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第三話 ぐるぐるメガネ、何が増えてる?

「――私が殺しました」


 その言葉の意味を脳が処理しきるより早く、長髪の男が床へと何かを叩きつけた。

 激しい破裂音とともに、ブワリと濃密な白煙が巻き起こる。


「っ!? ゲホッ、ゲホッ……!」


 不意を突かれ、激しく咳き込む。

(なんだこれ……毒!? それとも目眩まし――)

 鋭い痛みが目を襲い、強烈な蒸気が容赦なく肌を刺した。

 バキンッ!

 バキンッ、バキンッ!!

 煙の奥から、何かが硬質に割れる不気味な音が連続して響き渡る。

「おい! なんだこれ、前が全然見えねえぞ!?」

 視界を奪われたヒイロの焦燥に満ちた声が聞こえる。


「おい、メガネ! 無事か!?」

「オレは……だいじょ、うぶ……っ」


 バキィンッ――!!!

 その瞬間、それまでとは比べ物にならないほど不快な高音が、鼓膜を直接突き刺した。

 周囲の空気がビリビリと怪しく震え、一瞬だけ視界が真っ白に爆ぜる。

 レイはあまりの激痛に思わず耳を塞ぎ、その場にうずくまった。

(な、んだ……? 頭が、割れる……!)

 痛い。

 痛い。

 何も考えられない。

 それでも

 無理やり目を開いた。

 数歩先で、ヒイロが視界を遮られてもがいている。

 そしてそのさらに奥――。

 紫色の髪。

 吸い込まれそうな黄色い瞳。

 汚れ一つない白い衣服。

 その長い裾の隙間から、キラリと何かが妖しく光った。

(あいつは……? うっ、頭が……!)

 痛む頭を押さえ、さらに目を凝らす。

(鏡……? なんで、そんなものが……)

 ドクン、と。

 心臓が、跳ねるように強く脈打った。

 嫌な冷や汗が全身から噴き出し、指先からじわじわと感覚が痺れていく。

 うまく空気が吸えない。

(意識が……薄れる……)

 成す術もなく、レイの意識は暗転した。


 ◇

「…い!……おい!おいメガネ!!」


 体をゆさゆさと揺らされ、目を覚ます。

 あれ、オレは……。生きてるのか?さっきの男は?

 頭がまだぼんやりとする。


「起きたか!」


 ヒイロの声が頭に響く。

 その表情はやけに焦っている。


「あ、あぁ一体何が起き……?」


 自分の声に違和感を覚え、喉を抑える。

 なんだ?

 やけに高い。

 さっきの薬品にやられたか?

 だが、別に痛いわけじゃない。

 というか、なんだか体が軽い。


「メガネ!大変だ!!」


 ガシリと肩を掴むヒイロ。

 少し力が強くて痛みを感じる。 


「どうした?」


 ヒイロは一度ゴクリと唾を飲み込む。

 そして真剣にこちらを見つめ、

 オレの体を指差すヒイロ。

 ヒイロの指先を追いかける。

 視線の先。

 見覚えのない膨らみが、服を押し上げていた。


「?」


 ガバッと立ち上がり全身を確認する。

 ……あるはずのものがなくなってる。 


「は?」

「いや、はぁ!?」


 もう一度確認する。

 だが、ない。

 そして、ある。


「待て」

「待て待て待て」

「待って?」

「なんで?」


 自分の体を触ってみる。感覚がある。確かに自分の体だ。次に胸を触ってみる。知らない。オレの体にはこんなふにふにの感触のものは付いていない。


「お、落ち着けメガネ」

「落ち着いてられるか!どういうことだよ!?」


 まさか、そんなわけあるはずがない。あるはずがない!


「なんで、オレ……」


 震える声。自分の喉から出ているとは思えない。


「なんで」

「なんでオレが」

「女になってんだ……?」

元々二話と三話分裂させるつもりなかったので今回文章量少なめです。

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