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第29話

竜人は卵で生まれてくる。

同時に二個生むことはたまにあり、同じ卵の中から生まれるのは稀である。

グレンアーグとエルアーノは稀だった。

双子には不思議な繋がりがあると言われるが、グレンアーグとエルアーノも不思議な繋がりを持っていた。それは半身のごとく。

底無し沼に嵌まったルパートに、グレンアーグは語っていた。

「お前がエルアーノを捨てたとき、俺は何だか、絶望を感じたんだ」

ルパートは必死に底無し沼から這い上がろうと踠く。

「グレンアーグ!」

必死に手を伸ばすが、グレンアーグは突っ立ったままで手を取ろうとしない。

「グレンアーグ!」

「俺が絶望を感じてエルアーノを訪ねると、首を吊ろうと縄を手に持っていた。絶望したね。今まさに自殺しようとしていたんだから」

「エルアーノが最初に言ったんだ! 番を探している俺に、番が見つかるまでだと! エルアーノが言ったんだ!」

体が沈み、ルパートは必死にグレンアーグに手を伸ばす。

「結婚だって、俺は乗り気じゃなかった! エルアーノが勝手に進めたんだ!」

「結局はお前も同意したんだろう?」

「したさ! だって俺に尽くそうと健気だったから! 俺に料理を食べさせようとして料理を焦がして泣いて! 普段は男勝りなのにさ!」

「エルアーノは料理が苦手さ。それにああ見えて可愛い物が好きで、フリフリやレースも好きなぐらい、知ってるさーあ」

グレンアーグは手を伸ばし、ルパートの手を掴んだ。

「見捨てるわーけないだーろう?」

底無し沼から引き上げられるルパートはホッとする。

「このまま見捨てられるかと思いましたよ」

魔方陣を構築して手の中に短剣を握りしめ、目を見開くグレンアーグの胸元に突き刺した。

底無し沼に倒れ込むグレンアーグは、必死の思いで地面に這い上がったルパートを見る。

ルパートは振り返る。底無し沼に沈むグレンアーグに、笑う。

「ハハハ。これで番は俺を、俺だけを見てくれる」

一粒の涙を流した。


「あれ? グレンアーグ先輩は?」

泥だらけになっているレオンが不思議そうに同じように泥だらけになっているルパートに尋ねる。

「お前たちが戻ってくるのが遅いから、先に隊長の所に行ったよ」

ロズがレオンに呆れた目線を向ける。

「レオンが沼に嵌まるのが悪い」

「何だと! お前だって沼に嵌まりそうになってたじゃないか!」

「でも嵌まってないもんね!」

「あれ? グレンアーグはどうしたんだ?」

遅れてやってきたギットレイドがグレンアーグがいないことに不思議がる。

ロズが言う。聞いたギットレイドは溜息をついた。

「いくら訓練でも勝手に行動するとは」

ジロリとギットレイドはルパートを睨みつけた。

「勝手な行動を許したのか?」

「すみません。隊長なら許してくれるだろうと言って」

溜息をつくギットレイドは、泥だらけになっているルパート姿に眉を寄せた。

「沼に嵌まったのか?」

「え?あ、はい」

「待機中に何かあったか?」

「いえ。ありません。そちらはどうでしたか?」

ギットレイドは首を振る。

「隊長たちの所へ戻るか」

ルパートと新人二人は同時に返事をした。


鼻歌交じりに軽やかに少女が踊っていた。

彼女は夜の妖精だった。

それでいて、髪も眉も睫毛も肌も白かった。

夜の妖精でありながら、彼女は夜色を持ってはいなかった。異分子であった。

黒い服装でますます白さが際立っていた。

「ん?」

夜の妖精は底無し沼に何か沈んでいるのを見つける。

指を動かし赤い糸を張り巡らし、それを引きずり上げた。

「死体だわ」

それを地面まで引きずり上げる。

糸を消して、ポンッと手を叩く。

「そうだわ! これをお人形にして、アリーにプレゼントしましょう」

夜の妖精は笑う。

その笑みは、美しかった。

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