんたんの「激重な愛」を、ウエイトトレーニング感覚で消費するなww』
◇
その頃、2階の回廊。
「あーあ、今日もみんなとのお散歩、楽しかったな〜⭐︎」
れんちゃんはスマホの画面に流れる「れんたん今日も激重で最高!」「画面がミシミシ言ってるww」というガチ恋勢のコメントに満足そうに微笑み、髪をくるくると指で弄っていた。
彼女は自分のスキルが階下でどんな大惨事(大筋トレ)を引き起こしていたのか、最後まで1ミリも気づかなかった。
「それじゃあみんな、また次の配信でね! ばいばーい!」
れんちゃんが配信終了のボタンをタップした瞬間、彼女の脳内の激重妄想が解け、広場を包んでいた超重力ドームが、すぅっと嘘のように霧散していった。
◇
「……おや?」
突如として元の重力に戻った広場で、モストがスクワットの途中でピタリと動きを止めた。
「終わってしまったか。もっとやりたかったのだが……。やはりギルドの特別配備した最新の訓練システムだったようだな! ナイスバルクな演出に感謝しよう!」
本人は最後まで、上を歩いていた地雷系ギャルの存在にも気づかず、大真面目にギルドの最新設備だと勘違いしていた。
床にのびていた若手たちは、重力から解放されて「助かった……」と涙目で酸素を貪り吸っている。
『設備じゃねえよwww』
『れんたんが配信切ったから重力消えただけなのにww』
『天然ギャグのレベルが高すぎる』
『でも兄貴が重力を全部背中で受けてくれたから若手は無傷なんだよな。やっぱり聖人だわ』
『スパチャ¥50,000:最高のスクワット講義だったぜ!!』
モストは乱れた予備のタンクトップを軽く整え(今回は破けずに済んだ)、カメラドローンに向かって爽やかに微笑んだ。
「よし、ハプニング(トレーニング)もあったが、今日の講義はここまでだ! ガイズ、私の筋肉に付き合ってくれて感謝する! それでは最後に、世界中の皆の健康と、若き筋肉たちの輝かしい明日に祈りを込めて――」
モストが大きく息を吸い込み、再び両腕を胸の前で深く交差させた。 世界中の視聴者が待ち望んでいた、至高の締めくくり。
「――グッドバイガイズ! また次回の配信で会おう!! モーストォォ・マスキュラァァァアアップ!!!」
――バシィィィィィンッ!!!
全身の全筋肉を極限まで収縮させ、血管を引き千切れんばかりに浮き立たせる、究極の『モストマスキュラーポーズ』。
彼の漲るオーラと筋肉の圧があまりにも強烈すぎて、墜落から復帰したばかりの随行ドローンのカメラレンズに「ピキッ」とリアルな亀裂が走る。
その瞬間、世界中のギルドの酒場は爆笑と大歓声に包まれ、配信画面のコメント欄は文字通り画面を埋め尽くす速度で乱舞した。
『キタアアアアア! レンズ割れたすかるwww』
『挨拶の圧でカメラ壊す様式美ww』
『グッドバイガイズ! ナイスバルク!!』
『若手たち、明日からも生き残れよ!!ww』
カメラにヒビを入れ、世界中に筋肉の祈りを届けたところで、配信画面はブツリと暗転した。
世界リアルタイム視聴者数第1位。
大画面の中央で誰よりも陽気に、真面目に若手を導いたその男は、最強であり――そして、最後までお隣の規格外ギャル(れん)の存在に気づかない、どこまでもピントのズレた『慈愛の重戦車』だった。
「続きを読みたい!」と思ってくれた君!
その気持ち、ブックマークで俺に届けてくれ!
「面白かった!」「続きが気になる!」
そう思ってくれたら【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に!
君の一票が、私の物語をもっと強くする!
感想も大歓迎だ!
さあ、一緒に筋肉を鍛えよう!!




