表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

第二話  もう一回言ってくれ

「いいぞ!」


 元気よく答えるヒイロ。


「はは。そうだよな」


 レイはナイフを握り直した。


「じゃあ悪いけど、力ずくで……ん?」


 少しして違和感に気がつく。


「お前今なんて…」


「別に売ってもいいぞって言った!」


「……は?」


 開いた口が塞がらない。


「困ってるんだろ?」


 ヒイロはひょいっとレイの手からナイフを抜き取った。


「あっ」

「脅さなくても俺は君を助けてあげるよ!だって俺は――」

「いやいやいや待ておかしいだろ」

「何が?」


(なんなんだこの男は!)

 まるで理解できない。

 会ったばかりの人間のために売られてやる?

 何を考えているんだ。

 困惑するレイに優しく笑顔を向けるヒイロ。


「メガネは、俺にどうして欲しいんだ?」


 ナイフの持ち手をレイに差し出す。

 ゴクリと唾を飲み込む。

(……そうだ。オレには金がいる)

 透き通る橙の瞳が真っ直ぐとこちらを見つめてくる。

(迷う必要なんてない!)

 レイはナイフを受け取ろうと手を伸ばした。

 その瞬間。

 ガツンッ。

 頭に割れるような痛みが走った。


「がっ……!?」


 鈍い痛みと共に急に視界がぐにゃりと歪む。

(なっ何が) 


「命中したぞ!」


 遠くの方から聞こえる声。

(なんだ?)

(石かなんか投げられたのか……?まずい、意識が……!)


「偵察隊がやられてる!気をつけろ!!」 


 先ほどの声たちの叫び声が聞こえる。ヒイロが何か自分に声をかけている。聞こえない。薄れゆく意識の中、自分に剣先が向けられる気配を感じた。

(くそっ……オレは、)

(オレは!……)



 ◇

「……う、っつ……」


 頭を突き刺す痛みに、レイは顔をしかめた。カビ臭い空気。肌を刺す湿気。ゆっくりと目を開けると、そこは荒削りの岩肌に囲まれた、薄暗い洞窟のようだった。あちこちに酒瓶や剥ぎ取った荷物が散乱している。両手は後ろに回され、太いロープで不格好に縛られている。

(最悪だ……。完全に捕まった……) 


「お! 起きた!」


 すぐ隣から、場違いなほどやたらと元気な声が響いた。


「良かった!無事だったんだな!」


 見れば、同じようにロープでこれでもかとぐるぐる巻きにされたヒイロが、ホッとしたようにレイを見ていた。

(無事ではねぇけど)

(コイツも捕まってたか)

 レイは深く深呼吸をする。

(さて、どうする?)

 周りを見渡す。

 金目のものはここには無さそうだ。

 それから、見張りが3人。

(あ、あいつ)

 先ほどいた山賊のうちの1人がいる。

 長い髪をくるくると指に巻いて暇そうにしている。

 コイツは戦闘に参加せず傍観していたのを覚えている。

 ヒイロに捕らえられる時も大人しくしていた。

(おそらく戦闘向きの固有魔法じゃねぇな)

 バリバリッ。

 粗末な木製の扉が蹴破られた。


「おい、目が覚めたか?」


 先程斧を振り回していた大男が顎を触りながら現れる。


「お前らには借りを返さなくっちゃなぁ」


 そう言ってヒイロの前髪を掴み、顔を無理やり上げさせる。


「借り?…あぁ。俺が助けてなかったら死んでたもんね」


 ニコリと笑って続ける。


「お前は感謝しないとな?俺に」

「このクソガキッーー」


 大男はヒイロに殴り掛かろうとする。


「まてまてコイツは売り物だぞ」


 が、見張りの男たちに止められる。


「別にこんな男に殴られた所で……」


 チラリとヒイロは男の顔を見る。


「あ!ごめん」

「……ッッ!!!!」


 ヒイロに掴み掛かろうとする大男を見張りの男たちが必死で制止している。

 レイはジリジリと体の力を使って後ろに後退し始める。

(今のうちに…!)

 さらに後退を続け、岩壁に着く。

 背中越しに岩肌を探る。

(……見つけた)

 ガリッ。

 レイは手首の縄を壁から飛び出た岩に擦り付ける。

 バレないよう、慎重に。

(まだ大丈夫だ)

「離せぇぇ!!」「このガキ!!」

 怒号はまだレイの方へ向いていない。

 プチリッ。

 手首が自由になる。

 レイは靴の裏に隠していたナイフを取り出す。

(……せっかくアジトまで来れたんだ)

 ニヤリ。

 口角が上がる。

(逃げるだけなんてもったいねぇ)

 レイは床を蹴った。怒号に紛れ、一番反応の遅かった長髪の男の背後へ滑り込む。ナイフを首元に押し当てた。 


「動くな」


 その場にいた全員の視線がレイに集まる。


「財宝のありかを教えろ」

「…はぁ?」

「メガネ!?お前、まず逃げろよ!!」


 思わず叫ぶヒイロ。


「嫌だね」

「おい、ヒーロー君。提案がある」


 レイは長髪の腰から短剣を取り出してヒイロの近くの床に投げつける。


「報酬はやる」

「オレを助けろ」

「山賊全員ぶっ倒せ」


 一瞬。 

 ヒイロは目を丸くした。

 次の瞬間。

 太陽みたいな笑顔を浮かべた。


「了解だ!」


 ◇


「誰がさせるかぁ!」

 大男の怒号が洞窟を震わせる。ヒイロの襟髪を掴み、そのまま岩壁に叩きつけんとする太い腕。だが、ヒイロは怯まない。全力で上体をのけぞらせ、バネのように引き絞った。

  ——ガチィンッ!

 渾身の頭突きが、大男の顎を正確に撃ち抜く。 


  「がはっ……!?」


  脳を揺らされた大男の巨躯が、不格好に揺らいだ。

 その隙をヒイロは見逃さない。床に転がりながら、短剣に噛みつく。首を鋭く振って、足首を縛る縄を一閃。 


「ヨッと」


 ひらりと跳ね起き、自由になった両足をプラプラと振る。その顔には、相変わらずの不敵な笑みが浮かんでいた。


  「『身体強化フィジカルバースト』ぉぉぉ!!」


 激昂した大男が吠える。メキメキ、バキバキと、骨肉が異常な速度で膨張していく。ひと回りもふた回りも巨大化した肉体から放たれるプレッシャーに、洞窟の地面が悲鳴を上げてひび割れた。


「わぁ、派手な固有魔法だな!」


 ヒイロは感心したように目を丸くする。しかし、すぐにうーんと首を傾げる。


「でも……やっぱ俺の方が強いかも」


 地を蹴る足に、限界まで力を込める。


  「ぶっ殺すッ!」


 大男が巨大な斧を構え、迎え撃つ構えをとる。その風圧だけで肌が切れそうだ。

 次の瞬間、ヒイロの姿が消えた。

 人の背丈を軽々と超え、垂直に跳躍。

 目指すは

 ーー洞窟の天井。

 逆さまの状態で、岩肌に両足を完璧に叩きつける。

 ドンッ!

 天井が爆ぜ、パラパラと岩屑が舞う。溜めたエネルギーを一気に解放。重力を置き去りにしたヒイロは、真下へ急降下した。大男が上を見上げた時には、すでに遅い。

 ――カッ、と。

  衝撃が洞窟の空気を吹き飛ばした。 天井蹴りの加速をすべて乗せた、容赦のない急降下。それが大男の脳天にクリーンヒットする。

 ズガァァァンッッ!!!

  凄まじい轟音と共に、大男の巨体が地面に陥没し、そのまま消し飛ぶように後方へと吹っ飛んでいった。岩壁に激突し、白目を剥いて完全に沈黙する。 


「…………」


  唖然とし、武器を握る手さえ震わせる見張りたち。 ヒイロは着地の衝撃を軽やかにいなし、またニコリと笑う。


  「次は……お前らの番な!」


 ◇

「もう人質いらねぇか」

「全員倒すもんな」


 そう言ってレイはナイフを持つ手に力を入れる。


「ヒッ……ヒィッ」


 情けない声を上げる長髪。

「お、教えます!財宝の隠し場所」

「だから殺さないで!!」

「よし、さっさと教えてくれ」


 ズガァァァン!!

 洞窟が揺れる。ヒイロが暴れ回っているのが見える。レイは怪訝な顔をする。

(……おかしい)

(こんだけ騒いでるのになんで誰もこの部屋に入ってこないんだ?)


「ーーあのぉ聞いてますか?」

「おい、お前ら以外の山賊はどこに居る」

「そ、それは…」


 長髪の男は口をモゴモゴと動かし、視線を床へと落とした。その目が、先ほどまでの恐怖とは違う、どこか焦点の合わない混濁した光を帯び始める。


「早く答えろ」

「す、すすみません!」


 長髪は俯いた。震えるように指が動く。また、長い髪をくるくると弄った。  


「あの……れました」


 ボソリと呟く。 


「あ?なんて?」


 レイは耳を近づける。

 長髪はもう一度口を開く。 


「全員、やられました」

「は?何言って…」


 いや、ここで嘘をつく必要なんてない。


「……誰に?」


 くる、くる。

 段々と指の動きがゆっくりになる。

 そして、ピタリ。


「……私です」

「は?」

「全員、私が殺しました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ