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第94話

ノックされる。

執務室で書類を見ていたムイフレスは入る許可を出すと、隊員が入ってきた。

「何だ?」

隊員は敬礼する。

「竜人族の隊長殿に質問がありまして」

ムイフレスは眉を寄せる。

「業務が終わってからにしろ」

「いえその。警備兵からの報告なのですが、その。手錠のような腕輪を所持していた男性を捕らえたようなのですが、取り調べでその男性が言うには、竜人族へのプロボーズのための腕輪だと。警備兵に竜人族がいないので、騎士団に確認がきまして」

ソファーで絵本を読んでいたトトトゥーナは顔を上げる。

「その人可哀想なの。竜人族は確かに手錠をモチーフにした腕輪を贈るの」

隊員はムイフレスに目を戻す。

「そうでありますか?」

「そうだ」

「ムイが行った方がいいんじゃないの? 」

ムイフレスは隊員に目をやる。

「俺が言った方が話が通じるか?」

「そうして頂ければ幸いです」

ムイフレスは息を吐くのだった。


竜人族にプロボーズしようと考えていたのは、男姿のキリーベルだった。

最初トトトゥーナは気がつかなかったが、ムイフレスがキリーベルの名前を呼んだことで気がついた。

「今日は男装なの?」

「今日ぐらいは正装だと思ってね」

「身元言わなかったの?」

「信じてくれなくて。ほらアタシ、普段は女装しているから、どうやら新人はキリーベルは女性だと思っているみたいでね。で、どうしようかと思っていた所だったのよ」

トトトゥーナは黙って聞いていたが、その喋り方も怪しまれたのではないかと思った。

「出るぞ」

いつの間にか警備兵に話をしたムイフレスが声をかける。

「大丈夫なの?」

「ああ。心配することは何もない」

警備兵がキリーベルに手錠をモチーフにした腕輪を返す。

「新人が申し訳ありませんでした」

謝る隣に顔が真っ青になっているのは新人だろうか。

キリーベルは哀れみの目を向けた。

自分でも怪しかった自覚はある。手錠をモチーフにした腕輪を所持し、女口調で話す男。

それでも新人は、いくら怪しがろうが確認を怠った。

こちらが処罰を与えなくても、処罰は受けるだろう。

何せキリーベルは辺境伯の嫡男なのだから。

外に出ると、太陽の光が眩しい。

「ベルちゃん!」

強い衝撃を受けた。

「エリュシア?」

抱きついているエリュシアに、キリーベルは目を丸くする。

「どうしたのよ?」

「ベルちゃんが警備兵に連行されたと聞いたのであります! エリュ、エリュは、とても心配したのでありますよ!」

「ごめんなさい。でももう大丈夫よ」

顔を上げたエリュシアは涙を流していた。

キリーベルはエリュシアの涙を拭う。

「エリュシア。アタシと魂の儀式をしない?」

エリュシアは目を見開く。

「このままでいいと思ったとき、アタシは老けるなと思ったのよ。でもあなたはそのまま。アタシだけが老けていく。そう思ったとき。あなたと一緒に老けたいと思ったのよ。あなたとアタシは番じゃないけど、それでも番のように、なれないかしら?」

エリュシアは涙を流しながらにっこりと笑った。

「ベルちゃんとなら、番に負けないパートナーになれると思うのであります」

トトトゥーナは拍手した。

キリーベルとエリュシアは恥ずかしそうに笑うのだった。

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