第62話
工房から飛び出したリクは、当てもなく歩いていた。
ふと黒ずくめたちが路地裏に入るのを目にすると、好奇心が湧いて後を追った。
「一つは邪魔されたが、もう一つの生贄は順調だ」
「ああ、大丈夫だ。金目のものを奪っておいた。単なる蒸発だと思われるだろう」
リクは唾を飲み込み、静かに路地裏から出ると、あまりの恐怖に嘔吐した。
「大丈夫ですか?」
声をかけられリクは驚く。
「どうしましたか?」
声をかけたのはステラだった。
リクは美しいステラに見惚れたが、ハッとした。
「警備兵に伝えないと」
「私は騎士だが、どうした?」
エルアーノがリクに歩み寄ってきた。
リクはどこかホッとして、先程の黒ずくめたちの会話を伝えた。
「そ、そんなっ」
ステラは顔を青ざめる。
「わたし以外に生贄がいたなんてっ」
「えっ!?」
リクはステラの発言に目を丸くする。
「エルアーノさん! 早く助けないと!」
「まあ落ち着けステラ。闇雲に突っ走っても意味はない。まずは隊長であるベルベルトに報告しよう」
「でも──」
「だから落ち着けステラ。落ち着くんだって、アクセル? アクセル!?」
アクセルの姿がないことにエルアーノは慌てた。
「ア、アクセルがいないっ! いないっいないっ!」
「お、落ち着いて下さいエルアーノさん」
「落ち着いていられるか! アクセルがいなくなったんだぞ!」
ステラは辺りを見回して、噴水広場に白髪の頭部の姿を発見し、指を指した。
「あ、あそこにいます!」
エルアーノは指を指す方向に顔を向けると、白髪の頭部を見てホッとし、慌てて駆けていった。
ステラも後を追いかけていき、残されたリクも訳が分からないまま二人の後を追いかけていった。
「アクセル!」
白髪の頭部を見ながらエルアーノが声をかけると、振り向いたのはアクセルではなかった。
青い羽の飾りを付けている男性の瞳は、灰色と灰灰色のオッドアイで、ハッとするエルアーノににこりと笑う。
「彼はあそこだよ」
指を指す方向にエルアーノは見ると、噴水の水に手を入れているアクセルを見る。
「アクセル!」
アクセルは顔を上げる。
「エル」
エルアーノはアクセルに駆け寄る。ステラとリクも追いついて、アクセルを見た。
「アクセル! 駄目じゃないか離れたら!」
アクセルは噴水の水を手ですくって飲もうとするのをエルアーノは慌てて止めた。
「そうか。喉が渇いていたんだな。気づいてやれず、すまないアクセル」
アクセルが見つかったことにホッとしたステラは、男性の視線に気がつき、見上げた。
男性はにこりと笑う。
「ありがとうございました」
「いえいえ。ではまた」
立ち去っていく男性にステラは怪訝な顔をした。
「“また”?」
「どうしたステラ?」
「今の人に“また”って言われました」
「トーマ」
アクセルが名前を口に出した。
「アクセル。さっきの人の名前か?」
「トーマ」
アクセルは噴水の水を手ですくって飲もうとしたので、エルアーノは慌てて止めた。
「だから飲んじゃ駄目だって!」
「こんな場所にいたの」
トトトゥーナを抱き抱えているムイフレスとマシューがやってきた。
リクはムイフレスたちを見て気まずいた顔になった。
マシューはリクの存在に気がつく。
「リク。どうして姉ちゃんたちといるんだ?」
「それは」
リクエルアーノを見る。アクセルからリクに顔を向けたエルアーノはハッとしてムイフレスを見た。
そしてリクが伝えたことをムイフレスに報告する。
「邪神教の可能性が高いな」
「どうする? 森を捜索するか?」
「闇雲に捜索しても時間がかかる」
「ではどうする?」
「妖精に聞こう」
「妖精の知り合いなんていたか?」
そこでエルアーノはハッとした。
「リデルエリエーゼ」
ムイフレスはそうだ、と答えた。




