新・第8話【慈愛の重戦車(グランド・マッチョ)】【後編】:『「画面を見るな、現実を見ろ」――親友を亡くした男の魂の説教』
「グルゥァァァァッ!!」
仲間を一瞬で粉砕されたデス・ウルフの群れが、本能的な恐怖を獰猛な咆哮でかき消しながら、一斉にモストへと襲いかかった。前後左右、死角なしの同時襲撃。 しかし、モストは腰を落とし、ただ不敵に笑った。
「ガイズ、ウエイトトレーニングの基本は、全方位からの負荷を均等に受けることだ!」
「――バック・ダブル・バイセップスッ!!」
キィィィンッ!!!
と大気が激しく震える。 背中全体のバルクと力こぶを強調するそのポーズのまま、魔物の攻撃を『広背筋と上腕三頭筋』で真っ正面から受け止めた。固有スキル【絶対筋肉障壁】が白銀に輝き、強酸は彼の皮膚に触れた瞬間にただの水蒸気となって蒸発し、数千の矢は木っ端微塵に弾き返される。 空間に浮かび上がるホログラムのコメント欄が、一瞬にして地上のリスナーたちの怒涛の掛け声で大爆発を起こした!
『背中がメロン畑になってるぞおおおおお!!!』
『背中に血管の川が流れてる!!!』
『クリスマスツリーが見える!!! 彫刻かよお兄さん!!!』
『後ろ姿がもう城壁!!! ナーーーイスバァァァルク!!!』
デスウルフ達の猛攻は終わらない。
「無駄だガイズ! 筋肉の収縮に、終わりはなぁぁぁいッ!!」 モストは一歩も退かない。敵の連続攻撃の軌道を見切り、打撃が着弾するコンマ数秒の刹那に、次々とポージングを切り替えていく。
モストは腹筋と脚を極限まで引き締めて魅せる。
「――アブドミナル・アンド・サイッ!!」
ガギィィィンッ!!! と噛みつこうと飛びかかった一匹のデスウルフがキャンと鳴きながら弾かれる。
『腹筋が板チョコ!!! 腹筋でチョコ配れるよ!!!』
『シックスパックがバキバキすぎる!!!』
『大腿四頭筋が怒涛のバルク!!!』
『脚! 脚のカットが深すぎるよお兄さん!!!』
間髪入れず次のデスウルフが飛びかかる。
「――サイド・チェストッ!!」
ズドォォォンッ!!!
と衝撃音が響き、デスウルフの牙が砕ける!
『サイドチェストの厚みが世界遺産レベル!!!』
『肩にちっちゃい重戦車乗せてんのかい!!!』
『大胸筋が弾丸を弾くぞおおおおお!!!』
『キレてる!!! どこを見てもキレまくってる!!!』
デスウルフ達がモストのポージングに怯えるように身を寄せ合っている。
「仕上げは……ワン・モア・セット!!」
モストが大きく踏み込み、残った数匹の真ん中で地面に向けて拳を叩きつけた。
魔術ではない。ただの純粋な筋肉の質量がもたらす『グラウンド・スラム』。
――ズガァァァァァンッ!!!
通路の石畳が爆発したように跳ね上がり、凄まじい土煙が広場を包み込む。土煙が晴れたときには、あれほど獰猛だった魔物の群れは一匹残らず更地へと変えられていた。
傷一つない黒光りする巨躯が、静かに立ち上がる。世界1位の圧倒的な『本物の戦闘力』。
モストが大きく踏み込み、残った数匹の真ん中で地面に向けて拳を叩きつけた。
魔術ではない。ただの純粋な筋肉の質量がもたらす『グラウンド・スラム』。
――ズガァァァァァンッ!!!
通路の石畳が爆発したように跳ね上がり、凄まじい土煙が広場を包み込む。土煙が晴れたときには、あれほど獰猛だった魔物の群れは一匹残らず更地へと変えられていた。
傷一つない黒光りする巨躯が、静かに立ち上がる。世界1位の圧倒的な『本物の戦闘力』。
『うおおおおお! 異次元すぎるだろ!!』
『ポージングだけでBランクの群れが消滅したwww』
『これが……これが「慈愛の重戦車」のガチギレか……っ!』
『スパチャ¥100,000:兄貴マジで一生ついていきます!!!』
シャイニング・スターズのカメラドローンから流れる生放送のコメント欄は、世界中の視聴者たちの驚愕と大歓声で狂ったように埋め尽くされていた。
「ひ、ひとりで、一瞬で……」
血塗れの少年リーダーが、呆然と呟く。彼らのドローンが「ツーショット」を狙うようにモストの顔へ近づいてきた。
少年は救われた安堵から、未だに麻痺している頭で、いつもの癖のようにカメラへ向かって笑おうとした。「あ、あの……みんな! 世界1位のモストさんが助けに――」
だが、その言葉は続かなかった。
モストが大きな手で、少年のカメラドローンを遮るように、そっと視界から外したからだ。
モストは少年の前に膝をつき、目線を合わせると、どこまでも真剣で、どこまでも悲しい瞳で静かに語りかけた。
「少年。カメラの向こうの数百万人は、君たちがここで死んでも、明日の朝には別の娯楽を探して笑っている。君たちのために涙を流し、本気で悲しんでくれる人は、画面の向こうには一人もいないんだ」
「え……っ」
「かつて、私の本当に大切な友人がいた。彼は地道で、とても優秀な冒険者だった。だが、配信の数字に目を奪われ、自分の身の丈に合わない大きな剣を、ただ『画面映えするから』という理由で振り回し……魔物に退路を断たれて命を落とした」
モストの大きな手が、少年の血に塗れた肩をギュッと、温かく包み込む。
「私はね、あの時画面の向こうで親友が死んでいくのを、ただ見ていることしかできなかった。……もう二度と、あんな悲しい画面は見たくないんだよ」「あ……」
「だから、お願いだ。画面を見るな。数字を見るな。目の前の現実(魔物)を見なさい。君たちの命は、世界にたった一つしかない。カメラのために命を捨てるな。生きて、大切な人の元へ帰るんだ」
大真面目で、底抜けた慈愛に満ちたモストの言葉。そこには、親友を失った男の魂の痛みが、生々しく宿っていた。
少年リーダーは返す言葉を失い、ボロボロと大粒の涙を溢れさせてモストの胸に顔を埋めた。
そして、その様子をリアルタイムで映し出していた配信のコメント欄も、いつものお祭り騒ぎが嘘のように、静まり返っていた。
『……兄貴の言葉が、重すぎる』
『自分も煽りコメント打ってた。本当に申し訳ない』『これ生放送で流していいやつか? 涙が止まらねえよ』
『映えばかり気にしてた最近の冒険者全員に聞かせたい言葉だわ』
◇
無事にシャイニング・スターズの全員を担ぎ、ギルドへと帰還したモスト。
東京本部のエントランスに入った瞬間、彼を待っていたのは、ギルドの最高責任者や幹部、そして深刻な顔をした職員たちの列だった。彼らは一様に、モストに向かって深く頭を下げた。
「モストさん。今日のあなたの言葉、そして救出劇、すべてギルドの公式モニターで拝見させていただきました。……本当に、恥ずかしい限りです」
ギルド長が、悔しそうに拳を握りしめて唇を噛む。
「ギルドが配信を推奨し、数字を煽った結果、最近の若手は『カメラの前で目立つこと』ばかりを意識し、基礎的な戦闘技術も、生存能力も、著しく低下してしまっている。このままでは、第二、第三の悲劇が起きるだけだ」
ギルド長は顔を上げ、引き締まった表情で、一枚の金色に輝く特製の『バッジ』をモストに差し出した。そこには、ギルド最高職の証である教官章が刻まれている。
「お願いです、『慈愛の重戦車』。公的配信として、世界中の若手冒険者たちの根性を叩き直す『特別教官』になっていただけないでしょうか! 彼らに、本当の戦い方と、命の重さを教えてやってほしいのです!」
世界中のギルドの巨大スクリーンが、今まさにその様子を映し出している。
モストは差し出された黄金のバッジを見つめ、少しだけ驚いたように目を見開いた後――すぐに、いつもの陽気で澄んだ笑顔を取り戻し、白い歯をキラリと輝かせた。
「未来のナイスバルクたちを救うためなら、喜んで! 私の筋肉も、彼らを鍛えたくてウズウズしているからな! よし、明日から地獄のマッスルキャンプの始まりだ!!」
『教官モストキタアアアアア!!』
『【速報】若手冒険者、明日から筋肉の地獄(天国)へ入隊確定ww』
『兄貴なら間違いない! 頼みます教官!!』
『地獄のマッスルキャンプwww生き残れる奴いるのか?ww』
ギルドの大画面が、世界中のリスナーたちの期待と熱狂のコメントで再び大爆発を起こす。
こうして、世界最強のソロ配信者モストは、若き才能たちを導く『特別教官』へと就任した。
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さあ、一緒に筋肉を鍛えよう!!




