第89話
子供たちはアップルパイを食べ終わると、荒らされたものを片付ける。
「院長」
女の子がひっくり返っている椅子を元に戻すカーターに声をかけた。
「もし今度貴族様が妾目的できたのなら、私を紹介して下さい」
カーターは眉を寄せる。
「その意味分かっているんですか?」
「はい」
「理由を聞いても?」
「いい暮らしがしたいんです」
カーターは悲痛な顔をする。
「分かりました」
「ありがとうございます」
女の子は頭を下げて片付けに戻っていく。
カーターは椅子に座り肩を落とす。
コゼットはカーターの肩に手を触れる。
「それが願いなら、あたしたちは見守るしかないさね」
「そうですね」
カーターはフッと笑う。
「あなたがまだ子供のとき、里親が現れたのに、泣きながら断りましたね。私がいくら説得しようとしても」
コゼットは目線を下げる。
「院長と離れたくなかったさね」
「前院長にべったりでしたね。口癖が移るほど」
「そうさね」
「コゼットちゃんは院長のことが好きなんだよ」
カーターとコゼットを遠巻きで見ていた子供たちが、ひっくり返っている椅子を元に戻しているトトトゥーナにひっそりと教えた。
トトトゥーナは耳を傾ける。
子供たちはクスクス笑う。
「有角人って人族より長生きだよね? 三百年ぐらい?」
「四百年じゃなかった?」
「人族のコゼットちゃんすぐ死んじゃうじゃん」
「そもそもコゼットちゃん人族なの? 捨てられていて、院長が名前を付けたみたいだけど」
「馬鹿だな。寿命が違うなら、魂の儀式をするんだよ。そしたら寿命が長い方と同じに寿命になるんだから」
トトトゥーナは驚いて、突っ立っているムイフレスを見る。
「そんな儀式があるの?」
「ああ。人族同士はあまりやらないが、長命種が短命種を番やパートナーにするときにやることが多いな」
「どうやってやるの?」
「長命種が魔力で短命種ごと包み込むんだ。繭のようにな」
「飲まず食わずなの?」
「そうだな。だが魔力の繭になっている間は中で眠りについているようだから、気にならないらしい」
「それで起きたら同じ寿命になっているの?」
ムイフレスはああ、と答える。
子供たちは初めて聞いた様子だった。
「元々は竜と人族が神に夫婦になるのを望んだことから伝わった儀式らしいな」
「そうなの?」
「人柱にされた娘が竜に気に入られて、神に夫婦になることを望み、神は魂の儀式を教えたとされている」
「絵本にもなっているよね」
「“竜と乙女”だよね」
「私それ好き」
「あたしも」
子供たちはきゃっきゃっと笑う。
「ムイも知っているの?」
「ああ。有名だからな」
「そんなに人気なの?」
「ああ。何せ著者はその竜らしいからな」
トトトゥーナは驚いた。ムイフレスはフッと笑い、抱き抱えて額にキスをした。




