第36
「いやいやさすがにまずいだろう。辺境伯家のご令嬢だよ。いくら我が儘嬢でも」
慌てるギットレイドにムイフレスは興味なさそうに答える。
「知るか」
「フレス! それにベッドごと一緒に転移して。飢えた男が裸の我が儘嬢を見たら襲いかかるぞ? それにベッドどうするんだ?」
「知るか。ベッドがなければトゥが俺を待つ番の部屋で寝ればいい」
ギットレイドは溜息をつく。
「何処に転移したんだ? 様子でも見ておく」
「さあな? その辺だ。お前が気にすることはないだろう」
「そう言っておけんだろう」
また溜息をついて、部屋から出ていった。
ムイフレスは鼻を鳴らした。
「ムイ」
「どうした?」
「ボク。本当はソフィアのことを心配しなくちゃいけないのに。心配したくないの」
眉を下げるトトトゥーナの体をムイフレスは翼でそっと包み込む。
「気にすることない。トゥは幸せなことだけを見ていればいいんだ」
「幸せなこと?」
「幸せなことだけをトゥに見せたい」
「ボク。ボク。幸せだよ?」
「そうか。それならよかった」
ムイフレスはホッとする。
「ねえ。そういえば、グレンアーグとかルパートとか、どうなったの?」
男の名前にムイフレスは嫌そうな顔をする。
「教えてなの」
番の願いを叶えるムイフレスの性質をトトトゥーナは使う。実際に嫌そうな顔をしていたムイフレスは答える。
「グレンアーグは面倒だから番を見つけて退団したことになっている。そもそも死体が動いているしな。ルパートはそういう訳で殺害犯ではなく規律違反で除隊になった。だがルパートの番にはグレンアーグを殺害したと伝え、駐屯所から出ていってもらった」
「そっか。でもどうしてルパートはグレンアーグを殺したの?」
「番がグレンアーグに好意を寄せていたらしい」
トトトゥーナは目を丸くする。
「番なのに、どうしてなの?」
「確かに番だが、ルパートの番は番が分からない人族なんだ」
トトトゥーナは視線を落とす。
「ボクも。ボクもムイフレスが番だと分からなかったの」
「俺が分かっている」
トトトゥーナは視線をムイフレスに向ける。
「ムイフレスは、番がボクでよかったの?」
「トゥが番を分からなくても、何も心配することはない。トゥが何者でも愛しているよ」
「ボク。ボクは、怖い。怖いの。怖いの。ボクは。ムイ。ボクは怖い。ムイを信じたいの。でも、怖いの」
「分かっている。それでも俺はトゥを愛しているよ」




