第84話
ノックされる。
エドモントが入る許可を出すと、職員が二人の女性を連れてきた。
「アンズが紅茶を入れて、エマーマが運んできました」
魔方陣が浮かび上がっている瞳でムイフレスは二人を見る。
「エマーマ。お前だな? 鑑定でお前が紅茶にエッサ草の毒を混入したと出ている」
エドモントはエマーマを見る。
「エマーマ! どうしてそんなことを!」
エマーマはうっとりとする。
「初めて名前を呼んでくれましたね。ムイフレス様」
ムイフレスは眉を寄せ、トトトゥーナはムイフレスに抱きつく。そんなトトトゥーナにムイフレスは嬉しそうな顔をして抱き締め返す。
そんな二人の仲を見たエマーマは悔しそうに髪の毛を掻きむしる。
エドモントは察した。
エマーマはムイフレスに惚れていると。
だがこんなことをするとは思わなかったエドモントは、エマーマに眉を下げた。
「エッサ草の毒は何処から?」
髪の毛を掻きむしったエマーマは、エドモントを見た。
「冒険者が薬草の依頼でエッサ草が混ざっていたんです。それを見たら、ムイフレス様の番に飲ませたくなったんです。即効性じゃないけど、死ぬかなって。そしたら私のこと見てくれるかなって」
「御託はいい。死ね」
手を伸ばしたムイフレスの手をトトトゥーナは掴んだ。魔方陣を構築してエマーマを殺しかねないムイフレスにトトトゥーナは止めようとする。
「ムイ。ボクは──」
「待って下さい! エマーマは内気な子で、こんな恐ろしいことを考える子じゃないんです!」
アンズは悲痛な顔で訴える。
「エマーマ。あなた、誰かに唆されたんじゃないの!? このままだと殺されちゃうよ!」
エマーマは眉を寄せ、耳を押さえる。
「男の人が、私に言ったの。エッサ草の毒を飲ませたらどうだろうって。今も私に囁いてる」
トトトゥーナはエマーマに体を向けた。
「隠れている者よ。姿を見せよ」
口元に手を添えてエマーマに息を吹きかけた。
群青色の髪が露わになり、黄金の瞳をした男性がエマーマの耳元で囁いていた。
トトトゥーナたちは目見開く。さすがのムイフレスも眉を寄せた。
注目が己にあると察した男性はエマーマに囁くのをやめた。
「ロキフェルド。どうしてここに?」
トトトゥーナは名前を口にした。皆の注目がトトトゥーナに向けられる。
ロキフェルドはにっこりと笑った。
「やあやあ。久しぶりだね、トトトゥーナ」
「エマーマを唆したの?」
「トトトゥーナの番に恋心を抱いていたからね。ちょっと囁いたら毒を入れてるの。それでトトトゥーナが死んでもトトトゥーナの番が見てくれる訳ないのに、馬鹿だよね」
ロキフェルドはアハハと笑い、自分しか笑っていないことに気がつくと笑うのをやめた。
「君は、誰だ?」
エドモントが得体の知れないロキフェルドに質問する。ロキフェルドはにっこりと笑う。
「ロキフェルド。そう、ロキフェルドと呼んでね。エドモント・ルッピク君」
名前を知っていることと子供扱いに、エドモントは眉を寄せる。
「ロキフェルド。どうしているの?」
この世界に、とトトトゥーナは小さく呟くのだった。




