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第87話

物乞いの孤児だった。

ロキフェルドを生んだ母親の人族はすでに死んでおり、一人ぼっちだった。

トトトゥーナはそんな彼を天界に連れて帰った。

小さかった体は百年かけて大きくなり、それと同時にトラベルメーカになっていった。

トトトゥーナの母親である女神に嫌がらせをされたのならその百倍にして返していた。

人を唆すのが大好きで、それに対して物乞いだったときの擦り切れてボロボロな毛布をいつも大事そうに持っていた。

今も持っているのだろうか。

トトトゥーナは不安げに目線を下げているシグレを見る。

ロキフェルドは天界にいると き女神たちに人気があった。

だが気に入らなければ側に置くことはなかった。

シグレの不安は杞憂に過ぎないのだ。

「ロキフェルドのこと、好き?」

シグレは恥ずかしそうに頷く。

「あの人は、子供のときに会いにきてくれたんです。大きくなったら私をお嫁さんにする、と。今のあの人はそのことを忘れているかもしれませんが」

「きっと火炙りされているのと、ボクの問題が重なったの。それで助けるのが遅くなったの」

恋人に裏切られて邪神になったトトトゥーナを止めることで、シグレが火炙りになったのを助けるのが遅れてしまったのだろう。

唆すのが大好きでも、いたぶるのが好きという訳ではないのだ。

「ごめんねなの。ボクのせいで」

シグレは首を振る。

「ママから言われていたんです。私たち魔女一族は人族に見つかれば殺されるって。それなのに私は人族を招き入れてしまったんです。お姉様は何も悪くありません。私がいけなかったんです」

「ロキはどうしてボクのことを知ったの?」

暗にこの世界にいるボクを、と。

「ロキフェルド様は私をほとんどの力を使って助けた後は長い眠りにつきました。私は運良くカリー様のお手伝いをさせてもらえたんです。その中でお姉様がここにいると知ったんです。それを起きたロキフェルド様にお伝えしたんです。ロキフェルド様は私のことを覚えてなかったんですが、お姉様のことは覚えていました」

「カリー様か……あのお方は適当な所があるけど、奥様に一途なの。ボクの父親と違って」

「カリー様と奥様には随分とお世話になりました」

思い出したのか、シグレは穏やかに笑う。

シグレは何もない所から鈴を取り出すと、それをムイフレスに差し出した。

眉を寄せたムイフレスに、シグレは言う。

「ロキフェルド様がご迷惑をかけたときにこれを鳴らして下さい。私が止めますので」

鈴を受け取ったムイフレスは亜空間に放り込んだ。

「では皆様さようなら」

頭を下げたシグレの姿が消えた。

「とんでもない弟さんですね」

エドモントが感想を述べた。

「まあ、そうなの」

トトトゥーナも同意した。

「ですが、エマーマは実際に毒を入れた訳なので、殺人未遂でしょうね。それにしても即効性の毒を買おうとしていたなんて」

深い溜息をついたエドモントはトトトゥーナに頭を下げた。

「職員が申し訳ありませんでした」

トトトゥーナ は頭を上げるように促す。頭を上げたエドモントに、トトトゥーナはにこりと笑った。

「カリンたち。販売許可証なくても花を売っていたけと、そこんとこ見逃してほしいの」

エドモントは苦笑った。

「分かりました。見逃しましょう」

「ありがとうなの!」

喜ぶトトトゥーナはふとムイフレスを見た。

ぶすっとしていることにトトトゥーナは眉を下げる。

「ムイ」

「気にしないでくれ。自分の中で折り合いをつけているだけだ」

「ムイ。ボクのお願いを聞いてくれてありがとうなの」

ちゅっとムイフレスの頬にキスをした。

ムイフレスは目を丸くしたのだった。

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