第126話
「ギィ?」
孤児院の玄関を箒で掃いていたニヴェスは、ギットレイドに気がつく。
「あの子が有翼人の番でありますか?」
「そこまで調べているんですね」
ニヴェスはギットレイドの前まで駆けていき、見知らないハロルドたちを見る。
「あたし、ニヴェス・エヴァーホワイトだ。あなたたちはギィの知り合いか?」
ギットレイドはニヴェスを抱き抱えようとし手を伸ばすが、するりと逃げられる。
「自分はギットレイドの母親であります」
ニヴェスは目を丸くして、箒を落としそうになる。
「初めまして。母上殿。お会いできて嬉しく思う」
ニヴェスはマージョリーを抱き抱えているハアシュカを見る。
「あなたは父上殿だな。よろしくどうぞ」
ハアシュカはにっこりと笑う。
「君の名前は竜人族の古代語で近い言葉は“可愛い”だね」
「そうか。ニヴェスは有翼人の古い言葉で“美しい羽”で、よく付けられる名前だった」
ハアシュカは悲痛な顔で黙った。その顔でニヴェスの里が襲撃されたことを知っていると窺えられる。
「院長はいるかしら?」
ハロルドの隣にいるクージュが声をかける。
ニヴェスは頷き、クージュは自己紹介をする。
「言い遅れたわね。私はクージュ。隣にいるのが私の番のハロルド・アレキサンドリアよ」
「アレキサンドリア? 彼はアレキサンドリアなのか?」
「ええ。それがどうかして?」
「昔。うーんと昔だ。アレキサンドリア一族が里にいたんだ」
クージュは目を丸くするハロルドを見た。
その様子から知らなかったのだろう。
「昔。あなたの里にいたのか?」
「うーんと昔だ。アレキサンドリアの若い長が、里に迷い込んできた聖女と恋仲になって、だが聖女は王都に行く途中でな。話し合って、長と一族は聖女についていったんだ。まさかまたアレキサンドリア一族に会えるとは思わなかった」
「アレキサンドリアは元々は流浪の民だとは聞いたことはあったが、まさか有翼人の里にいたとは知らなんだ」
「うーんと昔だ。一族は元気か?」
「ほとんど騎士になっているよ」
「そうか。聖女と結ばれたか?」
「そこは分からないな。私が知る限り聖女様と結ばれたアレキサンドリアは知らない」
「まあ、うーんと昔だからな」
「そんな昔なのに、よく覚えていたね?」
「あたしの血にアレキサンドリアの血が流れているからな。昔から有翼人は血をそうやって薄めてきたんだ。血が濃いと魔晶人のように滅ぶからな」
「あなた。魔晶人のこと知っていて?」
「有翼人も有翼人同士しか結婚を認められなかったが、魔晶人が血が濃いため赤ん坊が育たないと聞いてな。だから血を薄めたんだ。あたしの血は有角人の血も流れているぞ。ときには旅人の血も歓迎された。魔晶人は兄妹で夫婦は珍しいことじゃないからな」
「鳥ちゃん。掃除は終わりましたか?」
カーターが玄関から顔を出した。
ハアシュカとクージュの姿を見て、慌てて頭を垂れるのだった。




