第19話
「なめらかなスープ。プンクリン。それからマヨネーズ。私は感動した。感動したとも。そして確信した。黒髪の君ならば、美味しいパンが作れると」
「勝手に感動すればいい。だが、トゥを巻き込むな。お前はいつもそうやって首を突っ込む。巻き込まれるこっちの身にもなってくれ」
「もしアリサが聖女になったとして、恩を今から売ってもいいのではないか?」
「聖女になるとは決まっていない」
「私は美味しいパンが食べたいのだ!」
「本音はそれか」
鼻を鳴らすムイフレスは呆れ返る。ギットレイドは、それに、と続ける。
「エルアーノもパンが好きだ」
ムイフレスは眉を寄せた。
「別の班を勧めたが、断られた。班にとって貴重な回復要員だが、ルパートと一緒では辛かろう。だが断られた以上、見守るしかないだろう」
トトトゥーナ は内心驚いた。エルアーノのことをムイフレスは考えていないようで考えていたのだ。
「確かに番に出会うのは至極の喜びだ。だが今までのパートナーを捨てていいことではない。況して結婚式が迫っていたというのに」
「二人でブーケの花を決めようと出向いた花屋で、ルパートの番がいたらしい。つまりエルアーノは、ルパートが番に落ちた瞬間立ち会ったことになるな」
ギットレイドは泣いた。トトトゥーナも聞いて、泣きそうになる。
ムイフレスは泣きそうになるトトトゥーナに気がついて額にキスをする。
「番ってそんなに強制的なの?」
「そんなことはない。パートナーがいれば、パートナーを選ぶことだってある。ルパートが番を選んだのは、それはルパートだからだ」
「ボク。エルアーノのために、美味しいパンを作るの」
「そうか!」
嬉しそうにギットレイドが答える。
「黒髪の君ならば、そう言ってくれると思ったよ! ては行こう!」
「今からなの?」
「早い方がいいだろう?」
「美味しいパンを作るには、時間がかかるの。酵母菌って知ってる? パンには欠かせないものなの」
ギットレイドは首を振り、涙を手で拭う。
「知らないな。菌が必要なのか」
「それを作ってからパンを作った方がいいの」
「ではその方法を教えてもらえるかな?」
「エルアーノなんか放っておけばいい。トゥはこれから私と一緒に寝るんだ」
ギットレイドを手で追い払うムイフレスにトトトゥーナは眉を下げる。
「ムイ。ボク。エルアーノのために美味しいパンを食べさせてあげたいの」
「なら一緒に風呂に入ってくれるか?」
「それは話が違うと思うの」




