第六話 前半 『出来損ない』のヒーロー
大幅に改稿しました2026/07/10
連続投稿の三個目です。
「救われたいとは思わない?」
木々の隙間から刺す木漏れ日が、落ちたナイフを照らした。ナギリはレイの腕を掴んだまま離さない。ぬかるむ土に足を取られる。
「なんなんだよ、お前」
赤い瞳が、確かにこちらを捉える。
思わず喉が鳴る。
「俺の名前はナギリ。俺は探し物をしててね、アンタ……」
不意に視線を上げるナギリ。赤い瞳が揺れる。
腕に込められる力が大きくなる。
「……アンタ、後ろの男とは知り合いなの?」
「え?」
レイは反射的に振り返る。誰もいない。
……その瞬間。
ガサァァ!!
頭上の枝が大きく揺れた。
激しい音を立てて木の上から何かが降って来た。
木の葉と共に落ちてくる。土まみれの身体。
陽色の髪に、陽色の瞳をした男。
「あ……」
男は、一歩。
また一歩と歩き出す。
ばつが悪そうに頭をかく。
「えへへ。見つかっちゃった」
「心配で……」
「はぁ?」
思わず声が漏れるレイ。ヒイロは前に進む。レイの肩がピクッと動く。ヒイロは歩き続けレイの腕を掴むナギリの手首をがしりと掴んだ。
「とりあえず、この腕離せよ」
ヒイロを睨みつけながら手を離すナギリ。その赤い瞳は先ほどとは違い、冷たい光が宿っていた。
「なんで、アンタがここにいる」
低く、唸るような声。
「……?君、俺のこと知ってるのか?」
「はぁ?もしかして、忘れたなんて言うつもり?」
「……ごめん、忘れた」
その返事にナギリの動きが一瞬止まる。白けたような瞳を向けた。
「あぁそう。俺は覚えてるけどね」
ナギリはヒイロの手を振り払う。
ゆっくりと口角だけが上がった。
「『出来損ない』のヒーローさん」
(出来損ない……?)
レイは思わずヒイロを見る。
ヒイロは笑っている。
「そうだ!俺はヒーローだ!」
キラリと眩しい笑顔を見せるヒイロ。思わず首を逸らすレイ。森が静まり返る。さっきまで鳴いていた鳥の声が、いつの間にか消えていた。目を細めてヒイロを見るナギリ。
「……アンタ、そんなバカな感じだったっけ?なんかこう、もっと血が通ってない感じの、そんな」
何か呟いているナギリの言葉が聞こえないくらいに声を張るヒイロ。
「こんな森に1人でいたら危ないぞ!」
「2人とも俺と一緒に行動しよう!!」
「「はぁ?」」
思わずレイはナギリと目を合わせてしまう。ナギリの顔にも困惑の表情が浮かんでいた。……いきなり心中を提案してくる頭のおかしい白髪と、ヒーローを自称しながら急に首を絞めてきた頭のおかしいオレンジ頭を交互に見る。
(……逃げるか)
レイは身を低く沈め、地面に落ちたナイフを拾う。
「アンタさっきから何ふざけてんだ?」
「とっとと俺かそこの女の子殺してみろよ!ずっとそうやって来たんだろ!?」
段々と声が大きくなるナギリ。
「なんなんだ今更……」
ヒイロはナギリの口を手で塞ぎ、もう片方の手の人差し指を立てて、自らの口に近づける。優しく、静かに微笑むヒイロ。
ゾワリ。
レイの背筋に震えが走る。首筋に垂れる汗を妙に意識してしまう。
(今の、今のうちに)
(走って逃げ切れるのか?この男から)
チラリとヒイロの瞳がこちらを捉える。
ナギリはその隙を見逃さなかった。素早く後ろに仰け反る。
「チッ……『鏡』は諦めるか……!」
(『鏡』……?まさか)
桃色の長い髪の毛が揺れる。ナギリは後ろに重心をかけたまま、片腕を前に突き出す。
その手には、火の着いたマッチ。そのまま地面にそれを落とす。
ブワリと草に炎が広がる。
「危ない!」
ヒイロはレイを抱えて飛び出す。
燃える草木のなか、白色の髪をした男の姿が消えるのが見えた。
「………」
(鏡……あいつ何か知っているのか?)
いや、それよりも今。
(この男と2人になっちまった!)
自分を抱えながら走るヒイロは頬を掻きながらこちらに目を向ける。後ろから燃え広がる緋色の炎の熱が気にならないほどに寒気がする。
「本当は見守るだけだった……」
「けど」
ニコッと笑う。
「上手くいかないね!」
載せてみたら思ったよりも短くてびっくりしました。




