第90話
「何だが胸騒ぎがするんだよ」
執務室に入ってくるなり、ギットレイドが胸元を押さえながら書類にサインをするムイフレスに口を開く。
ムイフレスはそうか、と興味がなさそうに答える。
「いやいや! “そうか”で片付けないで!」
ソファーで絵本を開いていたトトトゥーナは顔を上げる。
「どうしたの? 妹さんのことが心配なの?」
「そうなんだよね。妹のことが心配で心配でって違うから! 妹のこと心配だけど、妹のことじゃないから!」
「じゃあ家の鍵を閉めたか心配なの?」
「うんそうなんだよね。閉めたか自信なくてって違うから! こう魂が震えるんだよ!」
新しい書類に目を通していたムイフレスは、ギットレイドに目をやった。
「番はいなかったな。ならパートナーはいるか?」
「いないいない。私もフレスと同様番主義者だ」
「確認だ」
ギットレイドはくるくると回る。
「落ち着かないんだ!」
「落ち着け。番が関係しているんだろう」
「え!?」
「人身売買を摘発したらしい。人身売買していた商人はすでに捕まり、鉱山行きになっている。人身売買になっていたのは多くが子供だ。だが多くは親に売られた子供で、行き場がない」
「子供たちの中に私の番がいるのか!?」
机を叩くギットレイドに、ムイフレスは眉を寄せる。
「落ち着け」
「落ち着けられるかっ! 私の番がいるかもしれないんだそ!?」
「俺が何故落ち着けと言っているのか、少しは考えろ」
ギットレイドは深呼吸をする。
「すまない。もう大丈夫だ」
「多くは人族で番が分からない。そんな中興奮状態で会っても相手を怯えさせるだけだ」
「人族なのか?」
「中にはハーフエルフや人族と獣人のハーフもいるようだがな」
「会えないか?」
眉を下げるギットレイドをムイフレスは見る。
「落ち着いて判断できるか?」
「落ち着かない奴でもいたのか?」
「会わせた瞬間抱きついて、不安がっている人族の子供に恐怖を与えた」
「それはそれは」
それを聞いたトトトゥーナはテーブルに絵本を置いた。
「ムイも最初竜の姿で迫ってきたの。あのとき食べられると思ったの」
立ち上がったムイフレスは、自然の流れでトトトゥーナを抱き抱えた。
「悪かった」
ムイフレスはギットレイドを見る。
「俺みたいに竜化はするなよ」
「善処します」




