第61話
「おじさん。えーっとおじさん?」
トトトゥーナは丸々とした男性を呼ぶ。
丸々とした男性はトトトゥーナを見る。
「何ですか?」
「クッキーで卵の黄身だけを使うと、軽い食感と濃厚なコクが生まれるの」
「へ?」
「濃い黄金色で贅沢でコクが際立つの」
「へ?」
丸々とした男性はしばらく呆然としていたが、ハッとした。
「私に教えてよかったんですか!?」
「商人ギルドには登録してあるけど、これも何かの縁なの。レシピ使用料は儲けが出てからでいいの」
丸々とした男性は涙ぐむ。
「あり、ありがとうございます!」
「それなら一緒に置いてもよさそうだな」
ドルトがそう言えば、丸々とした男性は飛び上がって喜んだ。
そしてトトトゥーナに自己紹介をした。
「この恩は忘れません! 私はモリス・ランリーです。お名前はおっと、大丈夫です」
ムイフレスに睨まれて、モリスは口を閉ざした。
「では私はお先に失礼させて頂きます。ドルト様後日贅沢でコクのあるクッキーをお持ち致しますので、その際はよろしくお願いします」
「あ。モリスさん」
立ち去ろうとしたモリスをトトトゥーナは呼び止めた。
「はい。何でしょうか?」
「黄身だけにすると、非常に崩れやすくなっているの」
「そうなのですか。ご指摘ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げて、最後にドルトにぺこりと頭を下げて立ち去っていった。
「よかったのか?」
ドルトの問いかけに、トトトゥーナは頷く。
「だってあのままだったら、首を吊りかねないの」
「まあ、そうだな」
肯定し、息を吐いた。
「お前さんがいいなら俺は何も言わないが。それじゃあ契約書にサインしてくれるか?」
「サインはマシューなの」
マシューは返事をして前に出ると、リクが驚いた。
「大事な契約書なのにマシューが!?」
「おおう。商人ギルドで売り込みにいったときも契約書にサインしたのはオレだぞ」
「おれなんて二年もいるのにやるのは掃除だけ。馬鹿みたいだ」
それを聞いてドルトは顔を歪める。
「掃除を馬鹿にするんじゃねえよ」
「おれが孤児院の出身だから、掃除しかやらせてくれないんだろ!? こんな場所辞めてやる!!」
「何だと!? リク!」
部屋から飛び出していったリクに、ドルトは深い溜息をついた。
「追いかけなくていいの?」
「遅かれ早かれこうなっていただろうさ」
「あの。どうしてあいつに掃除だけしかやらせていなかったんですか? 孤児院の出身だからですか?」
「孤児院は関係ねえよ。あいつには道具の大切さを分かってほしかったんだ。それに接客を通して人を学んでほしかった。宝石工房はただ作るだけてはなく、客のイメージに合ったものも作るからな。あいつには俺の右腕になってもらいたかったんだよ」
「どうしてそれを伝えなかったの? 伝えていたらきっと変わっていたの」
ドルトは首を振る。
「全ては手遅れだ。俺はあいつにとっての親父にはなれなかったって訳だ」
どこか寂しく心を痛んでいた。
「契約書を早く用意しろ」
ムイフレスは興味がなさそうに言うのだった。




