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第60話

工房の中は、様々な道具が整然と並んでいる。

ペンチ、ヤスリ、ハンマーなどがすぐに手に取れるよう、壁一面に整理されている。

四十人はいるであろう職人は、机に向かって作業している。

リクはトトトゥーナたちを応接室に案内した。

ノックをして開けると、背の高い男性と商人ギルドで怒り散らしていた丸々とした男性がいた。

背の高い男性はリクに顔を向ける。

「おい、坊。今客人がきているんだ」

「この人たちもお菓子の売り込みです。一緒に見たらどうですか?」

それを聞いた丸々とした男性が反論する。

「それはなしですよ!」

「お前も飛び込みできたじゃねえか。一緒だろ」

「そんな!」

背の高い男性はトトトゥーナを抱き抱えているムイフレスが中に入ってくると、笑った。

「誰かと思ったらムイフレスじゃねえか!

しばらく酒場にこねえかと思ったら、番を見つけたんだな」

「ああ。俺の命だ」

ムイフレスはトトトゥーナの額にキスをする。

「トゥ。宝石工房の親方のドルト・ドルンだ。まあ覚えなくて大丈夫だが」

「酷いな」

ドルトは大笑う。

いつまで経っても紹介されないので、トトトゥーナは自己紹介した。

「トトトゥーナなの」

「おおそうかそうか。それにしてもよかったなぁムイフレス。で? いつから商人になったんだ?」

「色々あってな。で、食え」

ムイフレスはマシューに目をやり、促すとマシューは慌ててメレンゲクッキーの試食品をドルトに差し出した。

ドルトは受け取り、口に運んだ。

目を丸くし、ムイフレスを見る。

「これは何だ?」

「五個入りで五百ルンだ」

「とりあえず一年だ。一年契約してやる」

丸々とした男性が慌てて待ったをかける。

「ちょっと待ってくれ! 待って下さい! こんなのあんまりです! 最初に声をかけたのは私ではないですか!」

ドルトは頭を掻く。

「いい商品を選ぶのは当たり前じゃないか。お前のは新しいお菓子でもないし」

「それは……そうですが……」

「そもそもお前は毛皮を扱ってなかったか? 毛皮どうしたんだよ?」

「それは……」

「弟子に金目のもの持って蒸発されたか?」

「どうしてそれを!?」

「一番されたくないことを言ったんだが、そうだったのか」

「うっ……はい実はそうなんです。クッキーを持ってきたのも、置く場所を探している主婦が持ってこられまして、場所を見つけたら報酬を頂くことになっているんです。普段なら受けない案件なんですが、そうは言ってられないぐらいなんです」

丸々とした男性は涙ぐむ。

「まさか一番弟子だったあいつがこんな真似をするなんて、思ってもいませんでした」

ドルトは頬を掻く。

「だがなぁ。普通のクッキーだからなぁ。俺が甘いもんに目がないからか、弟子たちも甘いもんが好きなんだよ。前に普通のクッキーを休憩時間に食べられるようにしていたら、ストライキを起こしやがったんだよ」

「ストライキ……」

丸々とした男性は肩を落とした。

自分が持ってきたものは主婦が作った普通のクッキーだと分かりきっているからだ。これを休憩時間に置いたら、ストライキを起こすのが目に見えている。

「悪いな」

「いえ。大丈夫です」

大丈夫ではないことが誰から見ても明らかである。

トトトゥーナはムイフレスを見た。

「黄身を使ったクッキー、教えてもいい?」

「トゥがそう望むなら、俺は止めないよ」

ちゅっとムイフレスはトトトゥーナの額にキスをした。

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