第30話
「グレンアーグはきていないぞ」
ムイフレスは眉を寄せる。
「勝手に持ち場を離れたのか?」
ギットレイドは溜息をつく。
「まあ、一応訓練だから、本番と違ってねぇ。本番だったら大問題だけど、まあ訓練だからねぇ」
エルアーノは胸元に手を押さえる。
「何だが胸騒ぎがする」
レオンが怖ず怖ずと言う。
「でも先輩は竜人ですよね? そう簡単にやられませんよ」
「私もそう思います。先輩飄々としているけど、やるときはやるみたいな人だから、心配いりませんよ」
ロズもエルアーノを安心させようとする。
「だが、それなら何故いない? あいつはああ見えてちゃんとする奴だ。飄々とするが、切り替えはちゃんとできる奴なんだ。先に帰るなんて、まだ森の中にいる。いるはずだ」
パンパンとムイフレスは手を叩いた。
話すのをやめてムイフレスに注目する。
「とりあえず俺を中心に広がれ。何があれば大声で知らせろ」
ムイフレスはトトトゥーナを抱き抱えた。
トトトゥーナはムイフレスの首に手を回す。
「ムイ。ボク。部外者だけど、グレンアーグを捜すのを手伝いたいの」
「トゥの仕事じゃない」
「駄目? ボク。捜したいの」
「分かった。だが森は危険だ」
トトトゥーナはエルアーノを見る。
「グレンアーグの物とか、触った物とか、ある?」
エルアーノは自分の体を探る。
「これはどうだ? 返すのを忘れていたハンカチだ」
トトトゥーナはムイフレスに下ろしてもらえるようにお願いする。お願いをすれば聞いてもらえると学習したのだ。
下ろしてもらえることに成功したトトトゥーナは、エルアーノからハンカチを受け取る。
「グレンアーグに届きますように」
ハンカチに息を吹きかけた。
手を離すとハンカチが飛んでいく。
ムイフレスたちは驚きながらも、ひらひら飛んでいくハンカチを追いかけた。
「何で飛んでいくんですか?」
レオンが不思議そうにトトトゥーナに尋ねる。
トトトゥーナは困った顔で頬を掻く。
「おまじないというか」
鼻歌が聞こえた。
ハンカチは、ひらりと鼻歌を歌っている夜の妖精の前に落ちた。
「ん? 何かしら?」
振り向いた夜の妖精は、ムイフレスたちに気がついた。
「こんにちは」




